『平清盛』 第45話「以仁王の令旨」

仏御前に木村多江。いくらなんでもそれはトウが立ち過ぎてはいないかい。仏は確か清盛邸に来た時15や16のはずでしょ? とキャスト発表時に思っていたんですが、“事後”に名を尋ねられて「仏、と呼ばれております」と答える木村多江にぞぞぞぞーっとして、そこですっと腑に落ちました。なるほど、強運女王・聖子の祇園女御が去ったあと、日本一不幸が似合う女優・木村多江が「仏」の名を引っ提げて清盛のもとに現れたわけね! そら滅びるわ、平家! ネーミングの解釈をキャスティングにまでつなげて、すごい仕事するぜ、プロデューサー。

おっと話は冒頭に戻って、オープニングが始まると、「ああ、もう重盛はいないのね…」としんみり。今日は松田翔太も出番なしで、深キョンが初のクレジット二番手でした! そして三番手はAAAの西島君の頼盛!おお、なんかすごい出世だねおめでとう! と思ったらアララ? 出番は一瞬でセリフもなし。しゅん。そのほか、通称“中グループ”も今日はいろいろイレギュラー。覚書として貼っときます。

岡田将生源頼朝) →  杏(政子) →  塚本高史(藤九郎) → 神木隆之介源義経) →  青木崇高(弁慶) →  木村多江(仏御前) →  相島一之(藤原兼実) →  佐藤仁美(八条院

ここまですべてピン。相島さんや佐藤さんはこれまで連名だったんですがここへきてクローズアップです。このドラマのピン or 連名の扱い(扱いの変化)はいまだによくわかりません。トメグループは、「京本政樹藤原秀衡) →  宇梶剛士源頼政) →  遠藤憲一北条時政) →  上川隆也平盛国・大トメ) 」でした。京本さん来たんでエンケンが大トメ前へ移動。トメグループ、やはり4人くらいは欲しいもんですよね。このドラマ、ふたりどころか、盛国ひとりの回もあったような…?

さて本編。前回のホラーな引きから始まって、ますます老け感のある松ケンに目を奪われます。いや〜松ケンが老いて老いて。27才なんですけどね。序盤の伊東四朗に引けをとらない耄碌強欲ジジィに成り果ててます(褒めてます)。

盛国もさすがに持て余していますが、そこは彼の心の軸は「清盛についていく」なんで。や、客観的に見れば、「本当に主のことを思うなら…!」とか言いたくなるし、上川さんもっとじゃんじゃん活躍してほしかったりもするけど、こういう「ついてゆき方」ってけっこうリアルだなーと思ってて、意外と不満はありません。子兎丸(成長! かわいい! 女の子みたい!)へのフォローを忘れないあたりはさすが。でもこの子、最後、源氏方について攻めてきそうだよね。

伊豆では相変わらずエンケンが農作業中。もちっと、地元で仕事してる場面も見せてやったらどうか。ま、今さらだな。そこへ、山木兼隆やってきたー! いかにもな記号キャラだったけど、こういう人が出てくるのが大河の面白いところ。

覚醒した頼朝はキリッと弓をかまえる姿も凛々しくかっこいいですね! …って的を大幅に外した〜! 「もそっと足を広げて」とかさりげなくアドバイスする政子、「すまぬ」と受ける佐殿、良いやりとり。武芸がダメな描写とともに、のちに類稀なる政治的手腕を発揮する片りんも多少は描いてほしいな。今後くるか? まともかく、ここは「政子がついてるから大丈夫」感にあふれてますね。杏の強運オーラがすごい。黒い上着はやはり強運女王だった聖子=祇園女御とかけているのだろうか?

