「本の雑誌 特集 平成時代小説八百八町!」より

図書館にて、本の雑誌のバックナンバーを借りた。2011年夏か秋くらいの号で、特集は、「平成時代小説八百八町!」 なかなか興味深い記事があったんでメモと雑感を残しておく。

◆「おすすめ時代小説対談 青木逸美 東えりか」より

●挙げられていた作品の中から、これから読んでみたいものメモ。

  • 築山桂『緒形洪庵 浪華の事件帳』 … 原作もさることながら、窪田くん主演のドラマも見たい! レンタルしちゃおかな…
  • 高田郁『みをつくし料理帖』 … あんまりにも売れてるんで、もういいかな、って気持ちになったりもするんだけど(あまのじゃく)、やっぱり一度は読んでみようと思う。ただ、ここまでくるとなかなかきっかけがない笑
  • あさのあつこの時代小説 … 現代小説(青春小説)でならした人が、時代小説の世界をどういうふうに描くのか読んでみたい。でも、(私が知る限りの)既刊には、やや苦手な設定が多いんだよな。
  • 富樫倫太郎『早雲の軍配者』 … 「軍師を育てるための学校の話。戦国版ハリー・ポッター」という紹介に惹かれました。「堂島物語」っていうのを本屋で見かけて気になってたの。江戸の本格経済小説らしい。つまりこの人、時代小説書きの中でも、明らかなニッチ狙いなのね。ディテールの細かい作品って好きなのでいつか読んでみたい。
  • 宇月原晴明安徳天皇漂海記』 … これも本屋でずっと気になってるけどずっと買ってってない本。タイトルと作者の名前だけど雄大な歴史SFって感じがしてきて、良い。対談の中でも異色作品としてすすめられていました。


●その他、読んでの雑感。

宇江佐真理、「時代小説のオビによく使われる“市井の哀歓を描く”てフレーズがこれほど似合う作家もいない」「平岩弓枝の「御宿かわせみ」シリーズ同様、江戸の大河小説」同感。初期に比べると哀歓のボリュームがややダウンしているように思うんだが、伊三次&お文や同心の不破一家の日々はずっと読んでゆきたいものです。

山本一力、これも「初期よりちょっと…」の指摘に膝を打つ。ま、この人の場合、「あかね空」が凄すぎたというのもあるんだろう。

和田竜(「のぼうの城」)、北沢秋(「哄う合戦屋」)、沖方丁(「天地明察」など)。対談には挙げられなかったけど、今、「本屋大賞」経由で売れる、という時代小説もある。映画化や漫画化もされたりして、勢いのある潮流。誰が大成してゆくか楽しみ。「のぼう」「合戦屋」を読んだところ、和田竜は司馬風のスケールの大きな文体を用いるけど世界観は少年漫画ふう。北沢秋は時代考証に細かいが、人物や展開にはやや粗さ(平凡さ)が見られたように思う。沖方さんの本も読んでみたい。

最後に、「なんちゃって江戸」「なんちゃって戦国」な時代小説が多い、との指摘には心底同意。まあ、小説って娯楽だから、需要と供給の法則をみたすのはそういうライトな感覚のものなんだってことだろうけどね。オタクとしてはディテールがきちっとした時代小説が読みたい。と思っていたら、ディテールに凝り過ぎてて肝心のとこが…って作品もあったりするんだよね。だから、安全・安心印の司馬・藤沢・池波ばかりをいつまでも読んでいたりするんだけど、こういう対談を読むと、「今、生きている時代小説」を敷衍できるようにもなっていきたいな、とも思う。やっぱ浪華の事件帖あたりから始めましょうかね。それにはやはり、まずは窪田くん主演のドラマから…げへへ。



◆私流 時代小説相関図 青木逸美 より

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【市井の人情物】 
山本周五郎
  ↓
藤沢周平
  ↓
乙川優三郎、北原亞衣子、諸田玲子あさのあつこ、北重人

エミ考: このカテゴリにはほかにもたくさんの作家がいると思うんだけど、私としては、藤沢周平のオルタナにはまだ巡り合えていない感。

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【骨太歴史大作】
司馬遼太郎
  ↓
宮城谷昌光
  ↓
酒見賢一
  ↑
【中国史
 井上靖
  ↑
 北方謙三

エミ考: うむ。酒見賢一は偉大だ。読者としては、一冊完結とか、上下巻とかで終わるものも手掛けてほしいものだが、そんなのものともせずに大作にばかり取り組むところがまた大物なのか…。宮城谷さんはもう20年ぐらいコンスタントに書いててすごいと思う。全然追いきれなくなった。

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【剣豪小説】
中里介山
 ↓ 
吉川英治
 ↓ 
五味康祐
 ↓
峰隆一郎隆慶一郎津本陽、鳥羽亮、佐伯泰英

エミ考: 藤沢周平も剣士書かせたらかっくいいぞ。

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【捕物帳】

        → 半村良 → 宮部みゆき
岡本綺堂 → 平岩弓枝 → 宇江佐真理
        → 京極夏彦 
          ↑  
         泉鏡花

エミ考: 「用心棒」や「立花登」シリーズを擁する藤沢周平は、ここにも入れていいんじゃないかしらん? つまり偉大すぎるんだよね、藤沢周平が…!

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【平成戦国三人衆】
 加藤廣、安部龍太郎山本兼一

エミ考: 笑笑笑。昔、わりと時代小説が好きな人に加藤の「信長の棺」をすすめたら、ぜんっぜん面白くなかった!と言われたトラウマがある笑 ま、とっつきやすくはないわなあ。山本兼一って「利休にたずねよ」だっけ? 安部さんは昔、新聞小説を読んだことがある。ご冥福をお祈りします。



◆「文庫書きおろし時代小説はやめられない! 鏡明」より
峰隆一郎の切り開いた路線を一挙に拡大した佐伯。別格。次は上田秀人。圧倒される。
女性作家では高田郁。

エミ考: 佐伯さんとはなかなか縁がなさそう。すごく練られたエンタメなんだろうなあというイメージ。上田秀人のディテールは確かにすごい。でも、あらすじや人物の描き込みが薄くて驚くほどだった。天下の蘊蓄小説。高田郁は、機会が巡ってきたらぜひ読みたい。

◆「ややこしい男たちの勇姿に酔う  大矢博子」より
『幕末麻雀新選組』 松野杜夫のこと。

  • 新撰組のメンバーは麻雀が大好きという設定(麻雀が入ってきたのは明治なので真っ赤なウソ)
  • 近藤たちが芹沢一派や清河八郎と知り合うのも麻雀なら、遺恨が生まれるのも麻雀。脱走した山南を追った沖田は近江の宿で名残の麻雀を打つ。
  • しかしバカにしたものではない。隊士個々のキャラが麻雀の打ち方に現れているのだ。軍法に通じる部分もあり、おお、と思わせる。一緒に卓を囲み、手の内を読むことで、性格や考えを描いていくのである。だから麻雀の出番がないチャンバラシーンは実にあっさりしている。新撰組の白眉である池田屋事件のくだりなんて「その夜の新撰組の活躍は書くまでもなかろう」で終わってるんだぞ! 新撰組小説多しといえど、池田屋を「書くまでもなかろう」で済ませた小説はこれだけだ。

エミ考: めっちゃ面白そうやん!