『平清盛』 第23話「叔父を斬る」

前回の感想で、

しかし、ぶっちゃけ、叔父上には今週で死んでほしかった!(爆) 

と書きました。戦後処理に2週もかけることにも引いてました。

すまんかった。

今週も最高の見応えでした。

演出上のネタバレを見るのは極力避けているんですが、先日、本屋にて、ついつい「ステラ」を読んじゃったんですよ。表紙の黒坊主さんにひかれて、ついつい…。で、今日のあらすじを読んでしまい、ドン引きしてたわけです。鬱展開にもほどがある、と。初めて、「今週は、家事でもしながらの“ながら見”をしようかな…」と思いました。

が! が! んがっ! とんでもなく面白かった。あらすじだけ見ると鬱展開なのに、見てると無言の興奮に襲われまくり。翔太・後白河帝ばりに、「ぞくぞくするのう!」。

「死罪という罪はありませぬ」清盛のセリフどおり、奈良後期から平安時代の400年間、死刑はなかった。だから、清盛にしても、義朝にしても、当の忠正と為義にしても誰にとっても、驚天動地の求刑だったわけだよね。

この求刑を決めた当人である信西の覚悟は後半で描かれますが、政治的な話だけでなく、当時の人にとって、死刑というのが、「神輿に矢を射る」に匹敵する宗教上のインパクトだったという話もしてほしかったところ。

しかし、死に臨む忠正と為義は、もはや心の軸が定まっているんですね。だから唯々諾々と受け容れる。

忠正が、直接的な元凶ともいえる頼盛に向かって、「一門の栄華のためになら喜んで斬られよう」みたいなことを言って、そこだけを聞くと、なんたる綺麗ごと!て感じなんだけど、そういう言葉が上滑りしないのは、これまでの描き込みあってこそ。その前に彼が清盛に言った、「わしが一番恐れているのは、おのれが平氏一門の災いになることだ」というセリフには、ものすごいリアリティーがあった。忠正こそが、清盛が子どもだった時分から、清盛を「一門の災い」として排除しようしようとし続けた本人だったのだから。

為義と義朝の、縁側での親子の会話も感動ものだった。父を斬る凶器となる源氏重代の名刀、友切を投げつける義朝。「粗末に扱うでない」と、静かに、ていねいな所作で拾い上げ、渡す為義。「髭切と名をあらためてございます」と返す義朝は、ここのところの手負いの獣のような血走った眼の色が完全に消えて、久方ぶりにふつうに親子の会話をするムードになっている。

平氏に遅れること20年、殿上人となった義朝に、「孝行な息子じゃ」と言い、同じ静かな口調で「わしの首を刎ねよ」と言う父。「親兄弟の屍の上にも雄々しく立て。それがお前の選んだ道。源氏の栄華へと続く道じゃ」というセリフ、震えました。そう、それこそが真実、源氏の栄華へと続く道。しかし、その道を極めることができたのは、息子・義朝ではなく、その次の代の…って話になるんですね。

そうそう、話は戻って、今回はまた、とことん、源氏と平氏を対比して描いてるわけですが、身内の斬首を言い渡された両者の描写も面白かった。

断れば官位を剥奪すると言われ、言葉を失う清盛。一門のことを思うと、軽率なことが言えなくなっている。次善の策で成親のところにとりなしを頼みに行くも、泣いて謝られてあきらめる。清盛が出て行った瞬間、けろっと嘘泣きをやめる成親のキャラクターが良い。でも、心底の悪い奴じゃなくて、最後のパーティーで帝に「(清盛に)じきじきのお声がけを」と震えながら言うくらいには、マトモな頭はしている。要するに小物のクセ者ってところか。おもしろい。

義朝のほうは、信西に対して、その場で「その儀ばかりはお許しください、官位も恩賞も返上つかまつる」と、身も世もなくすがりつく。(今回の忠正一党以外は)一枚岩で、すでにものすごく大所帯な平氏一門と、まだちっぽけで、一門はすでに分裂しまくっている(というか兄弟はみんな父方についてたし)源氏との差でもあり、清盛と義朝の差でもあり…この辺は今日のラストまでさまざまな描写が続きます。

