『平清盛』の愛すべき登場人物たち(中)
引き続き、基本、ドラマからの退場順に書いてゆきます。
・平家貞(中村梅雀): 今まちがって「徳川」って打っちゃった、アハハ。クセのない役どころで目立つシーンこそ少なかったものの、こういう人がお芝居をしていると大河ドラマらしい絵になります。中井貴一との主従コンビ、良かったですね。平治の乱の際、信頼に名簿を私にいくシーンの秘めた老獪さも良かったです。
・池禅尼(和久井映見): 良い妻、良い母、賢い人であるからこそ、心の奥底に秘めているなさぬ仲の息子への微妙な感情が時折あらわになるときの怖さといったらなかった。家盛の死や頼朝の助命嘆願という史実の爆弾が炸裂するのはわかっているので、普段どんなに優しく落ちついていても、この人が出てくると妙な緊張感がありました。立派に棟梁をやってる清盛が辞去したあと複雑な心境を吐露してみたりするのも良かったな。和久井さんがまた、うまいのよね。中村梅雀とのジジババコントも堂々たるもんでした。
・美福門院得子(松雪泰子): キャスティングを見た時はちょっと年上すぎ、美人すぎじゃないかなと思ったんですが、見るとやはり違和感が少ないのはさすが。闘争心が表に出過ぎてる登場部分前半よりも、忠通あたりをあっさり手玉にとって悪巧みしたり、いい気になってる後白河を双六でやっつけて釘をさしたりする後半が良かったです。もっと怖くても良かったんですよ。
・藤原忠通(堀部圭亮): 父親同様、プライドばかりが高い単なるイヤな奴かと思いきや、あっさり得子の手下に。かと思えば、衰退してゆく藤原摂関家の長のノーブルな悲哀を徐々に見せるようになり、最後は誇り高い撤退、といった感で退場していきました。こういう脇役にも人生を感じさせる脚本が、特に前半は優れていたと思います。
・崇徳院(井浦新): 階段を転げ落ちて得子に呪詛を吐いたりとか、大魔王演技とか、怪演の印象が強くなりがちですが、帝時代、御簾のうちから義清を恃みにしてたった一言声をかけるあそこが、見てて一番ひっくり返ったかも。とにかく天皇のキャスティングも、どいつもこいつも(って天皇に対して不敬)ピッタリな大河だったのだわ! 最期の美しさも出色でしたね。井浦さん自身の崇徳院への愛(もともと歴史好きで、しかも歴史上でもっとも惹かれていたのが崇徳だったらしい)にも感嘆させられました。
・兎丸(加藤浩次): こちとら九州人なんで、へたくそだったらしい関西弁にも違和感なし。清盛の盟友にしてはオッサンすぎるんですが、後半は全然、同世代に見えるふたりなのだった…。大河の創作キャラにありがちなウザさが薄く、死までが物語の中で必然性をもっていたのはすごいことです。好きだったのは、保元の乱でウダウダやってる清盛に嫌気がさして、独断で仲間と丸太運んできて門をぶち破るシーン。「こっちのほうが手っとり早いやろ!」とか言っててさ笑
・建春門院滋子(成海璃子): キャスティングといい巻き毛設定といい、もっとものけぞったのがこの人ですね。私の、史実に対するイメージとの乖離がもっとも甚だしかった。けれど、時代劇っぽくないセリフまわしといい、後半の白塗り・置き眉といい、異物感が後白河の寵愛した后としてぴったりだったのかもしれません。フィナーレ回、第40話「はかなき歌」のいい女っぷりが心に残ってます。この回、スイーツ苦手の私なのに大好きでした。
・西光(加藤虎ノ介): 鹿ケ谷後の熱演もすごかったですが、鋭い眼光よりも、「柔」の部分に惹かれるところが大きかったです。穴に入った信西の最期までを見届ける演技は、あの一連のシークエンスの悲劇性を大いに盛り上げたと思います。私はあそこから、この役者さんを意識的にチェックするようになりました。非常に滋味あふれる演技をされる方ですね。
・藤原成親(吉沢悠): きれいな顔とは裏腹に、まったく至誠のない、二枚舌の小物のリアリティよ。平家の粛清に怯える貴族の面々の中で「アタシは大丈夫ですから〜」って感じに髪の毛いじってるのとかね! 脚本の鹿ケ谷の描き方には不満が多かったんですが、捕縛後、虚ろな目で重盛に胸中を語るシーンはすばらしく、配流先での餓死という凄まじい最期が描かれたのも、彼のそれまでの好演あってのことではないかと思ったりします。吉沢さん、今後も活躍するだろうなぁ。
