『平清盛』の愛すべき登場人物たち(前)

とても一気には書ききれなかったので、年を跨ぐというみっともなさをに構わず、分けてアップしたいと思います。

平氏〜源氏〜摂関家」とか、「“主演〜助演〜脇”的クレジット順」とか、どんな順序で語ろうか思案したのですが、「退場した順」が一番しっくりくる気がしたので、基本的に、それでいきます(一部、例外があります)。遊ぶように夢中で生ききったみなさんへの、私なりの墓碑銘ってことで。

・舞子(吹石一恵): 襤褸をまとい、息を切らして逃げ惑う登場シーン、中井貴一に「乞食」と呼びかけられるほどの姿はインパクト大。それでいて、美しかった記憶しかありません。無数の矢に貫かれるその瞬間まで、生命力の塊でした。この大河ドラマにおける「美しさとは何か」ということを、たった1話の登場で如実に表現しました。

白河院伊東四朗): すべての発端にして、物語中、最強のもののけ。童女のころから育てた養女(孫である帝に入内済み)を慈しんで孕ませ、臣下には微笑みひとつ見せず。特に具体的なものは描かれなくとも「ここはわしの世じゃ」のセリフに戦慄させられました。2話のみの出演でしたが、この人の強大さはのちのちまで物語世界に影を落とし続けました。

・明子(加藤あい): こんな人で大丈夫なのかと思ってましたが(失礼すぎる)、驚きの美しさにひれ伏しました。むさ苦しい清盛が清楚な明子さまとはいつもしっとり語り合っていて、そのシーンが妙に艶めかしくて好きでした。このころ多用されていた源氏物語になぞらえると、海の神に嫁入りすると思いつめていた明石の上かと思っていましたが、実は藤壺でもあったのかもしれない。

・待賢門院璋子(檀れい): 頭からっぽの高貴な女性に檀れいがドンピシャ。鳥羽ちゃんに自分で「叔父子と思えばいいじゃない」とか、女の子産んじゃってナーバスな得子ちゃんに「私が皇子を産んだとき」談とか、悪意なくして地雷を踏みまくる姿がステキでした。

平家盛大東駿介): 無邪気に兄上を慕う可愛い子犬を襲った悲劇。まさか悪左府さんに何もかも差し出してしまうなんて…! でもその前の、「いいとこの娘と結婚するため好きな女と別れる」無言のエピソード→見た目が微妙にムサくなる、の変化が好きでした。

平忠盛:(中井貴一): 「そうだ、今週も大河を見よう」という動機を作る男! 一門の評定においても決して雄弁ではないんだけれども、上座で皆を見渡す眼差しが、発する言葉の重みが、ザ・棟梁。法の網をくぐって密貿易でガッポリ儲け、その財力を鳥羽院につぎこんでズブズブの仲、なんて描写も良かったですね。そして、この大きな父・強い父の軸になっているのが、舞子に託されて赤子だった平太を抱いたこと…というのが、なんともいえず、胸をいっぱいにさせる物語でした。第1話初めの、吹石さんと並んでも何ら違和感のない青々しい青年だったころの忠盛が、視聴者の心にはいつまでも残っているのです。死に際し、浜辺で清盛と立ち合っての「強うなったな」も、大河の亡霊シーンの歴史にあって出色でした。

藤原家成佐藤二朗): 第2話の清盛元服の際、「白河院も御年76、少々お耳が遠い。せめて飼い犬になって、御耳のそばで吠えませんとな」とすばらしく胡乱に登場したこの人ですが、めっちゃ平氏寄りの優しい新興貴族でした。その裏に宗子さんへの淡い恋心があった、という設定もすばらしかったです。あくまで淡いところが品良くて。

鳥羽院三上博史): 王朝絵巻の貴公子然として登場したのもつかの間、白河院やら璋子・得子やらのエキセントリックな人々に翻弄される様子は見ものでした。どМ演技がうまいのなんの。ついには清盛にエア矢を所望する始末。完全な謎男を完ぺきにモノにしてる三上さんに唸らせられました。でも、思い出してみたら、なんだかんだいって真面目に政もしてたよね。のちの治天の君と比べりゃ…w

鎌田通清金田明夫): 忠義一徹の家臣を演じたらお手のもの。その上、この物語では、ミエミエの小芝居を打って、息子が己と袂を分かつ手助けをしてやる親心も見せました。ベタだけど、大河らしいエピソードでもあり、泣けたよねー。

源為義小日向文世): 愛称・ダメ義さん。悲しい小物っぷりの中に、息子への限りない情愛や家臣を思いやる心にあふれているのが泣かせる小日向さんの演技よ(上記、鎌田親子の小芝居のお膳立てをしたのもダメ義さんだった)。「親兄弟の屍の上にも雄々しく立て」の名台詞の悲しげな穏やかさとか、天下一品でした。

平忠正豊原功補): 公式の人気回でも堂々の2位に入った第23回「叔父を斬る」。清盛との確執…といっても通り一辺倒にならず、清盛の妻子には洩れなく優しい人柄や、美しい義姉への敬慕、兄への忠節、一門を思う強さなど、丁寧に描かれた忠正を魅力的に演じたからこその最期の衝撃でした。切ない部分だけが繰り返し回想でも使われましたが、時々見せるおちゃめな演技も印象的でした。

