『陋巷に在り 儒の巻』酒見賢一

陋巷に在り〈1〉儒の巻 (新潮文庫)

陋巷に在り〈1〉儒の巻 (新潮文庫)

どうやら私はひさびさに巨編に手を出したようだ。

や、10巻以上あることはわかっていて手に取ったのであるが、1編ごと、あるいは1冊ごとになにがしかのケリがつき、それとは別に縦軸があって・・・というような連作の類ではなく、こんなにも純然たる長編小説とは。

脇役、しかも小ボス的な存在についてもばっちり章が割かれたり、主人公だれだっけ?というぐらいに孔子視点が多かったり。「1巻なんて序の序であるぞよ」という作者の声が聞こえてくるようである。うーん、快い小憎らしさにあふれた読みごたえ!

古代中国については学校で詳しく習ったこともないし(世界史は必修しか取りませんでした)、宮城谷昌光のやはり長編小説を20代前半までにいくつか読んだくらいなので、「あー、そうそう、楚やら呉越やらの南方は蛮地とされていたんだよね(中華思想)」、「周王朝の周辺国は“姫”姓が多いんだよね」とか、散漫であいまいな知識を掘り起こしながら読むのもおもしろかった。
このシリーズを読破したあかつきには、一時的にせよ中国古代史についてだいぶ詳しくなりそうだが、そこは酒見賢一の書くものだからして、注意が必要よね。作者のデビュー作『後宮小説』を読んで(この辺に過去記事→後宮フェチ - moonshine)、いかに小学校高学年だったとはいえ、「これは中世の中国大陸のどこかに存在した小さな国の史実をもとにして書かれたのだろう」とばかり思い込んでいた愚直な読者たる私である。

刊行当初、「ずいぶん長くなりそうだから、終わってから読もうかな」と思っていたのだが、そうか、2002年完結か・・・。光陰如矢! ともかくも、ここを幕開けに、虚実ないまぜの壮大な物語がまことしやかに描かれているのは確実。楽しみたいと思う。