『平清盛』 第17話「平氏の棟梁」

あら?なんかアバンタイトルが解説ふう、しかもえらく長いダイジェストやな…と思ったら、今回から第二部だそうで。三部構成なんですかね。ま、忠盛が死んだら、そら部も変わるってなもんでしょう。

荘園の経営やらお偉いさんの道中警固の手配やら、一族の中での米の分配やらについても触れる箇所がありましたが、棟梁(夫婦)の仕事の煩雑さ…という主要エピソードを、「宴会の膳が足りない」ことで表現したの、面白かったです。

『江』でやってた、柴田勝家が実は刺繍好き…とかいうくっだらないエピソードには唾棄した記憶がありますが、今回のって、実際ありそうなんだもん。一族の結束を深めるためには飲み会が必須で、大勢の飲み会ともなれば手配も大変なわけで、慣れない人が幹事をするとめちゃくちゃになる…って、たぶん、古今東西共通でしょう。

や、宗子あらため池禅尼さまも、もちょっと事前に救いの手をさしのべてやって〜!とか、忠盛はあんなに清盛推しだったのに、生前、実務的な薫陶、引き継ぎはなんもしとらんのかい(10代の小僧ならともかく、もう30半ばだぜ)、とか、突っ込みたくもなるんだが、カリカチュアライズってなもんでしょう。ワタクシ的には全然許容範囲でした。

前後するけど、棟梁となって初の会合、(せいいっぱい威厳をもって)「平清盛である!」 シーン…。盛国「みな、存じておりまする」のやりとりなんかも、ツボでした。代替わりと言えば、父・信虎を追放して当主の座についた武田晴信(もちろんのちの信玄よ)がやはり初の会合で、「御旗、楯無も御照覧あれ!」と超かっこよくキメた『風林火山』…あ、中井貴一の信玄のときもこういうver.だった気がする…を思い出すんだが、キメようと気張るとどーしてもスベッちゃう清盛、って描写は、私は好きです。

今回、この大河で初となる主人公夫婦の閨のシーンもありましたね。ここでのピロートークも、常磐を得てすっかり男ぶりの上がった義朝を頼もしく思い出し、「家を背負う男には、それを支える女が欠かせぬということじゃ。そなたの役目は大きいぞ、時子!」と勇んで見やれば、かたわらの時子ちゃんはグーグー寝てる、という、王道を外してくる演出。清盛がやけに朗々と語ってるもんだから、絶対寝てると思ったんだけど、その罪の無い寝顔が、さすがは深キョン!ていうかわいらしさで、しかも、ガクリとズッコけながらも、その開きっぱなしのお口を指で閉じてやる松ケンの仕草が〜〜〜良い、良い、良い! 

クライマックスのあの御歌については、その瞬間は、ぐへぇぇぇぇ!と思ったです。あの歌会がどれほど権謀術数うずまく「政治の場」であるかは、信西さんが解説してくれたとおり。それをおまえ、マイホームパパで乗り切るってどういうつもりだ、と。下手な歌でもいいから、そこは平氏の棟梁としてがっぷり四つに組み合うべきだろ、と。まあしかし、「そもそも歌になってない」と崇徳院、「お題は“春”ぞ!」と悪左府頼長…など、会場はドン引きで、宴のあと、わずかに鳥羽法皇がフォローはしていたものの、基本的にはスベりまくっていたようなので、まあアリかな、と思いなおしました。頼長さんなんて、大事なことなんで二回も言ってたもんね、「お題は“春”ぞ!」をww

主人公に破天荒な所業を演じさせても、それを「さすがは清盛」「ひと味違う」と周りが持ち上げないのが、この大河です。相変わらず、周りは清盛を「変な奴」だとしか思ってないわけです。それが、視聴者が「平清盛」に馴染みにくい理由のひとつとされているけれど、私は大河の主人公補正、主人公マンセーにはほとほとうんざりしてたので、このチャレンジがとても新鮮に思い、楽しく見ています。強かったり弱かったり明るかったり暗かったり、さまざまな表情を見せる主人公に、「カメレオン俳優」の名をほしいままにする松ケンを配したのもナイス!

