ベルリン世界陸上、男子槍投げ決勝、男子マラソン、男子5,000m決勝ほか

ついに世界陸上は最終日です!

男子槍投げ決勝、村上選手、やりましたね!!! 
大荒れの天候で行われた予選Aグループ、大学時代の師匠である解説の小山さんも心底びっくりの堂々たる1位通過! 世界大会の決勝進出は初めてということで、決勝前には、「いやー、村上、緊張してますね。しょうがないですね。(自己ベスト記録的に)上位を狙うとかいう立場ではないんですから、失うものは何もないんですから、思いきって投げてほしい。」と、解説されていました。でもそのコメントは、今になって思えば、まるで小山さんご自身を落ち着かせるかのようにも聞こえました。

投擲種目の決勝は各人が3投し、その時点で上位8番目までの選手が残ってさらに3投します。1投目、いかにも強そうなキューバのマルティネス選手は早々と83m超え。これは、自己新をマークした村上選手の予選記録よりも既に上回っています。村上選手の1投めは、76mという平凡な記録。さすがに力んでいるようです。そりゃそうですよね。緊張するよ。そうそうたるメンバーの中に入っての大舞台なんだもん。

予選ではパッとしなかった北京五輪金メダリスト、ノルウェーのトルキルドセンは、この決勝できっちり修正してきて、2投目に早々とビックスロー! 89m59ですよ! これが王者の力か。「これから投擲をやっていこうという全ての選手に、このトルキルドセンのフォームを見習ってほしいですね。」と、小山さんも感服の解説。はっきり言ってこの時点では、(村上さん、やっぱりこれまでの記録的に厳しいよなあ・・・)なんて思ってました。どうでもいいけどトルキルドセン、呆れるほどのイケメンだな。

村上選手の2投目、投げる前、彼はいったいどんなことを考えてたんでしょう。小山さんがすすめるように、いい意味でひらきなおったのか、それとも俺だっていける!と奮起したのか。今日は調子いいなー、って感じがあったのか、あるいは、緊張してわけわかんないほどだったのか。ぜひ知りたいところだけどわかりません、でも、とにかく、この2投目、彼が投げた槍は大きな大きな放物線を描き、82m97の地点に落ちたのでした! 「これは素晴らしい! 村上、最高の投擲をしました!」と、小山さんも大喜び。村上選手もうれしそうな表情です。しかし、周囲の有力選手たちにもまだまだ回数が残っているのですから、この時点でさえも、「ベスト8は確実ですね!」というくらいのことしか言えない状態だった。

そのとおり、村上選手は前半3投で3位の記録、当然ベスト8に残り、残りの3投の権利を得ます。しかし上にふたりいるのはもちろんのこと、下の選手も、前回大阪大会の金メダリストたるピトカマキ(フィンランド)、今シーズン最高記録をマークしているベシレフキス(ラトビア)など、村上さんを上回る実績をもつ選手ばかり。しかし、これが世界大会のおもしろさ、村上選手もなんですが、ほかの選手にもこれ以降、なかなかビッグスローが出ません。

ひとり、またひとりと6回の投擲を終えていく中、「村上選手、6位確定!」「5位以内確定!」と順位を上げていきます。そのたびに解説の小山さんが吠えてます。そして、起死回生の一発を出す可能性がおおいにある、見た目も怖そうなベシレフキス選手が最後の投擲、うわーでかい! かなりヤバい! パッと見、村上超えなのかどうか、わかりません。「いやー、苦しい!」と小山さんも。しかし! 82m37! つまり、ハンマー投げの室伏選手以外、まったく望みがないと思われていた投擲で、日本の村上選手が銅メダルを獲得!

もうその瞬間、小山さん、雄たけび。
「勝ったー! いったー! すばらしい! ハマモト先生! ウウッ・・・・」
と、誰かの名を叫んで、しばし絶句。確実に泣いてます。
「いやー、高校時代から15年間指導している、ハマモト先生・・・」と言いながら、涙、涙。
こんなに熱い優勝解説を見るのは、そう、昨年の北京五輪で女子ソフトボールチームが見事に金メダルをとったときの宇津木・元監督以来。

小山さんの男泣きっぷり(顔、映ってないけど)、そして、村上選手の、肩の荷をおろしたような、心底ほっとしたような小さな笑みを見てると、やっぱり泣けてくるのでした。小山さん、すぐに、
「村上は、100人、200人の人に感謝しなければいけない。万以上の人の支えでここまできたんですから・・・」
と、言う。すすり泣きながらのこの発言は、決して上から目線ではなくて、本当に、この投擲種目を支えてきた日本人として、選手やスタッフとおんなじ目線で、心底喜んでいることがびんびん伝わった。

