『平清盛』 第43話「忠と孝のはざまで」(感想・下)

承前)クライマックスシーンは重盛の独壇場だったけれども、それも細やかな演出の上に成り立ってたよね。

●その場の全員が軍装。実際は戦場には行かないのであろう清盛や盛国までもが。黒い武具がカチャカチャいってる中に入ってくる、重盛の真っ白い袍。死に装束のようでもあり、はきだめに鶴のようでもあり。顔色悪く、霞を踏むような足取り。

●ちゃっかり重盛の席に座ってる宗盛。顔面蒼白でも無言の威圧感で前に立つ重盛に、いかにも不服そうな顔で席を譲る。父の命に従わず、おめおめと平服で来た棟梁の兄に対して、「けしからん、なんなら俺がやってやるよ、もちろん父上の言う通りに…」とでも思ってるんだろう。でも、最後、重盛が慟哭していると、本気で痛ましそうな顔をしているのだ。根はいい子で、兄のことも尊敬してて、基本的に深い考えのないお坊ちゃんって感じがよく出てた。

●ほかの弟たちも、それぞれつらそうな表情。常に謹厳で自分を律してきた兄のこんな姿、心情吐露は初めてで、びっくりしているようでもあった。対照的に、盛国は沈痛な表情ではあるんだけども、こちらは、重盛の苦悩を知りつつも、全面的に清盛を支持する覚悟を決めているので、重盛に同情することを自らに戒めている(自分にそんな資格はない、て感じで)ふうもあって、これまた説得力のある演技。田口トモロヲさんの貞能がひとり涙を流していたのは、重盛の側近として板挟みになっている姿を近くで見てきたからだろう。

●逸れるが、重盛クレジットが、貞能や忠清よりあとなのにはぷんすかです。経子が出ててもピンクレ確保するようになったのは進歩なのかもしれんが。大河の世界って厳しいですね。ま、窪田くんの場合これだけの実績を残した以上、次の大河出演時には、ふふふふふ。

閑話休題。そして清盛。先週は西光相手に超アグレッシブだったが、今週は見事な受けの演技を披露。このおそろしい松ケンあってこその重盛の哀れさである。今回は3度にわたって重盛との対峙があったが、目を伏せて聞いたり、傲然と見下ろしたり、目を細めて睨んだり、ぴくり、と頬を動かしたり、そりゃもういろんな表情があって、どれも怖いのなんの。「重盛!」と叫んで立ち上がって追いかけ、肩をつかんでドンと突き倒すのもさ〜、昔は、投げ飛ばす前でも、肩をつかんだらニコッと笑って揉み揉み、ってしてたじゃないですか〜(ここ、重盛の突き倒され方も上手かった)。時は流れた・・・・。 

●このシーンのオチが頼朝ナレ「命がけで懇願されて清盛は折れたけど、この忠義と孝行に後白河がつけ込むのである(大意)」って残酷! 清盛、後白河、間に重盛っていうと、重盛がかわいい清太くんだった時代の清盛と後白河の双六対戦を思い出すわけで、脚本があそことの帳尻合わせをしてくるのは間違いなかろう。あのとき、清盛って、「清太に害をなすことあらば、雅仁さまのお命頂戴つかまつる」って言ってたんだね(ネットで確認)。ってことはよ? いずれは重盛の死因を後白河に転嫁し、ますます抗争激化って展開? 

●あと、第二部の初回で清盛が詠んだアホ歌も忘れられないんだ。重盛に何ひとつ語らずにきてる清盛なんだけど、「重盛の時代には後顧の憂いなき天下を。清い重盛のため、今のうちに自分がいくらでも泥水をのむ」って考えが心の底にあるのかどうか。重盛の死に際してそういう面が出てくるのかどうか。

●清盛の老けメイクは少しずつ、けど確実に進行してる。眉毛や髭の白髪、皺、ナチュラルさがすごい。徳子懐妊を告げられて腰を曲げながら走りだすとか、松ケンは相変わらず目立ってなくても(爆)、どのシーンも見ごたえある。たまになんか若々しい芝居になるのも多分わざとだと思う。

●源氏パート、義経。金売り吉次をはじめ、有名エピソードはごっそり省略しましたが良いと思います。尺がいくらあっても足りないんで。武井さんの常磐が美しくて…! さすがに引きだしはまだ多くなくとも、あの陰影を含んだ強いまなざし、落ちついたせりふまわし。ドラマ見続けてると、神木くんとちゃんと親子に見えるんですね。10代で時代劇、しかもああいう品格の必要な役が似合うってのは稀有だと思う。あと弁慶、単なるゴロツキにしか見えないくせに産婆役から髪結いまで! どこで覚えた、そのマルチスキル。

●頼朝。こちらも駆け落ちシーンは不採用。10年も自宅警備員やっといて、いきなり結婚の挨拶って頭弱すぎだろ! って現代に置き換えるのはおかしいんですが、歴史の背景の描写が少ないんで置き換えちゃうんだよな…。このホンで涙目になれる遠藤憲一はプロですわ。いろいろ背景を描かないのは、尺問題以外に、平家との対比なんだろうな、と理解はしてる。いろいろあって落日の平家と、とにかく日の出の勢いの源氏っていう。ま、見てて面白くはないんですけど。

●後白河。西光と成親の死にざまを語って怒りの笑顔。こちらも怖かった、そして全面抗争突入の気まんまん。お気に入りの人にはいつでも優しいこの人。聖子に歌を歌ってやるってスゲー役だな! 

●成親。「右に左にふらついて落ちぶれないように生きてきたけど気づいたら平家の犬に。面白くないと思った。似合わないことをして、このザマ」。背景が薄いせいで、妻子も一族郎党もあろうに、いい年してそんな理由かよ、と思っちゃうんだけども、お歯黒もとれかけた口で語るのには思わず同情しちゃうもんがあった。吉沢悠の手柄。最期はどういう描写にするのかなと思ってたら超ホラーでした。蝉の使い方がうますぎて怖すぎて。頼長の死、信西の首をも上回る凄惨さ。もうほんと日曜8時のNHKですんません、て頭を下げたくなるんだけど(誰に?)、長くドラマを盛り上げた成親への最高の花道でした。吉沢さん、またいろんな役で大河に出てくださいね。そんで、彼の死についての清盛の言辞がもう! 知ったこっちゃない、ですってよ、この鬼畜!

頼政。今日もやたらと清盛に厚遇されてる。この人も丁寧に描かれてきてるんだけど、宇梶さんはさすが、「何かありそうな感じ」をいつも醸し出してますよね。