処刑の朝、死に装束をまとった忠正親子が邸を出るのを、一門は皆うちそろって、庭の土の上に平伏して見送る。斬る清盛の痛み、斬られる忠正の痛みを、ここで全員が共有しているわけです(もちろん棟梁たる清盛には余人にはかりがたい苦しみがあるにせよ)。“なんてことしてくれるんだーっ(←視聴者の声)”の池禅尼と、忠正が、ただ視線を交わし合うというのも良かったです。それを、憤怒の表情で見ている清盛も良かったです。清盛はどこまで気づいているのか? 少なくとも今の時点では、視聴者の想像にまかされている。

源氏のほうは、義朝の正妻・由良御前が、嫡男・頼朝に「父が祖父を斬る現場を見届けてまいれ」と命令。すげー猛母…! 頼朝は、えっ、て顔をするけどちゃんと見に行くわけです。この辺も、平氏の跡取り、清三郎との対比がすごい。平氏のほうでは、「清三郎はまだ元服もしてないしね」ってことで、叔父の件は伝えていないわけです。

で、それぞれの処刑場にて、清盛と義朝の「斬れませぬーー!」の声が重なるんだけど、そこからよ、すごいのは!

「おまえはやっぱり棟梁の器でなかったと、兄上に言われたいのか!」と、猛然と焚きつける忠正と、「もうよい。泣かずともよい」と優しく諭す為義との対比。あの世のことを、「十万億土」「黄泉路」と異なる表現を用いていたのもよかったね。

そして、「うわあああああっ」となって、ついに叔父を斬る清盛! このとき、ブシュッという太刀の効果音があって、これはふたつの斬首を同時に表しているのかな?と思いきや、なんと義朝のほうは結局斬れずに、友切いや髭切を投げ捨てへたりこんでいた。そこで代わって為義を斬ったのは、乳兄弟の鎌田正清! そうくるかーっ!と思ったね。彼も凄い顔をしてて、彼自身の親子のエピソードも凄かっただけに、ぐっときた。

「さあ、我らもお斬りください」と澄み切った眼で清盛にせがむ忠正の子たち。それに応え、もののけの血、鬼の形相で次々と4人をも手ずから斬ってゆく清盛。「この親不孝者」と義朝に呪詛の言葉を投げかける為義の子たち。主君に代わって彼らを斬り続ける正清。変わらず、ぶるぶると震えながらへたりこんだままの義朝。この対比! そして、しっかりと目を見開いて、すべてを見届けた頼朝(元服前)!

その後の、妻の対比。「棟梁の妻とはどういうことなのか、やっとわかった」という時子。彼女はここでついに覚醒して、妹の滋子に「一門のためになることをせよ」と命じる。「みんなは一門のために、一門はみんなのために」と、後の場面で清盛が一門を前に宣言するスピリットを、言われる前に先取りしている。棟梁の妻、一門の母たろうとする。

常磐のところに行って、「どうぞ殿をよろしく、私では彼を慰めることはできないから」と言う由良。常磐の子(乙若?)をチラ、と見やって、「どうぞ優しい子に育てなさい。私は頼朝を強き男子に育てねばならぬゆえ」と毅然と言い放つ。触れれば切れそうなくらいに研ぎ澄まされた覚悟。すごく立派で、美しいんだけど、彼女はあくまで義朝の正妻、頼朝の母である、という立ち位置。

でも、そうやって対比しつつも、時子のほうが由良よりも立派であるという描写ではないのが、このドラマなんだなあ。源氏と平氏では、そもそも一門のありようがまったく異なる。夫たる清盛と義朝の人物も異なる。由良はこの回、前半で、義朝にしたたか顔を殴られるシーンがあった(よくよく、おんな子どもに手をあげるドラマだ)。それでも彼女は、もはや泣きもなじりもしない。彼女には彼女なりの、夫への尽くし方、源氏をもりたてるやり方があるのだ。

そう、その由良にとことん鍛われて育っている頼朝。母に言われて刑場に行き、「実父(自分の祖父)を斬る」という大いなるつとめを果たせず腰を抜かしていた父、兄弟たちになじられる父、そのすべてを見届けた頼朝。父がブイブイ言わせてたころは嫌悪の瞳で見つめていたこの男の子が、その後、腑抜けたように、一気に老けたように、茫然として日々を過ごす父を見て初めて駆け寄り、「元服したい」と言うのだ。「早く強くなって、父上をお支えしたい」と、はっきりと。感無量の面持ちで、息子を強く抱きしめる義朝。うおおおおおおおおお!(←血が一気に沸騰) 
デジャヴ。ものすごいデジャヴがああああっ。そう、それは20数年前、忠盛を討てなかった父・為義の情けない姿を見て、幼き日の武者丸こと義朝自身が父にかけた言葉。そして、そのとき義朝を抱きしめた為義の顔と義朝の顔がすっかり重なって、てことは、その運命もまた…。って、すごい! ここに繋がってきたのか! ここに!!  