予選のときも書いたけど、この小山さん、砲丸投げハンマー投げ円盤投げ槍投げも、男女すべて、今大会の投擲種目の解説を一手に引き受けていていました。その中では世界記録や、地元ドイツ選手の素晴らしい戦いぶりなどもあって、彼の投擲種目への熱意のこもったコメントをたくさん聞いてきました。でも、でも、まさか本当に日本の選手、しかも大学時代の教え子が、最終日にこんな金字塔を打ち立てるなんて思ってもいなかったに違いない。銅メダルだけど金字塔でいいんです。この大会の最後に、彼が、自分のことのように喜べる場面があったことを、テレビの前でほんとにうれしく思った。
村上選手、おめでとうございます! 小山さん、ハマモト先生、村上選手を支えてこられた皆さん、本当におめでとうございます! はにかんだような表情で大きな日の丸の旗をたくましい肩に掲げる村上選手、すてきでした!

さて、最終日はその他もすべて決勝種目。

男子5,000mには、皇帝ベケレが登場ですよ! ・・・とはいっても、透徹と澄み切った表情で臨んであたりまえのように優勝した10,000mのときに比べ、スタート前のベケレ選手の表情は、笑顔の中にも「まあ見ててよ。やってやるから。」みたいな、トップアスリート的な闘志で燃えてるように見えます。

いつものように、ラスト1周までは、3番手〜4番手のいい位置をキープしながら、ゆうゆうとジョギングするのかと思いきや、スローペースのレース展開に業を煮やしたように序盤からトップに立ったりもし、かと思うと、「ちょっとー、誰か他のひと、ひっぱってよ。」みたいに、するっと下がったり。テレビで見てる分には全然わかりませんが、細かいペースの上げ下げによって、彼自身も揺さぶりをかけているようなのです。こ、これは余裕のあらわれなの? それとも、けっこういっぱいいっぱいなの?

もうラスト2周といったところでも、先頭集団はびっちり固まって10人はいるでしょうか。その中で、まるでいつものベケレのように、終始、前のほうで息をひそめている前大会覇者・バーナード・ラガト選手(アメリカ)が不気味です。あ、ラスト1周の鐘が鳴る! ・・・って、みんなスパートかけてきてるけど、ベケレ、まだ抜きんでない! バックストレートもまだ団子状態! 3コーナーのカーブでひときわ足が伸びてきたけど、ラガトが、ラガトが猛追! 4コーナーまわって直線、ふたり並んでる! 解説の高岡さんも、「まだまだわかりませんよ!」って、え、ええ、どっちが勝つのー?!

結局、1秒の差もありませんでした。しかし最後、走ってる本人は自分の足が上回っていることを確信したんでしょう、右手の人差し指を軽く突き上げながら笑顔でゴール。5,000、10,000の2種目制覇です! やっぱりアナタは皇帝だった。

そして、ようやくながらにマラソンのことを。

まず今大会のマラソンコース、これはいったい、どうなんでしょうか。
どんな世界大会、いや、東京マラソンでもわかるように、人気のある市民マラソン大会に至るまで、マラソンコースというのは、その都市のランドマークや歴史的建造物、大きな目抜き通り、風光明媚な緑地などを通るように設定するのが常道です。選手たちが2時間以上も勝負を賭けながら、その都市を宣伝してくれるようなものですからね。今回も、国立博物館とか、ベルリン大聖堂とか、なんとか公園、勝利の塔などを配したのはよくわかります。

しかし、10キロコースを4度周回するって、なかなかないですよ、こういうコース。曲がり角、いったい幾つあるのよ。異常に道幅が狭い場所も多いし、その中には、古い石畳の道や、路面電車の軌道もあります。軌道は靴がすっぽり嵌まるくらいらしい。いくらアップダウンがないとはいえ、これが、大会が喧伝する高速コースなんでしょうか? や、みんなおんなじ環境で走るんだから、別に高速コースである必要はないんですが、そもそも、かなり危険度の高いコースでは?

