ことば・3 満1歳9カ月

●「いないいないばあ」の「ばー」とか、「にらめっこしましょ」の「あっぷっぷー」とか、歌のフレーズみたいなものをタイミングよく言いだすようになったのが、1歳2か月。「サクちゃーん」と呼ぶと「はー」と手を挙げ、バイバイ、と言うと手を振るだけだったのが、合わせて「ばっばー」と声に出すようになったのが、1歳4か月。そのころに、上空を飛行機が通ったり、鳩が歩くのを指さすように。パパ、ママといつ呼んでくれるのかなーと思っていたら、1歳7か月、先に「おいしー」「んまー」「アンパン(マン)」を言うようになった(そしてまだパパ、ママとはたま〜にしか呼んでくれない…)。

●ということで、サクのことば・超初期をカテゴライズすると、
・1.歌のフレーズ: あっぷっぷ、せっせっせ、ばー(いないいない)
・2.ごはん関係: おいし、んまー(うまい)、ぱーい(乾杯)、あっちっち
・3.動作とともに: ばっばー(ばいばい)、たっち(立ちながら)、ぽー(ボール等投げながら)、あーと(ありがとう)
・4.のりもの関係: ぶっぶー(バス)、あいたー(ドアオープン)、た・と・た・と(がたんごとん)、しっぱー・とー!(出発進行)
ということになる。

●そのあとで、「ものの名前」を言いだして、
・1.動物など自然: ぽん・ぽん(兎)、わうわ(犬など)、ぴぴぴ(鳥)、がおー(ライオン)、パオー(象)、にぁにぁ(猫)、あっぱ(葉っぱ)
・2.たべもの: ばぁあぁあ(バナナ)、おーいーい→おーいーち(おにぎり)、じんじん(にんじん)、ぎぃい(牛乳)
・3.からだ関係: て、て(手)、め、め(目)、け、け(髪の毛)、お・ぱい(おっぱい)、(ちしゃ(靴下)
・4.キャラクター: どーえ(ドラえもん)、とっしー(コッシー)
など、今はこれらのカテゴリの語彙を増やしつつある。

●同時に、動作とともに言う語、
・たっと(抱っこ)、ちゅー(チュー)、ないない(おもちゃを箱に戻すなどしながら)
や、
・あっしゃー(発車)、しとーぷ(ストップ)、バシ(バス)
など乗り物関係のことばも増えていっている。

●たぶん、今、口に出すのは50語くらい。大人が言う語を理解できるのはさらにたくさん。

●子どもは、大人に言い聞かされた言葉を言うようになるわけじゃない、というのが私の印象。もちろん、どこかで誰かが言うのを聞いて覚えていくんだし、「語りかける」というのは大事なことだろうし、より多く聞いた語を発しやすい傾向もあるかもしれない。でも、間違いなく最多レベルに聞いているはずの「パパ、ママ」や、「おっぱい」や、「ごはん」より先に、たま〜にしか聞かないはずの「あっしゃー(発車)」とか「おーいーち(おにぎり)とかを言い始めた。

●発音が難しいから言わない、というのもあるかもしれないが、自分にできる範囲、自分が言いやすい発音でさかんにしゃべることも多い。子どもは、「これを言いたい」という意欲や、「一度ふと言ってみたら言えて、おぼえちゃった」というような順番で、しゃべりだすんじゃなかろーか。サクの乗り物関係のことばなんかは、完全に、興味・関心が先立っている感じがする。

●調音の代用では、
・[m]→[p] ex. お・ひ・ぱぃ(おしまい)。ぽ・い・た(もう一回)、ぱ・だ・よ(まーだだよ)、ぱてぱて(待て待て)
・[k]→[t] ex. たっと(抱っこ)、とっしー(コッシー)、ぽ・い・た(もう一回)
などが今も絶好調。

●「ら」行は難しいのか、あ行になる。
・どーえ(ドラちゃん=ドラえもん)。このとき、「どー」ではなく「どー」なのが面白い。母音[o]から[a]への移行は劇的でサクにとっては難しいので、より言いやすい[e]を使っているのだろうと思う。


