『平清盛』 第20話「前夜の決断」

ハイクにも書いたが、破格ですよ。破格の面白さ! 

清盛。バカ盛、アホの子って言われてきたけど、もう、清盛の成長が面白くて仕方ない。主人公が、こんなにも順を追って、まっとうな成長をしていく大河が、ここ数年で、あったでしょうか?!

  • 誕生。母、壮絶な死。もらわれっ子であることを知る(第1話)
  • 白河院との直接対決(第2話。“もののけ白河院の圧勝。「わかったか、清盛」、ってここで言われてたよね)
  • 「俺は平氏に守られている赤子にすぎぬ」と悟る(第3話。ライバル義朝との出会い)
  • 殿中の闇打ちをくぐりぬけた育ての父・忠盛の真意を知る(第4話)
  • 海賊・兎丸と激闘の末、家来にすることに成功(第6話。危ないところを助けてくれたのは叔父上だった!)
  • 愛する女にガツンと求婚し親にも堂々と話して妻に(第7話)
  • 悪左府にコテンパンにやられ「今の俺ではかなわない」と自嘲(第8話)
  • ラスボス雅仁と最初の対決(第9話)、義清、謎の出家を遂げ西行化(第10話)、
  • 愛する妻の死。もののけの血が覚醒(第11話)、
  • 妻の死以来落ち込んでたがライバル義朝と再会して復活、ろくでもない求婚で時子を妻に(第12話)
  • 聖なる御神輿に矢を放つ。ついでに鳥羽院までもエア矢で射る(第13話)
  • 弟が棟梁選に名乗りをあげ、断然有力馬に。しかし悪左府に馬乗りになられたあげく馬から落ちて死(第14話)
  • そんなこんなも全部おまえのせいだ、と、一門からけちょんけちょんに(第15話)
  • 偉大な父・忠盛の死。最後は認めてくれたよね、「強くなった」って(第16話)
  • お偉いさんらの前でナンジャコリャな歌を詠み、マイホーム棟梁を宣言(第17話)
  • youたちも俺たち平氏みたく仲良くしようぜ、と調停役を気取る(第18話)
  • 調停工作はことごとく失敗し、ついに大局を悟って刀を抜く(第19話)

ここまでの流れを清盛に絞ってまとめるとこんな感じですよ。一部、ほかの人の話題も混じってますが…悪左府×弟のあたりは割愛できないもんねー(なぜ)。

そして今週冒頭、また成長してた。「世はどうしようもなく天下大乱に向かって動いている! 腹をくくれ!」という先週の信西の言葉がよっぽどショックだったんでしょうね。棟梁として開眼したわけですね。一門の利を第一に考えるリアリストになってます。ここへきて、「一門の利=亡父の志=公卿として政治参加=国を変えて面白き世に」って、ピシッと筋が通ってます。この説得力も、これまでの描き込みのたまもの。

大きな武力をもちながら旗色を鮮明にしない平氏に苛立つ両軍。夜遅く会いに来た信西が、開口一番、「双方の恩賞はつり上がりましたかな」とあっさり言うのも、いい! 主人公、できるな!と思いきや、それぐらいお見通しよ〜って切れ者、いくらでもいるのよ、って感じ。

平氏一門の評定シーンといい、信西との対面で座るときといい話しぶりといい、清盛の所作や発声、息遣いの端々に、忠盛を彷彿とさせるところがあったのも、清盛が棟梁として成長したことをわかりやすく示している。衣装も忠盛っぽくなってるよね、今。うまいね。松山ケンイチ、せりふまわしの落ちつきぶり、安定感すごい。主役の演技力という点でも、ここ10年くらいの中で出色(ベテラン内野氏はのぞいて)なんじゃないでしょうか。彼の若さを考えると、これも驚異的です。

それで後白河帝との対面と相成るわけだが、ここで、帝と塚地デブ頼! おめーら目と目で会話できすぎ! コレはアレなの、やっぱり、“ふたりはすべてにおいてしかと結ばれている”ってほのめかしなの…? と穿った目線で見ておきまして、塚地さんの「面白うないのう」はすごくわかりやすく伏線張ってるわけですが、ちょっと不必要に反復しすぎじゃなかろーか。ま、保元から平治まではあまり時間がないので、しょうがないんでしょう。