思うに、このコースは、走る人ではなく、運営主体だったんだろうなあ。沿道係や警備スタッフにとっては、変則的だったり半分で折り返すコースよりも効率的に仕事が出来るし、ギャラリーも集めやすい。確かにベルリン市民の応援はすごかったです。どこでもたくさんの人がいたし、どの国の選手にも大声援が送られていました。4回まわるってことで、選手もコースを把握しやすかったってのはあるかも。ただ、仕掛けどころが非常に難しかったとは思うけど。ま、よくわかりません。とにかく、そんないっぷう変わったコースでした。

先に行われた男子のほうは、昨今の世界大会の実績のとおり、正直、日本選手は厳しいと思ってました。そのとおり、この変わったコースや、高い気温をものともしない高速レースに。日本の5選手は、無理して突っ走るのではなく、それぞれが自分のリズムで走っていく戦術です。15キロ時点で、すでに日本選手は先頭集団の中にひとりもいません。

佐藤選手は日本人選手の中で一番前にいながらも、14〜5位あたり、しかも展開の悪いことに、前後にランナーがおらず、ずっと一人きりで走っています。これは良くない! いかに自分がいまキロ何分を刻んでいるかは体得しきっているようなトップアスリートとはいえ、一人で走るのは精神的にきつい。目の前の目標や、すぐ横を走る選手の息づかい、足音によって鼓舞される部分って絶対あるのです。くそー、今回のコースが憎い! こんなに曲がり角が多けりゃ、前を行く人もなかなか見えません。

しかしここからがびっくり、終盤にかかるに従って、佐藤さんはひとりきりでもピッチを上げていき、前の人が見えてきました。こうなると、心を強くもって追う者が強い。足にきた人たちを徐々に追い抜いて、35キロでは9位に上昇。あとひとり、あとひとりで入賞です。でも前を走る人の姿はまだまだ遠い。あと7キロちょっと、追いつけないことはない、って思うのは簡単だけど、30秒の差って、マラソンといえどもかなり厳しいです。それに佐藤さんだって相当疲れてるはず・・・・! 追い抜けなくてもいい、とにかく、足を死なせないで、そのままの力強い走りでゴールしてほしい!

依然として佐藤さんは全然元気です。「あー、佐藤の微笑み走法ですね」「この独特の微笑み走法、久しぶりに見ましたね!」と、解説の瀬古・高岡両名もうれしそう。終盤、息が苦しくなると、どの選手も口を開いて必死に酸素を出し入れするのですが、佐藤さんは調子のいいとき、その表情が微笑んでいるように見えるらしいのです。最後の1キロ、また前の人が近づいてきた! 佐藤さん、サングラスを投げ捨てる! そして最後の1キロ足らずで、ひとり抜いた、ゴール間際であと一人! 7位、7位だ、入賞だ! と沸き立っていると、先頭集団にいた人が、ひとり棄権していた。てことは、6位! すごいすごい! 見事に北京の雪辱を果たしました! 清水選手、11位! 入船選手も14位!

我が家のすぐそばも通る、毎年12月の福岡国際マラソン以外で、国際大会レベルの男子マラソンを最初から最後までじっくり見たのは、本当に久しぶりでした。それはやっぱり、ここんとこの日本選手の成績が、イマイチ芳しくないと思ってたからです。ひとりで走るという苦しい展開に耐えて、ラストでどんどん抜いてった佐藤さんの走りは本当に素晴らしかったし、感動しました。実況でも、「佐藤の走り、箱根駅伝を見るようです!」と言われてた。ただ、勝手な感想を述べるならば、福岡に住む私にとっては、関東の大学駅伝大会(しかも男子のみ)である箱根駅伝にはそれほど馴染みがなく、従って真剣に見たこともありません。

佐藤さんの最後の走りは、きっと本当に箱根駅伝のように本当にドラマティックだったのでしょう、私も泣けるほど感動したし、心の底から拍手を送りました。ただ、あまりにも高速化が進む男子マラソンの中で、あとから拾っていく走りでは、入賞はできても、やっぱりメダルには届かないんだろうと思いました。

今回の大会でも、最初から飛ばした先頭集団の中で、ふたりが棄権しました。彼らはイチかバチかの勝負に出て、敗れたのと同時にロードから途中で去ったのです。メダルを獲ったのは、その高速勝負に振り落とされず、最後まで残った選手でした。私は日本人なので、「レースに出たら完走する」のがまず前提だ、と思ってるところがあります。飛び出して棄権するより、後順位でも完走した人のほうを称える部分って、日本人のメンタルにあると思う。先頭集団に惑わされず、自分のリズムを崩さずに走りきった彼らは、日本人選手らしかったし、本当に素晴らしかった、でも、メダルはやっぱり遠いんだな、と思いました。だからダメとか言うつもりは全然ない。私はマラソンファンなので、メダルには全然こだわらないです。ただ、男子マラソンは恐ろしく速い次元に入ってるんだな、としみじみ思いました。

むちゃくちゃ長くなったので、閉幕後もなおひっぱり、女子マラソンについてはまた明日。