ベルリン世界陸上8日目、男子4継リレー、棒高跳び決勝など!

8日目、ついに分割睡眠の実施に踏み切りました。

いったん深夜1時前に就寝し、男子4×100mリレー決勝に合わせて3時30分に起きることに。夫も一緒に見ようかなぁなんて言ってましたが、何となくアラーム音は小さめにセット。心身、緊張感にみちみちていたのか、すばらしいリアクションタイムで目覚める。やはり夫はかなり気持ちよく寝ている様子だったので、ひとりこっそり寝所を抜け出してテレビの前に陣取りました。こういうことしてるだけで、特別な夜だって感じがして胸が高鳴ります。

深夜、ライブで見るとこっちまでもってかれそうになる織田さんのテンションにも、もはやかまってられません。予選を勝ち抜き、トラックの4箇所、インコースからアウトコースまできれいな斜めカーブで並ぶ各国の選手たちは、まさに歴戦の猛者ぞろい。その中にあって小柄で華奢なはずの日本人4選手が、すごく頼もしく見える。この晴れがましい舞台に日本チームが立っていること自体、じゅうぶんに感動的だけど、あの4人はもっと遥かな高みを目指してるんだな。

さあ号砲! 息をつめて見守る40秒足らず、この日ばかりは、いかに世界新がかかってるとかいったって、ボルトだとかパウエルだとか見てる場合じゃなく、ひたすらに日本チームだけを凝視してる自分がいる。4継リレーはきっちりレーンに沿って走るので、途中のカーブなんかは、もうバタバタしてはっきりとした順位がわからない。わからないけど、圧倒的に遅れたりしてないことはしっかりわかる。全然勝負になってる、今日も! なんか黄色いランニングシャツの、ひときわデカい人が目の端を駆け抜けていくんだけど、それはまあどうでもいい! 最後の直線、おそらく9秒台で走れる選手たちの間を縫って走るアンカーの藤光選手、負けてない、抜かれない、すごいすごい! トバゴ、イギリス、ああ、日本が4位でゴールした!

解説の伊東さん・朝原さんからも、レース中は日本チームについてのコメントしかなくて、おふたりとも4人の走りに至極感激されてる様子だった。「いいですよ、いいですよ」って言葉が何度も出てた。中でも、アンカー藤光選手について、「いやー、予選では、そうそうたる面々を横にしてさすがに硬くなってて、これはどうなることかと思ったけど、決勝は良かったですね! この秋以降、飛躍的に記録を伸ばすきっかけになりそうな、素晴らしい走りでした!」という解説が印象的だった。4人の中では、ちょっとだけ見劣りするタイムの彼なので、これを聞いたらすごく励みになるだろうな。

結果だけを見たら、北京五輪を下回ってるし、メダルも獲れなかったわけで、走った本人たちも芯から喜べはしなかったかもしれない。でもほんとにいいレースだった。体格も筋力も心肺機能も白人や黒人に劣る遺伝子をもつ日本人が、メダルに肉薄するほど互角に戦えるってこと、それを証明し続けること。日本のスプリンターたちは、このリレーで、その輝かしく(そして諦めの悪い)歴史を連綿と紡いできたわけで、そのバトンは今日も繋がれた!

直後、競技場内でのTBSのインタビューに対した4人、メダルに届かなかったことへの悔しさを口にしながらも、それぞれが力を出し切れたという手ごたえはあったようで、みんないい表情でした。中でも、塚原さんだよー! 4人1列に並び、走順に答えていってたんだけど、チーム最年長として(といっても25歳の若さなんだけど)、まとめ的な感想を落ち着いて話す3走の高平選手を真横からギラギラした目で見つめ、大きく頷きながら聞くツカポン。顔、怖すぎ! あまりの顔相に恐れをなしたのか、カメラがスーッとツカポンをフレームアウトしていきました・・・。4人+1名(棒高跳び決勝、この時点で既に試技を終えていた澤野さんも、同時にインタビューを受けた)のコメントが終わった後も、まだ何かしゃべりたそうだったツカポン。や、日本人離れした闘志あふれる態度、怖いけど好きです!

