『平清盛』 第27話「宿命の対決」

大河では最初で最後(だろう、きっと…)の平治の乱・後篇。とっても面白かったです! 余は満足じゃー。

六波羅に帰還した清盛の、なんと頼もしいことよ! そらまあもちろん歴史のなりゆきはわかってますけども、それだけじゃない。平然とした顔で時の権力者に従えと言ったり、お茶碗の中身かきこんで「やっぱり家のメシはうまいのう」と磊落に笑ったり、酒宴の座興をおもしろそうに見守ったりという表向きの顔と、たったひとりで何度も賽を振る、棟梁としての孤独や覚悟を表す顔と、どちらもステキで、どちらもかっこよく、どちらも強そうで、これじゃあ平氏が勝つはずだわーと思わされる。

やり口は、策謀というには至ってシンプル…というか、さまざまな物語に日々接する現代人にとっては特に新鮮味があるわけじゃない。いったん恭順の意を示し、目くらましの宴にあけくれて相手を油断させ、その隙に、造反してきた者たちに片棒をかつがせて錦の御旗を奪い返す。勅命を受けて官軍となり、いったん刃を交えるも早めに引いて、深追いしてきた敵を大軍で待ち受ける。うん、オーソドックスですよね。

賞賛すべきは、小手先の技に走らず堂々と王道路線を貫いた脚本と、それを凡庸にではなく、コンパクトでスピーディなエンターテイメントとして見せた演技/演出でしょうよ!

平家物語とか平治物語とかの軍記から伝わる描写も、あれこれ用いられてました。

  • 紅白の鉢巻! 源氏は白、平氏は赤! 「運動会かよ」って違います、こっちが本家、元祖ですから! 鉢巻きの一本一本がちゃんといい感じにくたびれてるところがこの大河の徹底した美意識だ。
  • 重盛と悪源太義平との待賢門合戦。重盛の元号は平治、都は平安、我らは平氏、平が三つそろってどうして勝たざることがあろーか」的な味方への鼓舞! 義平が「四つ目の平はここにあり〜!」と返したのはオリジナルなのかしら?(義平のキャラが毎回笑える←いい意味です)
  • 貴い方々をまんまと奪われた信(デブ)頼を、「日本一の不覚者め!」と殴りつける義朝。でも、特にこのフレーズを知らなくても、「源氏の棟梁が戦になってアホ貴族を怒鳴りつけた〜!」って既視感だけでも面白かったよね? 保元の乱の為朝→頼長を思い出したわ(涙)
  • 義朝の二男(東国修行の折、種牡馬化してた描写がありましたが、あのときの…ですよね)が馳せ参じてくるもあっさり負傷。
  • 二条天皇、女装して内裏を脱出〜! 見逃してしまったのが悪源太ってのはドラマオリジナルですな。

えーっと、私が気付いたのはこんなもんかな。あ、先週、信(デブ)頼さんと悪源太との「何を所望する? 大国の守か、小国の守か」「そんなことより兵をくれ、阿部野で待ち伏せするから、それで平氏を殲滅させたあとでたっぷり褒賞をいただくぜ」という問答も、平家物語からの出典だったんですね。

いや〜、これらの描写の映像化を見られたことは、私の大河ドラマ人生(どんな人生だ)の中でも5本の指に入る幸せだといえる。しかもとってもかっこよく面白かった! ほんとね、天地人のとき、「御館の乱の映像化が」とかワクワクしてたらアレだったときの脱力を思い出すとね…。

惜しむらくは、荒ぶる人が足りなかったことですね。美福門院さんがなんかこのままフェイドアウトしそうで悲しい。後白河院も、まだされるがままの人。まあ彼の場合、まだまだ先は長いんで、この経験が彼をどう変えるか?が楽しみであることには変わりない。

役者さんたちは出番の少ない人たちに至るまで、すばらしかったです。奇天烈な弟を静かにたしなめる上西門院さまのせりふまわしはこれまでで一番といっていいほど。白塗りのマロたちの情けなさ、特に伝兵衛のほうの顔芸。「目を白黒させる」という表現を見事に映像化してくれました。このときの清盛の恫喝もヤクザそのもので、女子どもに容赦しないのと、主人公のヤクザ描写をいとわないのが、この大河の良いところのひとつだと思っています(笑)

「逆賊どもを討て」と勅許する二条帝、その真剣極まりないイケメン顔と、いとけない声色のミスマッチがすごい。「もののけ」ではないけれど、やはり異形だ。このドラマの天皇系譜はここまでのところ一言で「異形」。これで高倉天皇あたりはものすごく普通の人をもってくるのも面白いんじゃないかと思うが、キャスティングと演出が楽しみ。

清盛がいなけりゃひとつも始まりそうにない平氏一門。や、重盛は超できる子なんだけど、ごにょごにょ…だし、家貞だってさすがに次の代まで筆頭家人はつとめきれないでしょ。ほかの人たち、あれじゃあ清盛の死後が思いやられます…って雰囲気が、もうすでにばっちりできあがってます。

そう、重盛がかっこよすぎるーーー! 明らかに文系っぽいのに戦もできるなんて〜〜〜! 基本アンニュイな顔してるくせに大将としてもきっちり働くだなんて〜〜〜! 窪田正孝くん、うまいって知ってたけどこの重盛の吸引力すごい。もののけたちや最大のライバルたちが退場した後も彼が残っていると思えばかなり私の未来(大河ドラマ人生の、笑)は明るい!

