『人口で語る世界史』ポール・モーランド

「人類の長い歴史で「のどかな田園風景」などというものはついこの間まで存在しなかった。農繁期には幼い子を放置して働くもので、子どもは鶏に目を突かれたり、火の中に転げ落ちたり、たらいの水に溺れたり。18世紀にスペインで生まれた子の25~30%か1歳になる前に死んでいたといわれる。人々はみすぼらしい服をまとい、窓もベッドもない粗末な小屋で、老いも若きも病人も、時には死んだばかりの者まで並んで寝ていた。
地球上のいたるところに、貧しく不衛生な生活があった18世紀、世界の人口は10億以下だった。それが今や70億を超えている…。たった250年で、どうやって変化したのか? これからはどうなる?」

人口で語る世界史

日本と東アジアの章もあります。

日本はアジアで、そして有色人種で最初に人口が増えた国。江戸時代の中期から200年以上、日本の人口は3000万程度で横ばいでした。そのころ、嬰児殺しは「間引き」と呼ばれ、全出産のうち1割か2割を占めていたと言われています(←これは私の日本史の知識とも合致します)。
 
人口が増え始めたのは、ご想像のとおり明治期。どの国でも、人口の爆発的な増加は工業化や都市化、教育と関係があります。
 
まず、乳児死亡率が下がる。工業化以前は、どの国でも子どもの死はよくある悲劇で、次々に子どもを失うことも少なくなかった。これらは(今でいえば)ちょっとした給排水設備や食糧事情の改善で劇的に変化します(乳児死亡率が下がると当然、平均寿命も伸びます。)
 
国を問わず、昔の女性は6人、7人と出産するのがふつうでした。
その中で死ぬ子が減れば、当然、人口は増える。
妊娠可能な年齢の女性の母数が増えれば、
当然、次の世代も増えます。
 
第一次世界大戦とその後に流行った「スペイン風邪」で、世界中で5000万人もの人が死んだといわれるにもかかわらず、ヨーロッパでも北米でも人口は増え続けた‥‥というエピソードは驚きでした。
人口が増える時期とは、まるでネズミ算のようなものですね。
  
ではそのあとどうなるか?
これも日本が経験しているとおりですが、国に関係なく、ひとりの女性が産む子どもの数が減ることによって、人口はやがて減っていきます。
 
本書ではそれを

「女性が教育を受ければほぼ確実に出生率は下がる。教育を受けた女性が6人の7人の子を産むことは、個々のケースではあっても、社会全体のレベルでは起こらない」

と書いています。

誤解しないでくださいね。
個々のケースの良い悪いを論じる本ではありません。
また、女性の教育をマイナス評価する本でもありません。
昔は、避妊もできず、男性に従うしかない時代だったということです。
教育が行き届くことで、出産の数や時期に女性の意思が介在できるようになったのです。
 
工業化や教育が行き届く時期は国によって違うので
人口の増加→減少という波の満ち引きも国によって違う。
そのことが、戦争の結果や、世界の覇権にも大きな影響を及ぼしてきました。
 
ヨーロッパでは、いち早く人口を増やし、そして減り始めたイギリスが、猛追してくるドイツに怯えていました。
ドイツはロシアに怯え、実際に、ドイツの軍人が「ロシア兵は頭を切り落とすとそこに2つの頭が生えてくる」と言ったくらい、人口急増中のロシアの動員力はすさまじいものでした。
 
同時に、20世紀初めのヨーロッパでは、欧州内でのライバル国の人口減少を喜びつつも、白人全体の弱体化を恐れていました。
イングランドで年間25万しか人口が増えていないのに、当時の日本では年間70万人も増えていたのです。「黄禍論(Yellow Peril)」という言葉もありましたね。
 
しかし、その後の日本は
「史上もっとも速く高齢化の進んだ国」。
 
人口をすべて年齢順に並べたとき、真ん中にくる年齢を【 中央値 】といいます。
日本の中央値は現在46歳で、これはイタリア、ドイツとともに世界でもっとも高い。
スペインは43歳、
米国は38歳、
ギニアは18歳! アフリカは総じて若い。
 
個々の国や地域の固有の事情にも触れられ、現代日本については、
「先進国で最下位に近い男女格差」
「セックスや交際よりもひとりでできる娯楽を好む若者の増加」
「都市近郊の過疎化」
孤独死後の清掃事業の成長」
などが取り上げられています。
 
欧米もベストセラーになった本書。
世界の読者は、日本の現在をこのように正しく理解していくということですね。決して「日本バンザイ」だけではなく。
 
近未来の世界を人口という観点で見たとき
1.増加するグレー(高齢化)
2.増加するグリーン(環境にやさしい国へ)
3.減っていく白(白人の減少)
という三つの色での予測がなされています。
 
1.増加するグレー(高齢化)
 
世界の年齢中央値は
 20歳(1960年)
  ↓
 40歳超(2100年) に上がる。
 
若い社会とは人口増加中の社会で、往々にして混乱と暴力を引き起こしやすい。
第一次~二次大戦でヨーロッパ中が戦っていたころがそうだった。
今は中東と北アフリカがその最中にあり、今後はアフリカの人口増加がインパクトを与えるが、それも数十年のうちに収束。
全体では高齢化して、平和で順法精神にのっとった社会になるのではないか。
 
一方で、高齢化した社会からは活力や革新性が失われる傾向にある。
「投資ひとつをとっても、高齢者は株式より安全性の高い債券を望む。これが現実の市場、ひいては経済に影響する」
 
2.増加するグリーン(環境にやさしい国へ)
 
今世紀末には世界の人口増加率はゼロに近くなる。
より環境にやさしい星になるチャンスが生まれる。
適切な資源の配分や投資を行えば、食糧事情は良くなり、自然に戻せる土地も増えるかもしれない。
 
3.減っていく白(白人の減少)
 
1950年代、白人は世界の約30%
現在は15%
2100年は11%の予想
アメリカの白人人口の比率は
1965年は85%
2005年は67%
2050は50%の予想
もちろん、「ミックス」が増える
 
私はもともと世界史(東アジア以外の歴史)に疎いこともあって、 
18世紀から現代、そして今世紀末までの世界の見え方ががらりと変わるような、とても刺激的な本でした。
2か月以上かけてちょこちょこ読んだのだけど、すごい満足感があります。