ことば・9 満2歳2カ月 「ネガティブワード」

最初に獲得したネガティブワードは「ちがう」。次に「いらない」。そのあと「やーだ」、そして「だーめ」。あまり、使い方に違いは見られないような…。つまり全部「いや」の意。「いらない」を言うようになったとき、しばらく「ちがう」を言わなかったんだけど、そのうち復活して併用しだした。

それぞれの語の意味のちがいをどれだけ理解しているのかはよくわからない。あまり区別していないようにも聞こえるが、実際、これらの語って、日常生活では汎用性があるんだよな。一言で、「ちがう! ちがう!」というときもあれば、「おふろ、いらない!」とか「かえる ちがう!(帰りたくない)」のように二語で言うときもある。

「帰るよ〜」と言われて、「帰らない!」と返すような、○○ない、の形に活用させることは、まだない。「いらない」も、「いる」の否定形、という意識ではなく、「いやだ」の意を表す一語だと捉えているっぽい。しかし、基本的には、「イヤなもの + ネガティブワード」という形だから、語順を理解しているのかもしれないし、「○○ない」の否定形の作り方に準拠しているといえるのかもしれない。

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面白いのは、自分の要求に対して、代案が提示されたときの否定の仕方。

サクがおっぱいを飲みたいと言う。それに答えて、私が「お茶を飲もうよ」と言う。すると、サクは、「おっぱい やーだ!」と言うのだ。この言い方だと、おっぱいが嫌であるかのように聞こえる。本来は、「おちゃ やーだ! おっぱい!」とでも言うべきなんだろうが、まずは自分の強い要求=おっぱいを強調し、次に、代案を拒否する、という発語をする。

「やーだ」の前には嫌である対象物がくる、という日本語の構造を基本的には理解しているけれども、こういう場合になると不思議な発語になるのは、必死になっているからか? それとも、対象物がふたつ登場すると混乱するのか? いろいろ前提条件を工夫して実験したら、言語心理学の卒論ぐらいにはなるんじゃないかしらん。

ふと、思いたって、「サクちゃん、なにか飲む? お茶と牛乳、どっちがイヤ?」と聞いてみた。何かしら問いかけられたのはわかったようだが、理解に苦しんでいる様子で「うーんと…えっと…」みたいにモニョモニョ言ったあと、元気に「しんかんせん!」と答えられた。

何時間も経ったあとで、今度は「サクちゃん、なにか飲む? お茶と牛乳、どっちがいい? どっちを飲む?」と質問。反応は先ほどと同じ。実際にお茶と牛乳の現物を両手に持った状態で言うと、好きな方を選ぶと思われるが、言葉だけのやりとりでは、これぐらいの構文はまだ理解できないんだな〜!

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追記: 上記を書いてから2週間近くが経った。最近のサクとのやりとり。

サク 「これは?」(絵本を指さす)
私 「赤いくるまだね」
サク 「ちがうよ、オレンジ くるま だよ」

サク「これは?」
私 「大きいトラックだね」
サク 「ちがうよ、大きいブルドーザーだよ」

もともと、「ちがう」の語は、「自分のやりたいことじゃない=イヤ」の意だったが、今はもっと純粋な「否定」の意味で使うようになっている。こういうやりとりのとき、「いらない」とか「だめ」とかは絶対に言わないから、やっぱり、それぞれの語の意味を感覚的に理解している(理解するようになった)んだと思う。