ロンドン五輪あれこれ / イチロー

オリンピックについての感想は、日々の雑記にちょこちょこ書き留めているんだけど、アップする頃には完全に鮮度が落ちてしまうので、ここでちょっと、いくつかまとめて先にあげておく。ついでに、オリンピック直前に話題をさらったイチローの移籍のことも。

一流のアスリートの姿には本当に胸打たれる。メダリストが誕生すると、ワイドショーなんかではすぐに「彼・彼女の半生」ってのをやるけど、そういうのを延々と見るよりも、試合そのものや、その直後の表情、公式インタビューなんかがやっぱりいちばん面白いし、感じるところが多くある。

高い目標を掲げて、それに向かって己を律し、苦を厭わずに、まい進してきた人たちを尊敬する。自分が行ってきた苛酷な練習によって揺るがぬ自信をつけ、同時に、周囲のサポートに対する感謝の気持ちも人一倍もっている人たち。

「努力する才能」だよなあ。人生を左右するのって、「才能」よりも「努力する才能」の有無なんだろうな、と最近思う。


●7月24日: 今日の話題といえばなんといってもイチローヤンキーズへ電撃移籍!でしょう。ヤフーを開いて目に飛びこんできた文字に、絶叫するほど驚いた。テレビでも一日中、トップニュース扱い。そりゃそうだよな。

イチローひとりと、ヤンキースふたりのトレード。会見の2時間後には、マリナーズの本拠地で、古巣と対戦。なんというセッティングだ。シアトルのファンが、ヤンキースの選手として打席に入るイチローに、立ち上がって万雷の拍手を送る。ヘルメットをとって一塁側へ、外野へと、深々と頭を下げて応えるイチロー。こんなに格好いいお辞儀が、ほかのどこにあっただろうか。しびれるような光景だった。しかも彼らしいセンター返しの安打で出塁すると、すかさず盗塁。

夜のニュースでは、王さんがかなり饒舌に見解を述べていた。今日起きたばかりの出来事なのに、世界の王さんをこうも簡単につかまえて、喋らすことができるんだな。それこそがイチロー。この偉大な人をして、何かしら「語りたい」と思わしめる存在であるということだろう。1日、2日も経てば、王者ヤンキースにとって今のイチローは「安い」存在であるとか、彼がおかれるであろうシビアな状況とかも喧しく報じられるようになった。でも、「日本人でよかった」と感じる瞬間を、この人に幾度見せてもらっただろうか。私は彼の選んだ道、ゆく道を、これからも仰ぎ見続けるだろうと思う。

ところで、ふだんのインタビューでは、シニカルだったり無愛想だったり、逆に、はっちゃけすぎなんじゃ?というような対応も多いイチローだが、今日の移籍会見では、さすがに万感こもった顔つき、口ぶりでしたね。古武士のような孤高さを貫いてきた印象のある彼の、心中深くにあるファンへの感謝の思いにも胸打たれました。で、イチローって英語で喋ることはないけど、こういうオフィシャルな場では、かなり“英語っぽい”文法を用いるんだなと気づいた。「11年半、ファンの方と同じ時間、思いを共有したことを振り返り、自分がマリナーズのユニホームを脱ぐと想像したときに大変寂しい思いになったし、今回の決断は大変難しいものだった。」とかね。英語に堪能でない私も、英語に翻訳できそうな言い回しだ。


●7月31日: 起きたら女子57kg級で松本薫選手が金メダルを獲ってた! 試合の間はそらもう飢えた狼のような怖い顔をしなさってた松本さんだけど、表彰式では別人のような笑顔。そうだよな、金メダルだもんな。

●同日: オリンピック、予選2位通過狙いで引き分けを指示した、と会見で明言する佐々木監督に男を見た。なんかこの人は見れば見るほどかっこいい。一見、愛きょうや人あたりの良さでやっているように見えるけど、当然ながら、女子だらけのチームを率いる手腕は並々ならぬものなんだな。ぶれない戦略をもち、最大限に選手の盾になりつつ、マスコミや世間に対しては硬軟とりまぜて怜悧に対応してる。W杯で優勝して大人気のなでしこだけど、それはつまり常に手のひら返しの危機と対峙しなければならない諸刃の剣でもある。監督には相当の覚悟と肝の据わりようが必要だろう。選手たちは彼を見て「意気に感じて」いる部分はかなりあるんじゃないかな。てか私が感じているんだが。

●8月1日: 試合直後の選手のインタビューというのは、むごいなとか、かわいそうだなと思うときもあるけれど、本当に興味深い。苦しい研鑽を積んだ長い時間と、それを発露すべき一瞬。凡人には経験しうることのない長短両方の時間を経験した人ならではの「むきだしの言葉」「むきだしの表情」が見られる。私は、そこで語られるすべての言葉を粛然と、慄然と、また感動をもって受け止める。

世界選手権を三連覇し、ライバルたちにすら、圧倒的に金メダルにふさわしいと公言されるような内村くんが、「夢みたい。これは本当にオリンピックの表彰台なのかなとずっと疑っていた」と言ったことに打たれる。団体が終わった後「今まで何をしてきたのかなという感じ」と言ったときは、その甚大なショックの一端が垣間見えてこっちも愕然としたもんだが、どちらかというといつも飄々としているイメージの彼をして、あんなにも落ち込ませ、そして今また感無量にさせるのがオリンピックなのだなあ。金メダルについて、「一番重いし、輝いています」という表現も良かったなあ。

4位でゴールした200mのあと、プールから上がってきた北島の凛としたインタビューもすごく良かった。「悔しいけれど諒が獲ってくれてうれしい」と。「100mまでは世界記録を上回るペースでしたが」とインタビュアーに言われ(つまりそれは、後半失速した、という指摘でもある)、「それが自分の泳ぎだし、今までそうやって自分のレースをしてきましたから」と答えたのにぐっときた。一流アスリートのパフォーマンスには、生きざまみたいなものまで感じさせられますよね。

●同日: 夜は錦織くんの試合を見る。テニスって、見てるとドはまりしそうなんでなるべく目を向けないようにしてるけど、実はドはまりしてみたいスポーツのひとつだ…。予想通り面白かった…。翌日のニュースでは「4強ならず」というニュアンスで報じられていたけれど、ベスト8に進んだこの試合のすごさをもっと報道して〜〜〜と思った。テニスプレーヤーって、なんて強靭! 激しいのに孤独で、しかも試合が長いスポーツって、私の大好物なだよね〜。ああ、やばいやばい。バラエティなんかに出るとけっこうへらへらしてる印象の錦織くんだけど、試合の時はなんか淡々としたガッツを見せるすげーかっこいい人だった。この人も疑いもなく一流…。