藤原頼長山本耕史): よっ!悪左府!と、大向こうから屋号を呼びたいような気分になるのはなぜでしょう。病的なまでの几帳面さ、敏腕の特捜刑事もかくや、の理詰めで清盛の脱法行為(密貿易)を問責したうえ、感情的な反駁を一蹴…という初登場もディープインパクトでしたが、その後、無垢な家盛を手籠めにしてみたり、それを暴露するという死者に鞭打つ行為で父・忠盛の心を壊してみたり、やりたい放題。乱が始まってのちも、脛もあらわに逃げ惑う姿といい、矢が首を貫く瞬間といい、舌を噛み切っての自死といい、この人の活躍なしに前半戦は語れない!というひとり。

藤原忠実國村隼): 初回、彼が息子・忠通を従えて、白塗りに置き眉、お歯黒で登場したインパクトはすごかったですね。見たことのないダークな世界が広がった気持ち悪い快感。当初は嫌らしさを存分に発揮していましたが、瀕死の鸚鵡を抱いて「息子よ!」と叫ぶ退場シーン。この人もドラマティックな人物でした。

・由良御前(田中麗奈): きっつい顔したツンデレ姫についていけるか当初は不安でしたが、藤本さんがノリにのって描いた猛将の正妻たる悲哀と矜持を存分に演じきる様子にいつしか心惹かれてました。終盤はものすごく綺麗に撮ってもらってたしね。加藤あいといい深キョンといいこの人といい、若いばかりと思っていた女優さんたちの時代劇のせりふまわしのうまさにびっくりした大河でもあります。好きなシーンは常磐に言う「どうぞお優しい子ににお育てなさいませ。私は鬼武者を強いおのこに育てねばなりませぬゆえ」。

信西阿部サダヲ): 頼長といい信西といい、超クセのある人物を映像化するにあたっての人選がすばらしい。阿部サダヲもばっちり応えてました。なんと高階通憲時代から描かれ、しかも穴から出てくる第2話の登場シーンに、今後の脚本におおいに期待をもったことを思い出します。重用されない俗世に倦んで出家したわりに、その後急に出世していたのが見ていて若干不満でしたが、純粋な理想家のキラキラと、手段を選ばぬ策謀家の空洞と、両方の目をして矛盾のないサダヲの演技にあらためて脱帽。きびきびしたセリフまわしも心地よかった。

藤原信頼塚地武雅): 「面白うないのう」の多用は脚本、ちょっとやりすぎでしたが、この人を寵愛するってだけで、後白河の異常っぷりがわかるというナイスキャスティング松田翔太との愛のダンスシーンは頼長×家盛の「アッ――!」に伍する気色悪さでした。「日本一の不覚者!」と張り倒される違和感のなさも素晴らしかったです。

鎌田正清(趙除ナ和): ちょっと前までかつお節やのアホぼん社長をやってたのに、今大河では始終、切羽詰まった顔で義朝に突き従っちゃって、役者さんってやつはもうもうもう! この主従の愛されっぷりはすごかったですね。特にBL派ではない私ですが、壮絶な最期まで、彼らが一緒にいられてよかった、と思っちゃいます。

源頼朝 少年時代(中川大志): 「家政婦のミタ」で頼りない長男を演じたイケメンが登場、ぐらいの気分で見ていたら、まあ、やってくれますこと。清盛を見上げる視線の強さ、源氏の御曹司らしい品と気概あふれる口調、ここから岡田くんに代わって大丈夫なのかしら、と心配になるほどでした。このまますばらしい役者さんになられるよう、おばちゃん、願ってます。

源義朝玉木宏): ちょっと名前打ちこんだだけでじーんときた。『篤姫』で声の良さを発見し、時代劇が似合うなーとは思っていた。当大河では、第3話で本格登場したときの華には息をのみましたが、その後も瞠目しっぱなし。役者の魅力爆発。「龍馬伝」における弥太郎や、「秀吉」におけるがんまく(古い)とは比べ物にならぬ、主人公より強くてかっこいい最強のライバル(友と書いてライバルと読む笑)。荒武者ぞろいの関東を制圧し、行った先々で片っぱしから女を孕ませ(一部、想像を逞しくしています)、手痛い挫折を味わいながらも最後は武士として立ち上がり、戦い、そして死にました。千秋先輩に小川先生、現代劇ではどちらかというとなよやかな役ばかり見てきたので、これほど男くさいフェロモンを放出しまくる役者とは知らず、おみそれしました。ってか、見てるだけで妊娠しそうでした。しかめた顔や、痺れる大号令、文句なしだよ。関東での種牡馬ぶりも忘れられません。常磐とももうちょっとエロいシーンがあってもよかったのではないでしょうか。ろくでもないプロポーズも、なにげに好きだったなあ。今後も長きにわたって大河ドラマを担っていただきたい。

ということで、前半までに退場した皆々様への愛(の一部…ゼェハァ)を綴ったところで、以下、次項!