そして後白河が催す喧騒の宴。みずからの父を陰影の深い表情で素直に清盛に賛辞を述べ、手ずから盃をとらせる関白・忠通。一言も挟まず、けれどすべてを見とおしているかのような美福門院。息詰まる空気の中、満面の笑みで座ったまま踊るデブ頼。そして、いたわりのかけらもない傲岸な帝に対し、わなわなと震えながらも平伏して恭順する清盛…! ここに、20年前、殿上人となったときの父・忠盛の姿が重なるわけですよ。また、ちょっと気に入らないと大暴れしていた清盛が、ここまでの苦しみを甘受して振る舞う大人になった…という大いなる感慨に打たれるわけですよ!

そうか、その前に信西のシーンがあったよね。藤原摂関家を没落させるためだったんだよね?と、信西の意図を、うすら笑いでべらべらと正しく解説する藤原師光。背中を向けたままの信西は、ひそかに落涙する。宴が終わってから登場した信西は、清盛に殴られても怒らず、それこそ血を吐くような口調で語る。「世を正すため、心の太刀を振るって、その返り血と、己の血反吐の中で生きている」これもすごいセリフだ。先週「台記」の(放埓なセックス記録とは関係ない)記述を読んだんで、頼長モードも入ってます。つまり、こいつもロクな死に方しねーぞ、というフラグでもあり…。

とにかく今週は、身内を手ずから処刑するという悲劇の描き方に、心胆から戦慄しました。単に情緒的なお涙ちょうだいじゃなかった。斬れない清盛、斬り捨てる義朝、という対比かと思わせて(予告でもそういうミスリードを誘っていた)、こうくるか、と。ほんと、不謹慎な表現になりますが、めっちゃ盛り上がりましたね。

どうして清盛には斬れて、義朝には斬れなかったのか。もうね、それは「20文字以内で説明しなさい」とか不可能な世界なんですよ。

甥と叔父は2親等、息子と父は1親等だから。清盛と忠正は血のつながりがないが、義朝と為義にはあるから。つねに一蓮托生たる平氏一門を背負う清盛は土壇場にあって斬らざるを得なかった、すでに親兄弟と袂を分かち、「己の武者としての強さのために」はたらいてきた義朝は、土壇場になって親子の情のほうに強くとらわれた。忠正は最後まで清盛の敵役を担った、為義は親だから息子への憐憫を口にした。清盛には猛きもののけの血が流れ、義朝には優しいヘタレの血が流れている。

そのすべてが、今このときの違いを生んだのだということが、語らずともビシビシと感じられるわけですよ。ここまでの脚本の伏線や人物の描き込みが見事に結実して、逃れられない運命というもの、その真の悲劇を残酷なまでに描写したわけですよ…! そしてまた、その「今このときの運命」には、実は「この先の運命」の萌芽も、確かに含まれている…。ああ、恐ろしい。渡辺あやといい藤本有紀といい、こんなに長いスパンの物語を重層的に描き出す若い女性脚本家がいるとはね。ドラマ界はNHKの一人勝ちですな!

役者の演技もみんな神がかってる。やはり、なんといっても玉木宏でしょう。義朝の少年時代からここまでの歩みを考えると、ものすごく胸にこみあげるものがあるけど、総括するのはもうちょっと先のほうがいいですよね。まあ、第3話、4話で登場した時からすてきな期待をさせたけど、まさかここまで見せてくれるとは…と、ひとまずいっとこう。20代の彼の代表作がのだめなら、30代前半の彼の代表作は、間違いなく義朝だよね。

問題はやはり、あと半年しかないってこと。尺が、尺が〜! もう、あと1年半かかっていいから、存分にやってほしいです。