当初の予定では、この競技だけを見てまた寝ようと思っていたのだが、交感神経がギンギンに活発化しちゃってテレビの前から離れられなくなってしまった。そのうえ、間髪おかずに放送された男子棒高跳びの決勝、大詰めのもようが、これまた凄すぎましてね。

北京五輪の金メダリスト、スティーブン・フッカー(オーストラリア)は足の付け根の故障がかなりひどいらしく、予選でもたった1度、高いバーでの跳躍しかしなかったらしい。ま、その1度で決勝進出を決めてくるあたりが王者なんだけど、予選の後は、ひとりで歩けないくらいだったんだって。

決勝でも、フランスのラビレニ、メニルという両選手が順調にクリアを重ねてバーを上げていく中、フッカーは次々とパスを繰り返し、登場したのは、なんとまだ誰もクリアしていない5m85のバーのとき。3度続けて失敗すると終了するというルールの跳躍種目ですから、この高さから始めるというのは、「金メダルか。それとも“記録なし”に終わるか」という危険すぎる賭けです。金の巻き毛を肩まで散らし、ヘアーバンドを額につけたその姿は、'69年ウッドストックで歌っててもおかしくないような風貌で、それだけで私は肩入れしちゃうってもんです。

1回目、バーは落ち、頭を抱えるフッカー。「いくら彼でもこの高さからってのは・・・」と解説の方も消極的なコメントを出します。フッカーはこの高さの2回目には挑戦せず、さらにバーを上げてきました。もちろんこれは、失敗の数が少ないほうが上位になるからであって、つまり彼は、こんな圧倒的不利にあっても、メダルを、むしろ金メダルだけを狙っているのです。高いバーになればなるほど当然、成功する確率は下がり、このままいけば本当に、ひとつのクリアもなく「記録なし」に終わってしまう!

5m90cmの1回目、さかんに自分を鼓舞する(のであろう)言葉をつぶやき、鬼気迫る様相で助走をスタート。そして、そして、彼の体は、ひらりとバーを超えてゆきました! なんという、なんという技術、集中力、勝負根性! まだ3度の失敗がついていない選手もいるのですから、この時点で優勝が決まったわけでもありませんが、バーを超え、マットから退いた彼は、そのまま座り込み、顔を膝を抱えた格好で激しく嗚咽しました。

輝かしい実績や、それを裏づける努力をひっさげ、周りの人たちの支えをも背負い、俺は跳ぶ、跳ぶんだと言い聞かせ、信じながらスタートを切ったのだろう。でもそれは、同時に、どんなに苦しい、追いつめられた心境だったことだろう。周りの選手だって世界のトップアスリートです。それぞれに、余人が知る由もない練習量を重ね、たくさんのものを背負ってここにいるのです。その中で、世界一をもぎとるっていうのは、こんなにも激しいことなんだ。思わずじんわり泣けました。

あとに続いてこの高さを超える選手はおらず、ほかの選手の3度の失敗を待って、フッカーの優勝は決まった。その瞬間、彼は高く拳をつきあげたものの、もう泣いてもないし、興奮しきった面持ちでもなかった。彼は結局、予選から数えてもたった3回、決勝ではわずか2回、しかもたった1度の跳躍成功で優勝を決めた。でも優勝が決まったわけでもない、あの高さを超えた瞬間こそが、人目を憚らず咽ぶほど、彼を揺さぶったものんだな、と思った。凄い瞬間を見た。

女子ハンマー投げ決勝では、ポーランドの選手が(ごめんなさいお名前がわからない)2投目に世界記録をたたき出しました! しかもそれほど、優勝候補の筆頭とかではなかった人みたいです。当然ながら凄い盛り上がりになり、彼女も観客席の応援団に向かって走って何度もジャンプを繰り返し・・・その着地の瞬間、なんと足をひねってしまいました。その後の投擲はパスして、足を冷やしながらフィールドに寝転んでおられる姿は、なんとも不思議な感じでした。いろいろありますよね、試合にも・・・。彼女はそのまま優勝。地元ドイツのハイドラー選手が、安定した投擲で銀メダル。この大会、ドイツは投擲種目で大活躍、私が知るだけでも3つ目のメダルです。これはドイツ国民でさえも予想を超える成績で、地元の応援によるところも大いにあるんでしょうね。いいなあ、2年前、大阪世界陸上の日本選手は・・・(以下略

この日は、4×400m、マイルリレーの予選も始まりました。これがまた、4×100mとは違ったドキドキ感があるのよね。なんと表現していいのかわからないけど、途中からオープンレーンになることもあって、より激しい部分があるっていうか。あーでも、ほんとにもうすぐ終わりなんだな、この大会も。

マラソンについては、また明日にでもまとめて。