名古屋ウイメンズマラソン2012

最終選考会にふさわしい激戦だった。日本女子マラソンエース格の尾崎、赤羽、最近はふるわないものの絶品の記録をもっている野口と渋井、新鋭の中里に伊藤。ずらり並んだ有力者たちがトップグループに集い、徐々に振り落とされ、また追いつき、あるいはスパートをかけては不発に終わり…の繰り返し。目が離せないまま2時間半があっという間に。

終始いい位置取りで一度も遅れることなく走り、日本人トップをもぎとった尾崎はさすがの横綱相撲ってところ? 30km過ぎか、一度スパートをかけてみたものの赤羽、中里らに対応されて失敗してからは、「もう最後の最後まで勝負しない」って決めてたんだろうね。35kmでマヨロワが並ぶ間もなく抜き去っていっても、ほとんど相手にせず(そこはしろよ! と観戦者の立場では思っちゃうんだけど…)。

42km手前での勝負をかけたスパートはまさに「爆発!」という感じで、有森さんも「いい走りですね〜!」と手放しで褒めてた。有森さんの解説は、やたらめったら応援モードで優しいコメントはしないし、「こういうときに対応できるのは、しっかり練習してしっかり体を作ってきてる人だけですね」みたく、しらっと厳しいことも言うが、その分、褒めるときは心っ底感嘆し感激し敬意を払ってる感じがして、ほんと好きだ。メリハリがあるので、レースがピリッと引き締まる。

そのスパートで中里選手をどんどん引き離しながらドーム内に入る直前、山下佐知子監督がダーッと並走してきて何かを叫んでいたけど、あれは「勝負あったから!」と言っていたらしいです。臨場感あるぅ〜! ゴールした後のふたりの思いっきりのハグと、ニッコニコしながら彼女の手をつかんで天高く挙げさせる監督の絵がすごく良かった。尾崎さんが快走すると、山下監督の満面の笑みや、さばけたインタビューが見られるのもうれしいんだよね。

そしてこのレース、もうひとりのヒロインは間違いなく野口みずきで、17km過ぎ、そうそうに先頭集団から脱落したときは、私も「やっぱり…」という思いの禁じえなかったひとりだが、150m、30秒近く遅れたあとで、25kmから猛然と追い上げて29kmで追いつき、ペースメーカーの外れた集団の先頭に立ったときは、笑いが止まらなかった、すごすぎて。「はい消えた」と思ってただろう集団の面々の驚きと狼狽を思うとね、みずき、鬼だ〜!と思って。有森さんももちろん絶賛。

その後、一度スパートを試みるも尾崎・中里らにぴったり付かれ、追いついてきた疲労もあって、やはり33キロ過ぎで再び遅れてしまうんだけれども、総合6位でゴール。日本人では彼女の上に4人しかいなかったってことだよ、一度追いついてきたときの集団は日本人だけで8人いたんだからね。だいたい、33才になり、4年4ヶ月ぶりのマラソンで2時間25分33秒って、なんだそれ、やっぱり笑える。モノが違いすぎる。

失礼ながら、アテネで金メダルを獲ったころから「老け顔だな…」なんて印象だったけど、あのときも、走り終わった直後の顔ってすごく輝いてたよね、神々しいというか。今回も、ゴールで涙する姿のなんと美しかったこと。悔しさもあったかもしれないけど、あれはやりきった顔! 42.195kmを走りきるということには、あれだけの表情にさせるものがあるんだな。

彼女は負けた、と思う人もいるのかもしれないけど、やっぱり「始まった」んだと思う、ここから。レース後のインタビューでの、「一度遅れたけど、絶対にあきらめないと思って追いかけた。追いついてから後半は元気が出てきて、やっぱり私にはマラソンが向いているんだと思った」って言葉も、文句なしにかっこいい。

さて、名古屋ウイメンズって、以前の国際レースじゃなくて、市民マラソンにもなったんだね。すっごい数の参加者だった。そして、終盤、激しいトップ争いを繰り広げるエリートランナーたちを、折り返しのところで、わざわざ足を止め、拍手と歓声を送って応援する市民ランナーが多くて、微笑ましかった。有森さんも「珍しい光景ですね」と。

出産後復帰していた土佐さんはこれで引退だそうです、さみしいですね。2時間43分。ヌデレバやシモンが早々に先頭集団から落ちていくのも少しさみしい。でも、走り続けている彼女たちを見るのはうれしい。ちなみに、聡子ロンドンこと安田美沙子もこのレースに参加していて、なんと目標の3時間45分を切ったそうです。すンげー!