おっと閑話休題

松田翔太の帝、黒い袍から覗く朱の下襲(したがさね)がゴージャスですごく似合ってます。平氏にじらされ臣下が焦る中、横座り気味で榊の葉を弄びながら「遊びをせんとや」を口ずさむ余裕っぷりも良かったけど、清盛を前にしての長口説はお見事の一言でした。長い不遇の時代を経て帝になったとたん、「何もかもが見えるようになった」とギラギラして言う。清盛の生い立ちから、今の平氏の思惑までをあらいざらい語って聞かせるのは、ここまでの経緯を見逃した視聴者への「おさらい」、言わば説明セリフともいえるんだけど、強弱、緩急、表情もすごくうまくて、聞き入ってしまった。何度も言ってる気がするが、「篤姫」の家茂将軍のころとは別人の成長ぶり!

「わかったか、清盛」と、先週の「ここはわしの世じゃ」に続いて、もののけ白河院のセリフのリフレインが今週も飛び出しましたね。立ちあがって足元からも覗く朱の下襲をたっぷりと映し、袖からとりだしたサイコロをパッと投げるや「賽でも投げて、さっさと決めよ」の決めゼリフ。最高でしたな! ぐっと下から睨みあげて「負けませぬ」と誓う清盛に、してやったりの笑顔を見せて去って行くのも、ラスボスの貫録。

ここで、退がったと見せかけて立ち聞きしてる信西の、隠れる気の無さもわざとなら(わざわざ手燭を部屋方面にかざしてる)、チラとも見なかったけど帝もそれを承知のうえだったんじゃないでしょうか。帝の「おまえなんかゼッテー公卿にしない」宣言に「え、ちょっと、打ち合わせと違くない?」って顔になる信西と、そんなことおかまいなしな帝。今後が予想される演出がいつもながらうまい。

やばい、覚書したいところがありすぎて終わらんので飛ばしていきます。

ガンダム為朝が上洛。いかにも強そうで、戦が始まりそうで、胸が高鳴りますな。しかし、これがダメ義さんの子とは…。第3話、4話あたりでは、為義の子は義朝しかいないんじゃないか、ぐらいの描き方だったので、保元の乱で親子が敵味方に別れるのは、この人たちこそが「どっちが勝っても源氏の血を残そう、老いた俺が負けそうな上皇方につくよ」という筋書きにするかと思ってたんですが、まさかここまで正面切ってこじれるとは!(泣)

義朝のほうもあちこち、涙なくしては語れません。愛妾の常磐御前を優しくいざなったかと思うと、「由良、由良!」と正室をいとも乱暴に呼ばう義朝。ま、なんだかんだ言って、こんなときに頼りになる女は正妻なんですがね。義朝に頼まれてから初めてゆっくりと由良を見、ゆっくりと常磐に歩み寄って、「殿がお世話になっております」とゆっくり言って頭を下げる。ここの田中麗奈の演技もすごくよかったね。いつものようにその一部始終をのぞいて、「どっちにも酷な話だ」とナレーションする賢いチビ頼朝も、たまらん。

出陣のシーンも見応えあり。親兄弟と敵味方になるのを案じる常磐、今こそ志を、と名刀「友切」を捧げ渡す由良。優しくたおやかな常磐は、いつも心身張り詰めた義朝にとって心の安らぎという意味で必要不可欠なんだけど、でも武士として、男として「表の顔、表の振舞」をしなきゃいけない夫の背を押すのは、由良。長年をともにする正室ってのは、ともに家を守り、盛り立てる同志のようなものなのかもね。

前回、袂を分かったかと思われていた政清も戻ってきます。乳兄弟の絆、忠義心は親子にも勝る、というのは中世の戦記でのお約束で、ここを真正面から演出してくれるとベタだけどすごいカタルシスがありますね。この出戻り劇、ダメ義さんが御膳立てして、政清の父・通清が痛切な小芝居を打って背を押すっていう二段構えになってる時点ですでに泣けます。ダメ義さんも全部わかってて、促したんだよね。ダメ義さんだけど、棟梁なんです。政清のため。そして、決別しても、やっぱり親なんです。義朝のためでもあった。

