『ぐるりのこと』 梨木香歩

ぐるりのこと (新潮文庫)

ぐるりのこと (新潮文庫)

子どもを産んでからは初めて読むんじゃないかな。読んでいる間じゅう、ひたひたと深いところから湧いてくるような感懐があった。個と群れ、自己と他者、それらの境界、(滅亡へ向かっているのかもしれない)世界の成り行き…風に吹かれ世界を旅し生け垣や古い神社を覗き、かつて読んだ膨大な本や資料を思い出しながら、さまざまに思いを巡らせたあげく、「単純化でも幼稚化でもない明晰化」を、「物語」を創り出すことで実現しようとする。乱暴に一言であらわすなら、これからも物語作家であり続けるという彼女のコミットメント、それがこの本だ。だから、ものすごく個人的な思索が収められているともいえるんだけど、その思索の広がりや突き詰め方、五官や肉体をフルに使う手段に打たれる。私は当分、この本を手元に置いて、折にふれ読み返しながら過ごそうと思っている。もちろん私は物語作家でもなんでもないけど、「そんなことして何になる」とか思わないで、いろんなことを思索しながら生きたいと思う。それはチャレンジ的な気持ちなんだけど、苦難に臨む、っていうより、もっと充実するため…て感じ。