『平清盛』の愛すべき登場人物たち(後)
年末年始にかけてBSで、そして地上波で総集編が放送されていましたが、そのたびにまあ、俺のTLの清盛一色ぶりよ。おまいら好きだな、本放送も全部見てるだろww と言いつつ、丹念にTLを追いかけてにまにましてる自分がいます。ふう、当ブログの清盛記事も、ついに最後です。これで安心して「八重の桜」スタートを迎えられます…。フラットな気持ちで楽しみにしています。もう、昨年のような暑苦しいブログは書かない予定です笑
さて、ここからはついに、壇ノ浦に散った人々や、平家よりあとに入滅した方々です…(泣)
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・時子(深田恭子): わたし、もともと深キョンが好きだし、「天地人」の淀役で、時代劇でも華やかさを発揮する女優さんだとわかっていたので、当初から期待してたんですが、実際は、期待の100倍良かったです。最初は、みんなが知ってるコケティッシュな深キョンとして登場。源氏物語オタクな設定も和ませましたよね。その後、棟梁の妻としての使命に徐々に目覚めてゆくのだけど、いわゆる「猛母・ゴッドマザー」的なイメージの時子(二位尼)ではなく、あくまで夫を慕う気持ちが根底にあってこその一門への献身で、時子自身は最後まで「春の陽だまりのような女」であったという描き方がとてもよかったと思います。最終回の一回前に、清盛に向かって「もうこの辺で(がんばらなくて)いいじゃないですか。気楽にまいりましょう」と言わせたりしてね。だからこそ、壇ノ浦の海の底に沈む悲劇が際立つ。あの一連のシークエンスの彼女の美しさは本当に神がかってました。ほかに好きなシーンは、序盤の、プロポーズのすぐ後のシーンでもう臨月になってて、清盛の「しっかし、でかい腹じゃのう」にニッコリ笑顔で答える「まあ、失礼な」。義朝と常磐のベストカップルを見て盛り上がってる清盛を尻目に口を開けて寝てたとこ(こう書いてると、あのころは平和な日々だった…涙目)。後半の、落ちついたセリフ回しも大変魅力的でした。
・平時忠(森田剛): 2006年以来のジャニーズタレントさんの大河ドラマ復帰…というニュースを必要以上に大げさにしない森田さんというキャスティングが見事! もちろん押しも押されぬV6の森田さんですが、近年は舞台を中心に活躍していて、事務所がどーこーなんて煩い外野の意見を封じめる役者としての評価が定まっていますから。実際に蓋をあけても、期待のさらに斜め上。一言でいうなら「小才子」なんだけど、ちっぽけな家に生まれがゆえの単純な上昇志向で、目端を利かせた立ち回りをしていたのが、流罪や妹の立后などの運命を経て徐々に妙な凄味をも漂わせるようになり、やがて心性清らかな平家一門にあって、禿という汚れ仕事を引き受けるようになる皮肉。世の形勢や人心の核、物事の本質を見抜く目があって、ずけずけものを言うので「よそ者は黙ってろ」的な扱いを受けることもあるんだけど、ちゃっかり公卿にまで出世している。ドライに振る舞いながらも、実は血族に対する情愛が深い。けっこう複雑な造形の人物に扮する森田くんの芝居にすべてリアリティがあって、ことさら印象に残る面白い人物だったと思います。名シーンはやはり、この世の底を見てきたような暗さでの「平家にあらずんば人にあらず」になるんでしょうが、個人的には、流罪生活を総括しての「食い物も女もなかなかであった」がすごく好きでした。
・平宗盛(石黒英雄): 時忠といい宗盛といい、ややもすれば、うすっぺらい欠陥人物になりそうなところ、ちゃんと愛すべき人物になっているところが今年の「志の高さ」だと思っているのです。凡愚の器として描きながらも、決して単なる“平家滅亡の戦犯”という印象を免れた宗盛。重盛の弔い酒と称して酒に溺れたり、意を決して一門を集め父に還都を請うたり、私この人のこと好きでした。石黒さんが、私が思っていたよりずっと地力をつけていることがわかったのも嬉しかったです。セリフの外でもいつも細かい芝居をしていました。アドリブも多かったそうです。
