『第2図書係補佐』 又吉直樹
- 作者: 又吉直樹
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2011/11/23
- メディア: 文庫
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彼らのコンビをよくテレビで見るようになったころ、何かの番組で太宰治が大好き、と取り上げられているのを見て、「あー、まあそういう自意識過剰っぽい人っていっぱいいそうだもんねー芸能界には。」なんて思った性根の腐った私ですが、やがて「この人、マジだ」とわかった。
この人の場合、ちょっと「人間失格」の一冊や二冊を読んで「このデカダン、俺様にぴったり」なんて悦に入ってるわけじゃなく、まして「太宰が好きって、キャラ的にもわかりやすいし〜」なんて戦略でもなく、「好きだ、好きすぎて肌身離せない。こんな自分が恥ずかしいけどどうしようもない、もはや俺の血肉」って感じが漂ってる。
そしてこの本が出た。紹介されてるのは、太宰だけじゃない。村上春樹や龍、糸山秋子、西加奈子のような人気作家もあり、大槻ケンヂや町田康のように、「いかにもだな」って人の本もあるけど、純文学の多さに驚かされる。安部公房、古井由吉、カフカ・・・織田作之助『夫婦善哉』や、大江健三郎『万延元年のプレイボール』まで入っていることには感動すら覚えた。もちろん有名作品ではあるけど、これを読んでる現代の20代ってどんだけいる?
僕の役割は本の解説や批評ではありません。(略)自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。
「はじめに」でそう書いている通り、一編一編の大半を占めるのは、彼の個人的体験や思索なんだけど、淡々としたそれらの筆致と、最後のさらっとした本の紹介とが絶妙にリンクしていて、すごくうまい。また、続けて読んでいると、これだけ多彩なラインナップなのに、どこかその”色合い”に納得するところがある。
読書好き、と一言で言ってもいろんな嗜好、いろんな読み方があるものだ。この人の場合、何かが違う、どこか満ち足りない、妙な衝動・・・そういう、閉塞感とか欠落感とか、そこはかとない哀しみのようなものを埋めたり、それらと向き合ったりあるいは逃げたりするために、しゃにむに本を読み続けてきたんじゃないかなあ。このラインナップ、文章を見てるとそう感じる。そして私にはそんな読み方を、「読書の王道」と思っている部分があるので、なんだかすごく面白く読めたし、「この人は、信用できる」と勝手に思ってしまった。
巻末に、芥川賞作家中村文則との対談があるんだけれど、これがまた、中村さんが又吉の心のひだをそっとめくり続けるグッジョブで、おまけというにはあまりに読みでのある内容。又吉の読書の系譜が明かされるんだけど、彼と文学との衝撃の出会いは国語の教科書で読んだ『トロッコ』だったらしい。続けて読んだ『羅生門』も面白く、「こんなのを書けるこの作家って何?!」と国語の便覧で調べたそうな。それで、便覧を読んでいると、芥川の系譜に並んでいる太宰も面白いんじゃないかと思って『人間失格』を読む。
又吉 太宰をひととおり読んだあとは、尾崎紅葉にいって。
中村 またすごいところへ。
又吉 便覧を信用していたので。
中村 すごい。便覧あってよかった。
このやりとりが妙に面白くて、声出して笑っちまった。「便覧を信用していたので」って良いフレーズ、さすが芸人! 同じく学生時代に便覧とか資料集が大好きだった人間として、メモっときたいと思います。それで便覧を頼って読んで特に気になったのが、夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、谷崎潤一郎、三島由紀夫だったらしい。
とにかく、読書好きな人の本棚を覗くのって面白いんだよねえ! ちなみに、超蛇足ながら、この本で紹介されているもので私の既読は、
- 『赤目四十八瀧心中未遂』 車谷長吉
- 『月の砂漠をさばさばと』 北村薫
- 『蛍川、泥の河』 宮川輝
- 『山月記』 中村敦
- 『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』 村上春樹
- 『夜は短し歩けよ乙女』 森見登美彦
- 『キッチン』 吉本ばなな
- 『渋谷ルシファー』 花村萬月
の8冊でした。いずれも本棚にあるもので(あっモリミーは売ったかも)好きな作品なのでなんかうれしい。
取り上げられている作品は未読だけど、その作家の本は読んだことがある、ってのは、古川日出男、村上龍、太宰治、穂村弘、糸山秋子、野坂昭如ですかね。未読のものも、いろいろ読んでみたくなりました。30を過ぎてからは、読書に関しても「いっちょ、自分にとってまったく新しjいジャンル(や作家)を!」という気持ちがだんだん乏しくなってきてるので、いろいろ読んでみたくなる気持ちがまず、うれしい。