政清の「殿を悪く言ったら父上とて許しませぬ!」も、父・通清の「厄介な殿を見捨てられないのはわし譲りじゃのう」も、戻ってきた政清を見ての義朝の「遅いではないか。主に恥をかかせるでない。支度せよ、出陣じゃ!」も、すべて小細工なしの良脚本! んもう義朝ったら男も女もツンデレで落としまくるよなあ! 玉木宏の削げた頬や、年の割に深い皺、荒みきった表情、もう義朝が乗り移ってるとしか思えません。

そして、ああ、このときが来ました。叔父上こと忠正さんの離反。史実では、もともと忠盛−清盛ラインとは早くから協調せずに崇徳院の御所に出入りしていたらしいんだが(宮尾さんの平家物語でもそうなってた)、この大河の脚色は物語を盛り上げまくったね。清盛をdisりまくりつつ海賊から救ったり、臨月の奥さんの前でdisりすぎてごめんねと時子に謝りに来たあげく前妻の子たちを優しく包みこんだりと、これでもかとばかりに描き込んできたのは、このときのためだとわかってはいましたが、ああ。

茫洋と登場し、見えてる傍観者として清盛を断罪してた頼盛が、兄・家盛や父の死後、俄然「行動者」となったのも面白く、とはいえ、清盛が信頼できないから崇徳側につく…という理屈はいささか短絡的に思えたが、この際、重箱の隅でしょう。物語は盛り上がりに盛り上がりまくってます。

前回、「もしものときには平氏を頼みます」と忠正に釘をさした池禅尼は、こうなることまでを、何か具体的なことを予期して頼んでたわけじゃないだろう。でも、何を犠牲にしても子を守りたい気持ちは母として当然で、そのエゴを自ら思い知っているがゆえの、拝みながらの「かたじけない」なんだろう。彼女の言葉は忠正の心にしっかり留まったし、もとより、平氏を守ること、正しき血筋を受け継ぐ平氏の子を守ることは、彼の心の軸だった。

「はなっから絆などないわ!」とぶちあげる頼盛。それは伝言というより己の本音であり、そのセリフを言うときも、言ったあとの兄の反応を見守るときも、非常に激しい面持ち。この西島さんという方、早ぜりふ、長ぜりふのカツゼツもいいし、こんな鬼気迫る演技もできるんだ、とすごくびっくりしてます。鎌田政清役の趙除ナ和さんといい、役者として有名なわけではないけれど実力ある若手が存分に熱演しているのも、この大河を盛り上げてるよね。

ひとり、弓の手入れをしながら「絆など、はなっからないわ…」と繰り返す叔父正さんは、憎しみさえ迸らせたような頼盛さんとは対照的な穏やかさで、逆説的に、絆の存在と大いなる平氏愛、そして、自らそれを断ち切る覚悟をひしひしと感じさせた。もう、ここまできたら、みなまで言わなくてもいいんだよね。

亡き兄に頼まれた「口うるさい役目」は成長した頼盛が担うようになった。彼の不満もわかるが、平氏一門は一枚岩でなければならぬとは亡き兄の願いでもあり、若い世代の頼盛が今、離反するのはいかにもまずく、絶対に押さえなければならない。義姉にも頼まれている…。そんな忠正さんの心を、じゅうぶんに視聴者は感じ取ることができる。

弟の口からそれを聞かされた清盛が見せた反応も、ハッキリとした説明はなかった。これは来週のお楽しみってことですよね。しかしあれは、裏切りの衝撃、悲しみから、憤怒の表情に変わっていったように見えたなあ。激怒した白河院の顔、もののけの血を感じさせた。つくづく清盛は面白い存在です。でも、いざ相まみえれば、叔父正との絆は厳然としてあるわけで、それが予告の「叔父上、叔父上…!」につながるんでしょうね。あああっ。マジで予断を許さない! 来週は大河の伝説の1ページになるんじゃないでしょうか?!

今回、清盛が言った「われらはみなで必ず同じ道をゆく」、「生きるも死ぬも、もろとも!」。このセリフも、先々までつながっていくんだろうなあ…壇ノ浦…うわああん。それに、こんなときこそ源氏物語、な時子。この時子なら言うはずだわ、「海の下にも都はございます」なんてロマンチックな最期の言葉。うわあああん。藤本有紀、むっちゃ上手いじゃないですか。低視聴率を脚本のせいにする奴は俺が許さん!