・平知盛(小柳友): この大河で初めて見た役者さんでした。知勇に長け、時子腹の三兄弟の中でもっとも優秀であったというのが定説ですが、できる子ゆえにこの大河ではもっとも目立たない息子になったのかもしれません。もっといろいろ見たかったです。常日頃の思慮深げな顔つきが一転した、最終回の「方々はすぐに珍しき東男を…!」と「見るべきほどのことをば見つ!」の“動”の演技。瞠目しました。
・平重衡(辻本祐樹): 同じく、この大河で初めて見た役者さんでした。宗・知・衡の三兄弟は、出番が少なくなってしまって残念だったんだけれど、短いシーンでもよく人柄が表れていて、いつも面白く見てました。重衡はが罪のない笑顔で言う「戦なぞ、起きるのか?」の一言が忠清を粉砕するとかね…! 憎めない華やかさをもったお坊ちゃんでした。南都焼き打ちは「えーっと、したっけ? してないんだっけ?」てぐらいの短い合戦シーンでしたが、帰還後の、神仏どころか父をも恐れぬ爽やかな口上、良かったです。
・建礼門院徳子(二階堂ふみ): 個人的には、脚本的にも、芝居的にも、入内して高倉帝と手を取り合うまでがピークだったかな。少女のころの「同腹の兄たちより賢そう」な設定が後半はよくわかんなくなってたしなー。ベストはもちろん「平家に生まれたからには、女であってももののふ。きっと見事に役目を果たします」。
・伊藤忠清(藤本隆宏): 「坂の上の雲」に続いて、そしてあちらとはまた違った「漢」を見せてくれました。平氏随一の侍大将で、「難しいことはわからない」ていの描写ながらも、決してただの脳筋ではなく、保元・平治でも命のやり取りの重さを知り尽くした言動をするのが魅力でした。そんな深みのある人物像が富士川の合戦後の清盛への諫言につながっていったのはすばらしかったですよね! 涙も鼻水も怒声もなく、視聴者の胸を打つ長口舌は立派です。今後もまた大河で見たい役者です。
・平頼盛(西島隆弘): 「アイドル枠ですよねわかります」なんて先入観を早い段階で根底から覆されましたー。割舌はいいし、時代劇の身のこなしもしっかりしていて、何より、すごく魂の入った、思いきりのよい演技をする人ですね。全年齢層への知名度やキャリア的には浅くても、ほとんど全員が好演で、浮いてる人が全然いなくて、そういう点でもすばらしい大河だったと思います。豪華キャストの競演もいいけど、キラリと光るニュースターを見つけるのも大河の楽しみです。最終回の「一蓮托生!」ビシッと決まってました。ぜひまた大河でお会いしましょう。
・源義経(神木隆之介): こちらは、発表時に「ぅおおおおお!」と叫んでしまったキャスティングです。牛若の扮装の似合うこと似合うこと…! 五条大橋での弁慶との立ちまわり、常磐との別れ、ともに良かったですよね〜。いかんせん出番が少なくて、最終回は感動というより目がテンでしたが、最期のセリフも小気味よかったです。もっと弁慶とキャッキャウフフしてほしかったなー。撮影現場でも良いコンビだったそうなので。もちろん、また大河でお会いしましょう。
・弁慶(青木崇高): なんと祇園闘乱事件から登場し、源平の歴史の生き字引的役割を担いました。『龍馬伝』での後藤象二郎といい、汚い時代劇にしっくり馴染む役者さんです(褒めてます)。しかも両者が同一人物だと気づいていない中高年層はすごく多いだろう(褒めてます)。掃除(←登場時、道具担いでたからw)に告げ口(←悪左府さんへ)に源氏関係者への助太刀、元服の髪結いに果ては産婆まで、まさかのマルチタスクを発揮してましたが、結局どうしてダメ義さんに肩入れしてたんでしょうか?