ことここに至って、のこのこ出てきた常磐。この辺は多少無理があってもいいんです。こういう役まわりの人がどこでもドアで出てきて空気を読まずに喋るっていうのは古今を問わず大河のお約束なのです。武井咲ちゃんの常磐ったらいつも同じように切羽つまった顔をしてるだけじゃないの、な〜んて言っちゃいけません。無茶苦茶かわいいので全然問題ないどころか、私は彼女が出てくるシーンを楽しみに見てますよ。

てか、最近ずーっとこの顔だからこそ、初登場のときには思いっきり笑わせたんだな、と思います。あのころの無邪気な常磐ちゃんよカムバック…と思うんだけど、彼女のこれからの運命が波乱万丈でないわけがない。「殿だけの妻です」なんて、わざとらしく言わせちゃってさ〜>脚本

それに、縁を切るなんて言った舌の根も乾かないうちに彼女の腹に手をあて頬を寄せる義朝が好きだ! 攻めてこない清盛には苛立ち、攻めてくるとわかれば邪悪な笑みを浮かべて喜ぶ彼、戦となれば女子供とて逃がさない彼が、一方ではこの弱さにも似た優しさ、愛情をもっているということ。それは、このドラマの義朝の人間像を深みのあるものにした。

賀茂川を挟んで対峙した紅白の両軍、ゆっくりと姿を表す清盛の威容。最近ギャグ要員であることを忘れている忠清の「放て〜!」の掛け声のかっこよさ。そして雨と降り注ぐ矢の絵のすさまじさ。

で、ここからは、股肱の臣、忠清が逃げろっていってるのに、清盛に「タイマンやるから体育館裏に来い」って顎で指示する義朝も義朝だが、川越しでその意図を正確に読み取り、素直についていく清盛も清盛なんですよ。せっかく策を弄してあとは源氏を屠るだけってとこまできながら、ここで棟梁が群れから離れるんかい、と。しかもおまいら、あんだけ兵が敷き詰めておった河原から、どこの地の果てまで馬走らせてふたりきりになったんじゃい、と。戦い終わって並んで腰をおろしてる源氏と平氏の棟梁@平治の乱、とかさー、ありえんだろう、と。

ツッコミどころは山ほどあるですよ。でも、これが『平清盛』の世界なんですよ。ここまでの因縁を描いてきたからにはそれなりの決着が必要だし、これがこのドラマの決着の付け方なんだ、と。一騎打ちなのに、勝敗の見届け役がいないのも当然なんですよ、だって清盛ったらマウントポジションとっておきながら首をとらないどころか馬に乗って去らせちゃうんだから、いたら困るもん。

そういう異空間が、主人公の、しかも歴史の大イベント時にあらわれるのを私はあまり好まないし、ご都合主義だという批判はかなり受けているのだろう。でもここまでくると、このドラマって、「こういうのがウケるんじゃないかしら、みんなワンピース大好きだし」っていうノリじゃなくて、もっと意思を、信念をもって“少年ジャンプ大河”をやってるんじゃないかなー、と思うし、それはそれでいいんじゃないかという気に、私はなっている。

清盛は義朝に馬乗りになって、「武士は勝ち続けなければならなかったんだ」と言う。源氏・平氏ともに、父祖の代からの長い年月、艱難辛苦に堪え、やっとここまでのぼって来たのだから、ちょっとも階段を踏み外してはいけなかったんだと。清盛はいずれ源氏ものぼってくると信じていた。でも、こうなったからには、清盛は平氏の棟梁だから、源氏にも勝たなければいけない。その悲しみ、怒り。そしてここまで徹底的に勝ちにいったのに、清盛は義朝本人を討てなかった。

むろん、彼をここで逃しても、勝利が平氏の掌中にあるのはほぼ明らかなのである。しかしここで完膚なきまでに叩きのめせないのがこのドラマの清盛であり、歴史上の清盛の姿でもある。そういう意味では、表現は極端であっても、このドラマは正しく歴史を描いているともいえる。「どーしてそこで逃がすんだこの甘ちゃんめ〜!」と私たちは思うわけだが、史実の清盛に向かってもまったく同じ感想を言うことができる。

少年の日、くらべ馬のあとで、意気揚々と去っていく馬上の義朝に向かって「次は負けないからな〜!」と叫んだ清盛だ。「次などない戦いにおまえは負けたんだ」と言うのは、そのときに呼応したセリフということになる。一騎打ちの後に馬に乗って去っていく敗者、という斬新きわまりない(笑)演出も、あのときに呼応しているのだ。このたびの義朝の、なんと悄然としていること。

去り際、「また会おう」と言った義朝だが、それはこの世の話ではない。彼は戦い終わったのだ。「この身は滅びるとも源氏の魂は滅びない」なんて、板垣退助読売ジャイアンツか、みたいなセリフもそれを表している。彼は武者としての己が終わったことを知っている。同時に、自分が父・為義のあとを継いだように、自分のあとを継ぐ者が出ると、いま勝った清盛とて、いつかは滅びてあの世で会うことになると思っている。

生ける屍のごとく舞台を去っていく彼が残すこのなにげない言葉は、歴史と呼応するわけだが、のちの平氏のためとかじゃなくて、そもそも義朝自身のために、ここでとどめをさしておいてやるべきだった…と思うかどうかは、来週にかかっている。巷間伝わる義朝の運命って、とっても苛酷っていうか哀れなんだけど、このドラマではきっと誇りをもって…だよね?!

しっかし、平氏の快進撃は楽しいけど源氏が負けるってことになると胸が痛み、かといって、「おごる平氏も久しからず」な展開もわかりきっていることだし、まったく心中忙しいドラマだ。こんなにもあっちこっちに感情移入させること自体、すばらしい大河であることの証左なんだけど、実はこの快感を大河で味わうのって久しぶりだったりするからね。

最後に、一騎打ちの殺陣はすげー見応えありました。馬上、両手を手綱から離して大剣をふるう松ケン…ってのを、どーしてもっと前宣伝しないかなあ。すげーかっこよかったのに!