・平重盛(窪田正孝): ちょっと好きすぎて何から書いていいかわかんないんだけど! 素敵な人物だらけのドラマの中でも、なんか別次元でこの人に萌え萌えしてました。初登場のときから目がハートに(古い表現だ…)。ものすごいイケメンでもなければ、匠の域に達した演技力、ってわけでもないと思うのに、なんなんでしょう、この人の魅力の源泉は。なんか、ものすごく胸をギュッとつかまれる存在感を発する、不思議な華のある役者さんです。重盛といえば2005年の勝村政信の演技も好評でしたが(私は未見)、あの熟練の役者に恥じることない重盛像を作ってくれたと思います。欲をいえば、脚本には、重盛の有能さ・武勇、独歩の道をもっと描いてほしかったなー、まあ、一蓮托生がテーマの物語なのでしょうがないんだろうけど、「小松の大臣」的なセリフは死後にしか出てこなかったもんね。あと、後白河と清盛との間で板挟みになる姿ももっと具体的に見たかったものですよね(要するにもっと彼が見たかっただけ、物語のバランスを度外視してもw)。あー、彼が胃痛の顔しかしなくなる以前の録画、HDに残ってないんですよね〜。やっぱり“箱盛”(=DVD)買うしかないのか?! とまれ、この若さ、この時代劇経験値にして、格調高い古語のセリフをいくつも聞かせてくれた窪田くんの将来が楽しみで仕方ありません。好きなシーンはほとんどすべてですが、義朝蜂起を聞いて清盛に理にかなった質問をするとこや、「三つの平」の言挙げや、妻との夜の読書や、五十の賀で3人の男子を伴ってのドヤ顔や、殿下乗合のラストの「もう笑うしかない」の笑顔、そして、「忠ならんと欲すれば…」の一連、特に「なんという情けない言葉。もはや平家の運も尽き果てた…」のくだりを、特に挙げておきます。保元・平治で前半の主要キャラがごっそり退場したあと、視聴者に新たな見応えを提供した勲は大きい。
・経子(高橋愛): 最終回にも出ましたが、御主人とセットでこちらに。初々しい花嫁姿から始まり、終始、しっとりと重盛を支え、慕った良妻。とっても雰囲気があって良かったです。若いのに、子どものそばにいるとちゃんとお母さんの顔をしているのにも驚きました。史実では壇ノ浦まで一緒には行ってないと思うんですが、「戦のさまは、いかに、いかに」のセリフをこの人が言うのは良かったよね。
・藤原基房(細川茂樹): このあたりから、尺や(脚本関係者の)体力の低下か、脇の人物に前半ほどの深みがなくなってしまいました。けれど細川さんは非常に楽しんで演じていた印象があります。意地の悪ぅぅい笑顔でのセリフもいいけど、輿の中での悦に入った鼻歌がサイコーでした。
・藤原兼実(相島一之): 徐々に兄貴から微妙な距離をおく描写は芸が細かかった。「玉葉」からの引用がいろいろあって楽しかったです。「サラメシ」大河編にも出てました、浴衣姿で。
・源頼政(宇梶剛士): 風貌が大河らしい。えらく早く出てきて、最初のほうは怜悧で親しみがもてなかったんですが、平治の乱のあと平氏に囲われて生き永らえる苦渋の徐々に高まってゆく様子、良かったです。平治での平然とした裏切りを、後年、「あの世で義朝に首を刎ねてもらう」とまで言ったのには驚きましたが、生き永らえたがゆえの心情の変化って、ああいうものかもしれないとも思わせました。
・八条院(佐藤仁美): あーあ、『家政婦のミタ』に続いて、“お金もってるヤなおばさん”ていう記号か〜。という最初の落胆をお詫びしたい。迫力のたたずまいに、養子の以仁王への情愛が伴っていてすばらしかったです(しかも若干33歳)。脚本を超えた好演。途方もなく莫大な遺産を相続したセレブ感が、演出等にもっとあればなあ。でも、この人物を大河に登場させてくれただけで御の字か。
・上西門院統子(愛原実花): このタイミングで退場した人ではないんですが、八条院と両女院そろいぶみってことで。美福門院得子の娘である八条院が猛々しい性であれば、待賢門院璋子の娘であるこの統子は性穏やかな皇女さま、という唸らせる設定でした。女院が計6人も登場する大河も珍しく、皆さんそれにふさわしい気高さや威厳にみちていて、歴史ファンとしてはうれしかったです。上西門院さんに関しては、まず、女院宣下を受けた後の“殿上始の儀”てのをやったのが興味深かったですね。深い声音の、いかにも高貴な女性というたたずまいにセリフまわし、白いお猫さまを抱く絵面、弟たる後白河とのシーンなど、決して主要人物でもないのに、大河初お目見えの愛原さんの素敵さに、またたくまに人気が集まり、そのために後半も出番を作ったんじゃないかしら?と思ってます。
・祇園女御/乙前(松田聖子): 大河ドラマにお約束の「異業種枠」からの出演ですが、こんな大物の飛び道具も珍しいところ、言葉は悪いですが最高の使い道を思いついたもんです。どこか神性を纏った雰囲気に仕立て上げ、乙前との同一人物設定も、不老不死を思わせる美貌での長寿も、ホラーチックな「いかがにござりますか…そこからの眺めは…」での退場も、聖子の異物感が生かされきってました。第32話「百日の太政大臣」において、清盛と後白河間が極度の緊張状態に陥る中、華やかな衣装で舞台に登場した彼女が舞い歌う「遊びをせんとや」は絶品でしたね! あと、この歌姫の前でアカペラさせされた松田翔太@後白河、おつかれ!
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ちょ、書いても書いてもまだまだいますね、主要人物! どいつもこいつも外せないんだからまったくもう。三部作にしようっと〜。