続いて対比、平泉に到着している義経。こちらは当然、的なんか百発百中、立ち回りも鮮やか。優雅なほどの義経と大味な勇壮さとコミカルさをあわせもった弁慶、殺陣も工夫されてるなあ、見てて楽しい。京本政樹の秀衡は声音、せりふまわしにすごい工夫が。もっとたくさん見たかったな。前も書きましたが、ああいう妙な厚化粧の男がひとり出てこそ大河ってもんで。ピーターとかガクトとか(笑)。そんでも、庭に黄金をジャーンと積んで(鶴まで黄金ですげー豪華! 雪空の下なので雑仕たちが真っ赤な傘を差しかけているのもいい)秀衡さっと平伏し、「あなたこそ比類なき将の器。平泉の武力財力をご随意に」と言うあたり、非常にキマッててかっこよかった。

平泉陣は烏帽子にも金の線が! さすが黄金郷、さすが清盛の美術チーム! 手羽先を胡乱そうにしげしげと眺めてパクリとやり、「う、うまっ!」と驚いて酒もぐびぐびやってる弁慶も良かったです。


譲位を迫られる高倉帝、乏しい表情の中にも不満が垣間見えるが、自らは一言も発しない。ここは、安徳帝の即位=高倉の院政の開始=後白河院政の完全廃止、って面は強調せず、ひたすら孫の即位=清盛の天下が完成、という描き方でした。まあ、画面では、新院となった高倉に群臣つき従う様子が映されたので(クレ三番手の頼盛さんここだけ泣)、院政開始は見てとれるわけだけど。高御座に向かう安徳帝、くしゅんとくしゃみ。これはあれですかね、長じて視力を失ったとされる近衛帝が、幼い即位の際、目をつぶっていたように、いずれ寒い寒い国に…という暗示なんですかね。

祇王・祇女キター! 祇王尾上紫さんは「ゲゲゲの女房」の乾物屋のおかみさんでしか見たことなかったんですが、美しいメイクを施してとってもきれいでした。日本舞踊家ということで選ばれたのか。祇女は花影アリスさんといって宝塚の元娘役さんだそうで、こちらもやはり踊れる人材。すごくかわいい人ですね。

この、どこの馬の骨とも知れぬふたりの踊り子姉妹が「お目通りを願っている者が」と言ってすんなりと最高VIPに会える様子は、現代から見ると「?」と思うもので、清盛があっけなく籠絡されるさまからも、「誰の差し金? 誰の陰謀?」て感じで見てた人もいるようなんだけど、特に裏はないんです、平家物語がそういう描写だし、流しの白拍子ってそういうもんだったみたいですね。若い娘たちとイチャこく清盛への、盛国の苦虫をかみつぶした顔は、もちろんジェラシィですよね。

目を京に転じれば、棟梁となった宗盛の図。この人、父の指示には嬉々として従って堂々と振舞い、父のないところで山門が暴れれば(明恵さんは逮捕・拷問などあったんで療養中ですかね。金覚・銀覚が老けメイクになり、位も上がってるみたいで、細かい!)おたおたして弟たちを頼るばかり。あげくに宴三昧です。重盛を貶めるようなことを言ったらテレビの前のウン百万の視聴者が許さんぞーーーっ! 嘆く深キョン。書き忘れてましたが、深キョンは先週の家電関白相手の口上がとても良かったですね。

今回は、「祇王・祇女・仏御前の登場」や、この「重盛の一周忌にもならぬうちに遊興にふける宗盛、意見する時子」など、平家物語でおなじみのシーンが次々に映像化されたので「おお! おお!」て感じで見てました。宗盛まわりでは、もともと脚本にはあったけど尺の都合かカットされた場面がいくつかあるようで、今回、おろおろしてる宗盛を眉をひそめて物陰から見ている教盛が写ってましたが、この辺、もっと詳しく見たかった気がしますね。

それでも、石黒英雄さんは非常にうまく宗盛を演じてますよね。ここで忠正との竹馬エピソードが出てくるのにはびっくりしましたが、ここの解釈はまた思いきって視聴者に委ねてきました。竹馬をなおすと約束してくれた優しい大叔父、彼を斬ったのは(その事実を知ったのは、宗盛が長じてのちだっただろうが)父・清盛だった。平氏の棟梁としての修羅の道。宗盛にはそれを歩む自信も、兄・重盛のように支える決意もない。ただただ、その重みに押しつぶされそうになっている。酒や遊びに逃げ、そして、棟梁としての「責任を果たす」義務ではなく、「思うさま権力を行使する」権利を行使することによって、己の強さを誇示しようとしているように見える。…この一連のシーン、私はこのように捉えた次第。