・常磐御前(武井咲): こちらもいわゆる「アイドル枠」でのご出演ですが、これがなかなかどうして好演で! まあそれほど多彩な演技が必要とされたわけじゃないんですが、張りつめた表情のなんと美しいこと。ちょっと変わった声が時代劇ではどうかと思ったけど、それも全然気にならず、立派にセリフをこなしてました。ちゃんと牛若の母に見えたし、清盛の妾にされる場面ではちょっとドキドキするような艶もあったし、返す返すも義朝との間にエロっぽいシーンがなかったのが悔やまれます。清盛から一条長成に下げ渡されるくだりも見たかった。まっ、また大河でお会いするでしょう。
・北条政子(杏): 第1話冒頭での完全な“極妻”から、時が遡っての再登場時では小汚い金太郎に。その間の経年変化を見守るのが楽しかったですね。しかし、このドラマには珍しいほど性根の明るい政子ちゃんが、よくぞあの根暗な自宅警備員を見捨てなかったものです。やっぱ、なんのかんの言うて面食いだったんですかね。もはやこの世代を代表する女優さんになりつつある杏さん。とりあえず次は朝ドラでお会いしましょう。
・北条時政(遠藤憲一): 伊豆パートの脚本の苦戦(と敢えて呼ぶ)でいちばん割を食ったのがこの人じゃないでしょうか。時政なんて相当おいしい役どころだし、キャスティングでもトメグループにばっちり入ってたのに、野菜を届けるシチュエーションがほとんどすべて(の印象)だなんて! “柔”の時政像は新鮮だけど、せっかくエンケン使ってるのに、「この人がついたからこそ源氏が強くなった」感が薄くて残念でした。また大河でお会いしましょうよね!
・藤九郎(塚本高史): 大河ドラマでも安定の塚本高史クオリティ。見てるだけで息も絶え絶えになりそうだった平治の戦後処理が終わり、彼が出てきたときの“救われた”感覚といったらなかった。その後も、主人が流人の分際で土地の姫君とイチャこくときも、その結果長い長いひきこもり人間になってるときも…まさに「健やかなるときも病めるときも」を地でいく、いつでも献身的な従者の鏡でした。家貞(平忠盛)、盛国(清盛)、貞能(重盛)、通清(源為義)、正清(義朝)、そしてこの藤九郎(頼朝)と、源平三代の棟梁にはすべて股肱の家臣が描かれ、しかもバラエティ豊かで魅力的でしたが、彼の深刻にならない感じが一番好きかも〜。なっかなか烏帽子を被せてあげない頼朝はホントしょーもない主だった。
・源頼朝(岡田将生): 清盛の、そして清盛が大事にしてきた故人たちの志を継ぎ、武士の世を継承したナレーター。鎌倉幕府の創始者でありながら、成人後の出番の3分の2は廃人という斬新な頼朝像でした…って褒めてません。彼の強さの源は最後までわかりませんでしたが、大河ドラマの画面に映える美貌には息をのんでおりました。心配だったナレーションも徐々にうまくなり、挙兵したあとは男ぶりも上がって(髭も似合う)、役者さんは大健闘だったと思います。先代の源平の棟梁の求婚を「ろくでもない」とナレーションで言い切りながらの、約30話後に政子を口説いて曰く「私を明日へ連れて行ってくれ!」のポンコツぶり…期待通りのオチでした笑
・西行(藤木直人): 私が見てきた藤木直人史上でサイコーに良かったです! 高貴な女性に横恋慕し、「将を射んと欲すれば」の法則に従って先ず女官からオトすとか、「あなたに愛を教えてあげる」とか、幼い実の娘を蹴り飛ばしての出家とか、わけわかんない自己陶酔が、端正な容貌の藤木さんに異様にハマってました(褒めてます)。中盤は怨霊目撃談をもってくるのが主で何の役にも立たず、そのままフェイドアウトするかと思いきや、最後はまさかの大活躍でしたね! 堀河局とも老いらくの一夜を楽しんだようですし。「お前さん」「お手前」出家前後をとおして清盛への二人称がヘンだった。
・平盛国(上川隆也): 後半はクレジットの大トメをつとめ続けた上川さん。喜怒哀楽をあらわにすることの少ない、目立たないキャラクターだったでしたが、抑えた芝居でも存在感を失わないのは流石です。まあ、実際、もうちょっと見たかったけどね。「殿の目にしか見えない新しき国」の全肯定発言とか、「おまえがもうちょっと何とかしてくれたらナー!」と思わんでもなかったけどね…! でも、盛国さんは幸せだったんだと思います。時子すら入らない福原の邸で清盛をひとりじめできたしね(白拍子たちが来たころのジェラシィの視線はすごかった)。名シーンはやはり、「鱸丸!」と呼ばれた2回でしょうか。納経のときの荒れ狂う船での張り切りっぷり。「わしの生涯随一の恵みであった」は視聴者の誰もが納得する名ゼリフ。壇ノ浦後、一切の食を断って自死するショットも、凄絶なのにどこか幸福そうに見えたのです。