はなはだ強引に過ぎないんだけれど、「まさに春の陽だまりのような女」と妻を称し、「お題は“春”」を忘れてるわけじゃないってことをアピールするのも良かったね。宴の前に、時子が得意の源氏物語から紫の上の歌を朗詠するシーンがあったけど、紫の上といえば「春の御方」。ここいらへんの整合性をきっちりとってくる脚本は相変わらずですな。

もともと盗賊や海賊を取り締まって太刀をふるってきた武士だけど、ついにここから先は、権力者同士、一門の者同士がじかに血で血を洗う抗争を繰り広げていくことになる。古今、権力者といえば、実の弟を殺した信長や実の甥とその一族すべてを根絶やしにした秀吉、妻と嫡男に死を命じた家康、そして義経・範頼の弟を滅ぼした頼朝など、必ずといっていいほど骨肉の争いを演じているもの。その中にあって、史実、身内をひとりも粛清していないのが清盛である*1

最初の平氏一族大集合でも、弟たちとか叔父さんとか家人とかではなく、自分の子どもにだけ心構えみたいなものを申し聞かせていたな…と思ったら、こーゆーことだったんですね。面白き世、武士が頂点に立つ世へ踏み出すその前に、平氏一門の中でも、己の妻子という最小単位で足元をがっちり固めるための今回だった、と。勇ましい第二部の始まりを想像していれば、おのずと肩すかしをくらった感があったが、なるほど、これはこれで筋が通っている。王家や源氏と比べてみれば、なおのこと。

息詰まる親子関係も破局間近という様相を呈してきた源氏も気にかかるけれど、ここは尺が限られているため、説得力という点ではイマイチ弱く感じる。義朝が強くなったというが、強さとは具体的にどういうことなのか。官位? だいたい、義朝が強くなるとどうしてそんなに困るのか。義朝は何も、父に対してクーデターを起こすような気配ではない。忠盛も死んだし、為義だって、当時としては壮年というより老年に近いはずだ。為義が語っていたとおり、「父の誇りを踏みにじっても平気でいる」ということが理由なら、あまりにもダメすぎて共感できない。だってこの人らの究極の目的は、「源氏と平氏、どっちが強いか決着をつける」ことであって、清盛に伍して義朝が強くなるのは、むしろ歓迎すべきことじゃないのか? 「義朝が強くなる」ことでの実害を描いてくれないと(父直轄の所領とか家人とかにデメリットが出ている、などの)。

とはいえ、このセリフは、「父の誇りを踏みにじり…」の前に、「義朝、誇らしきわが子よ」という呼びかけがついているところがミソで、為義自身、整理できない愛憎が感じられた。もちろん、小日向文世は、こういう複雑さを演じさせて実にうまい役者なのである。あ、そうか、強くなりすぎると忌まれるっていうのは源氏の業なのね。のちの頼朝と義経…。

追記。このドラマ、キャラの造形といい、演者の演技といい、私のイメージとほぼ完ぺきに一致しているのが時忠だ! 清三郎につまらんことを吹き込むとか、いかにもこいつのやりそうなこと! 

それから、「血による遺伝」に重きをおいて描くこの大河。生真面目な重盛は明らかに明子寄りだし、言いたいことを飲み込みがちな宗子さんと家盛もそっくりだった。はて、すでにヘタレくんの雰囲気を醸している清三郎ことのちの宗盛は、英雄・清盛と、のほほんとしているようでしっかり者の時子、どっちにも似てなさそうだよなあ…? と考えて、はたと閃きました。深キョンのお父さん、蛭子さんだったじゃないか! ここは、隔世遺伝でいくってことですね?! 行き届いてるな、作り手!

*1:あの人(ネタバレに配慮して自粛)のことはあるけど、あれは、清盛の意図でそうなったわけじゃないからね…