3月11日に『南三陸日記』『女たちの避難所』『想像ラジオ』

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具体的に思い出すこと、具体的に知ることが大事だと思うのです。どうしても、「あの日を忘れない」「復興を祈ります」のような、テンプレ的な言葉をつぶやいて片づけてしまいそうになってしまうけど。亡くなった人の理不尽。生き残った人の苦しみ。それらがどんなものか、具体的に想像しなければ、心を寄せることはできないものです。その助けになる3冊を紹介します。
心を寄せるのは、彼らのためだけではありません。私たちは明日の被災者になりうるのですから。
 

◆1.『南三陸日記』 三浦英之

南三陸日記 (集英社文庫)

震災の2日後から18日間、被災地を取材した記者が、5月から正式に赴任し、1年間にわたって南三陸市に暮らし、人々の生活を追い続けた記録。3月11日、婚姻届を提出しに石巻市役所に行って震災に遭い、津波で亡くなった奥田智史さん。その妻・江利香さんのお腹にいて、7月11日に生まれた赤ちゃんの7年後の姿が、表紙の少女だ。
 

「あの日の前夜、智史さんは照れながら言った。
「明日から夫婦なんだなあ」
 当日、激震の直後にメールが入った。
 「大丈夫?」
 すぐに返信した。
 「大丈夫」
 それが最後のやりとりになった。
 翌日、津波が残した水たまりの中で智史さんの遺体が見つかった。
 江利香さんは私に言った。(中略)
 「本当は、つらくて何度も死のうと考えました。でもそのたびに、おなかの子が『生きよう、生きよう』って蹴るんです」

「遺体はどれも一カ所に寄せ集められたように折り重なっていた。リボンを結んだ小さな頭が泥の中に顔をうずめている。遺体は魚の腹のように白く、ぬれた布団のように膨れ上がっている。涙があふれて止まらない。隣で消防団員も号泣していた」

「被災地では時計の多くが地震の起きた午後二時四六分ではなく、午後三時二〇分前後で止まっている。津波が押し寄せた時間。多くの命が奪われたのは地震発生の直後ではなく、約三〇分後のことなのだ」

 

ひとつひとつのコラムが見開き2ページ+見開き写真 と、とても短いので、小学生以上ならお子さんとも一緒に読めます。
少しずつ読むのにおすすめ。
すべてを読み通さなくても、いくつかだけでもいいと思います。
日本の一家に一冊、といいたいくらいの本です。
 
Twitterをやっている人は、著者の三浦さんのアカウントもおすすめ。今は、原発のあった町の取材をWEB連載しています。本物の記者です。
 
 

◆2.『女たちの避難所』 垣谷美雨

女たちの避難所 (新潮文庫)

 
“衝撃の震災小説”というフレーズで紹介されている。
津波のあと、相互監視の目が光り、男尊女卑がはびこる避難所。
 
九死に一生津波から助かった55歳の元保育士 福子は、避難所の惨状に怒り、やがてリーダーになる。津波で死んでくれてせいせいしたと思っていたモラハラ気質の夫は生きていて‥‥。
 
津波で夫を亡くし乳飲み子を抱えた遠乃は避難所で襲われかけ、生き残った舅のパワハラに悩まされたあげく、むりやり義兄の妻にされそうになる。
女手ひとつで息子を育てる渚は、息子が小学校から行方不明になったことを知り半狂乱になる。息子は数日後に見つかったが、不登校になる。渚もまた、震災前にスナックを営んでいたことで避難所でも差別的な目で見られる。
 
避難所や仮設住宅で男性に依存され踏みにじられながら声を上げられず、みずからも男性優位の構造を刷り込まれ、互いに牽制し合う女性たちの姿は、現代日本が抱える問題を鮮明にする。
震災の小説であり、震災後の現実の小説であり、地域社会や家庭生活の小説であり、女性たちの受難と連帯の小説でもある。
 
『82年生まれ、キム・ジヨン』もすごくよかったけど、日本にもこんなリアルなフェミニズム小説があります。読書会や勉強会のテーマ本にもおすすめ。
 
 

◆3.『想像ラジオ』 いとうせいこう

想像ラジオ (河出文庫)

 
いつか、震災を知らない世代が「私たちは無関係だから語る資格がない」と思わないようにこの小説を書いた。作者のいとうせいこうはそう語っている。
 
作者は小説の中で生きている登場人物たちに語らせる。
 
「亡くなった人が 無言で あの世に行ったと思うなよ」。
 

苦しみや恐怖、怒りや悔しさ、心残り。伝えたかったこと。彼らには山ほどあったはずだ。その声に耳を傾ける気がないなら、どんな行動をしても薄っぺらいものになるんじゃないか。

「死者と共にこの国を作り直して行くしかないのに、まるで何もなかったように事態にフタをしていく僕らはなんなんだ。この国はどうなっちゃったんだ。」

「亡くなった人はこの世にいないから、自分の人生を生きるべきだ。まったくそうだ。(中略)でも、本当にそれだけが正しい道だろうか。亡くなった人に声に時間をかけて耳を傾けて悲しんで悼んで、同時に少しずつ歩くんじゃないのか。死者と共に」

 

死者は願っている。
自分の声を聴いてもらうことを。
愛する人の声を聴くことを。
見つけてもらいたくて、とどまっている。
どこにも行けない。
死者と生者が目を凝らし、耳を傾き合えば、死者は自由になり、鳥のようにあちらとこちらを行き来することができるだろう‥‥。
大きな杉の木の上のほうの枝に引っかかった一人の男をDJに語られる、奇想天外な震災小説。
 
  以上3冊、いずれもおすすめです。