・後白河院(松田翔太): 優等生でおかわいい上様を演じた「篤姫」から4年、化けましたな! 狂気と高貴と生気のみなぎる平安末期のラスボス・後白河院を見事に演じました。トレードマークになった高笑いを始めとする爆発力のほか、滔々と語る長いせりふにも聞かせる引力があり、ふたりで相対する場面、重盛役の窪田さんは「松田さんに食われるかと思った」と語ったそうです。
さしもの清盛も福原まで逃げ出すぐらいの「困った人」なのに、視聴者にウザがられることなく、むしろ盛大に愛されたのは松田翔太の魅力ゆえ。「日本一みずらが似合う」童子姿での登場、聖子に膝枕してもらう姿の空撮、帝時代の緋をたっぷり覗かせた黒の束帯、そして豪華な法衣…どんな扮装をしてもため息が出るほどの着こなしでした。また、双六台をひっくり返したり、袖の中からサイコロを出してパッと投げつけたり、長恨歌の絵巻物をサッと広げたり、お面をかぶって登場したり、歌い踊ったり、所作のひとつひとつがキマッてたのも良かったです。
名言は「国の頂での壮大なお戯れ」、好きなシーンは、これまでにも挙げましたがデブ頼さんとの愛のダンス、梁塵秘抄誕生秘話。あ、事後に滋子の名を聞いてからの一連や、御神輿ワッショイ!での二条帝葬儀に登場も良かったな。死の床にある重盛をいたぶる姿には殺意めいたものを覚えましたが(笑)。次はどんな役で大河に出るのか楽しみです。
・平清盛(松山ケンイチ): 「平清盛」という大河ドラマはもっと評価されるべき、と私が思うとき、それはそのまま、松山ケンイチの清盛はもっと評価されるべき、とイコールでもあります。例年、誌面を賑やかすため大河のバッシング記事は出るもので、その矢面に立つのは往々にして主演なんですが、今年は異常でした。一年を通しての逆風の中、終始、圧倒的な熱量で清盛の一生を演じてくれたのは大河ファンの喜びであり、実際、ベテランの内野さんを除けば、近年で最も演技力に秀でた主演だったと思います。
これまで何度かブログにも書きましたが、“枝葉のないおきれいな一本道大河”と一線を画した、この荒ぶる大河の作品世界の中心に常にあったのが松ケンの清盛です。近年の大河は、主演というスターをきらめかせるため、周囲が懸命に動いていました。今作ではまったく対照的で、主演の松ケンは太陽であり、自らの力で恒々と輝いて周囲を照らしていました。たくさんの魅力的なキャラが入れ替わり立ち替わりした大河だったので、往々にして評価が二の次になったし、特に40代以上の女性の間での人気のなさは驚くほどでしたが(韓流などを見慣れている彼女たちの世代には、泥くさい役者は受け付けないのかしら?)ドラマの世界をしっかりと作り上げ、支える演技は、大河の大看板を担うにふさわしいものだったと思われ、終盤になってやっと世間に「老醜スゲー」の声がみちみちたのには安心しました。個人的には、若いときの演技も良かったと思うし、棟梁になってからの、父・忠盛を思わせる落ちついた芝居も好きでした。
いかんせん、脚本の清盛像がなぁ…。計画通りの造形だったのかもしれないけど、中2と孤独が大半だったのは悲しかったなあと思います。妻子や臣などと親しく語り合うシーンも少なかったので、人間・清盛がなかなかあらわれなかったのは、役者さんにとっても不幸なことだったと思います。それだけに、最終回にイタコ西行に乗っかってのメッセージで、TLのみんなが大喜びだったんでしょうね。
クランクアップのセレモニーでまで低視聴率のことを言われたと聞いたときには本当に気の毒だと思いましたが、「光栄です」という答えはあながち虚勢でなかったのかもしれない。おきれいな大河でそこそこの視聴率を獲る一年間より、この作品の主役をつとめたことは、よほど役者冥利に尽きるのではないでしょうか。どんな逆境でも、清盛という新しい大河を、熱意を失わずに走りきった誇りで、彼の胸がみたされていることを祈ります。まさに、「松ケンなくして平清盛はなかった」と言いたいです。