あと、宗盛嫡男の清宗くんがまるまるした男の子でグッド。平家物語なんかでは宗盛が肥満体であったと伝えられているけど、このドラマの宗盛は丸顔の印象でもやはりイケメン君なので、息子にぷくぷくくんをもってきたのでしょう。

さ、ここから、これまた平家物語おなじみ、源仲綱の名馬・木下のエピソードに。うまい「つなぎ」でした*1。最新の学説もいいけど、こういうコテコテのエピソードが出てくるとやっぱり大河は楽しいですね。かなり胸糞悪い残酷シーンをいろいろやりつつも、さすがに馬のお尻に焼印…のあたりは絵にせず。たとえCGでもメイクでも、動物虐待の図はまずいよね。

鹿ケ谷の際、後白河側から声がかかっても、八条院に焚きつけられても、頑なに固辞していた源頼政だけれど、息子が辱めを受けたことがきっかけで遂に立ち上がるんだなあ。彼らもまた、このドラマで描かれてきた数ある父と子の姿のひとつ。

そして、この一件をもってしてのみ歴史に名を残している以仁王! ATOKの辞書でも一発変換だよ以仁王! 仲綱にせよの人にせよ、一面的とはいえこれまでちょいちょい顔を出していて、背景がそれなりに印象付けられてきたので、今日の動きにも悲壮感が漂っていて良かったと思います。以仁王のバックに相続セレブ・八条院を置いたことも。仲綱には「平家の犬」、以仁王には「何のために生まれてきたのか」など、このドラマで繰り返されるキー・フレーズを彼らに繰り返されたのも巧み。しかし何より、令旨の中身をあれだけ詳しく見たのは初めてで、なんか感動しました。やっぱり本物の史料には有無を言わせぬ迫力がある。自分を天武帝になぞらえたりして、激烈な文章でしたね。

閨の清盛と仏御前。物語初期のころ、主に朝廷まわりで艶めかしいシーンがよくありましたが、主人公の“事後”ってこれが初めてですよね。あ、ちなみに“事前”のエロは唯一、常磐御前と。対照的に、正式な妻である明子や時子とは徹底的に健全なシーンに終始してきました。エロい仕草もちゃんと「権力エロじじい」してる松ケン27才。「ここはわしの世じゃ」がついに清盛の口から出ました。しかし彼のうしろ姿は、くぐもった鏡の中に閉じ込められている…。先週の「穴の中の目」同様、引きはまた暗い。でも頼朝のナレーション「清盛はひとり、闇の中にいた」に、なぜか少し救われる。45話で闇ってことは、残り5話もこのままってことはないよね?! 上がっていくよね?! 来週、頼朝も挙兵しちゃうけどさ…。

前から福原の清盛邸に人が少ない少ないと思ってたけど、今となっては、これも清盛の孤独感、ひとり堕ちてゆくさまの象徴だったのだなと思う。時忠がやってきて、相変わらず表面的にはヘラヘラしてるんだけど、盛国に向かって「まるで弔いのような」と言う。「正しすぎるのは間違っているも同然」に続いて、このつかみにくい人物をうまく利用して飛躍したセリフを言わせた。今回の清盛には、それより前のシーンで、何が何でも我意を通すよう指示しながら、「これまでどれだけ失ってきたと思っておるのじゃ」とひとりごちる。完全にダークサイドに落ちている清盛だけど、この時忠の「弔い」と清盛の「どれだけ失ってきたか」のセリフが呼応した勘どころだと思う。

これまでにも書いてきたけど、昇りつめるまでに失ったあまりに多くのものを取り戻すことはどうしてもできないから、「どんなに苦しくても俺は乗り越える。途中で降りた者たちが見ることのできなかった景色を俺が見る」と、せめて“のぼり続ける”ことで死者に報いようとしてきた。けれどその考えに固執することで、今生きている者たちをまた次々と失ってゆく悪循環。飲んだり遊んだりしないとやってられないことにかけては、宗盛なんかよりもっとずっと、深い淵にいる清盛なのでありました。

*1:PCSのTRに8.5点つけちゃう! …フィギュアスケートファンの人だけわかってくださいw