●そういえば、「せっせっせー」以外で[s]音もあまり聞かない。「バス」は、「ばし」と発音する。「し」は言えるのだ、ただし、「i」という母音がついてない、英語の「rush」の「sh」部分のような音。これは、日本語の「さ」行のうち、「し」だけが[s]音ではないことに関わっているのだろうと思う。[s]は歯茎摩擦音、 「し」の子音[∫]は後部歯茎摩擦音(ともに無声)。 [∫]音だけ、舌の口蓋(上あご)にあたる位置が違うのだ。

●「せ」は言うが、「さ」「す」「そ」は言わない、というのは、サクにとって調音しにくい[s]の子音に、[a][u][o]のはっきりと口を広げたり狭めたりする母音を付加するのはより難しく、[e]のあいまいな母音のほうが言いやすいということだろーか? (サクが言う「し」は、発音記号で書くと[∫]で、[i]の母音はついていない)。

●仕事帰りの夫がサクに「おっす!」と声をかけるのだが、それに対しても、サクは「おっし!」と答えてるもんなあ。

●子どもによくある拡大拡張の用法が見られる。
・わぅわ(わんわん)を、名前を知らない四足の動物(馬やきりんなど)に使用。
・ちしゃ(靴下)を、靴にも使用。
・ぎぃい(牛乳)をほかの飲み物にも使用。牛乳は、牛乳パックを見ただけで「ぎぃい」と言うくらい正しく認識しているようなのに、同時並行してお茶や水を入れたコップを渡しても「ぎぃい」なんだよなあ。

●「あっちっち」も、湯気が立つものを見た瞬間に発語する、という正しい認識を見せているが、同時並行して、冷たい水がポタポタ垂れている蛇口を触ったり、ゴミ箱の中に手を伸ばして「あっちっち」というときもある。どうも、「これ、あっちっちだから触ったらダメだよ」という言い方で私が制するのを聞いて、「ママがさわってほしくないもの=あっちっち」という定義をしているようである。

●靴に対して「ちしゃ」と言ったとき、「くつだよ〜」と訂正すると、ものすごく口の中でくぐもった音で「くく」と言う。サザエさんが昔エンディングでビスケット詰まらせてたような音。音声記号で書くと[kk]で、これにも子音がついていない。


・ちゅーしたあと、最初「ちゅー」と言っていたのが、最近では「あ、ちゅ、た」
・ごっくんしたあと、最初「おいしー」「んまー」と言っていたのが、最近では「おいし、た」
・家のチャイムを押したあと、最初「ぴーぽー」と言っていたのが、最近では「ぴーぽ、た」
と言ったりする。やったこと、に対して形態素「た」をつけている…ような、気がする。

・提供された食べ物を見て、「おいし、しょー」とも言う。「おいしそう」なのだと思う。

これらの用法は大人から見て正しい。50語程度の語彙しか持っていない中で、このように文法的要素のある言葉を言い出すというのは、ひどく驚きだ。

●言わずもがなかもしれないが、私が子どもの成長を記録していくことに、「うちの子、もうこんなことができるのよ! すごいでしょ!」的なニュアンスは少しもありません。たとえば1歳9か月でもっと上手にたくさん喋る子もいるし、まだほとんど喋らない子もいる。サクは、サクなりの成長を、ほかの子はほかの子なりの遂げていく、それ以上でもそれ以下でもなく、スピードはどうあれ成長していくことが素晴らしく、命の驚異であると思っています。

●ことばについては、私は大学で言語学を専攻したのもあって、自分の子どもの言語獲得については、できれば詳細に観察、記録していきたいと思っています(どこまでブログにアップできるかはわからんが…。しかも、言語学の用語の定義についてはすでに記憶があいまいなので、大雑把なニュアンスで書いてます。間違ってる箇所もあると思う)。

言語学…というか、心理学にせよ宗教学にせよ、人間科学の分野では、いろいろな種類の言語(や心理や宗教)の優劣を論じないのが基本です。日本語は英語より難しいとか、仏教はイスラム教より優れているとか、言葉が喋れることは、言語分野に障害があることよりすばらしいとか、そういう概念はいっさいなく、むしろ、あらゆる言語や心理、宗教、それらの裏に共通してひそむ法則を客観的に解明、記述していこうという学問で*1、私は優秀な学生ではなかったけれど、そういうフラットなスタンスがすごく好きでした。

*1:学界に深く根をおろせば、学閥とか、学問の流派による好悪や偏見などもいろいろあるのだろうが