ベルリン世界陸上、5日め!

さあ世界陸上も5日目、早いもので折り返し地点を過ぎてしまいました。

織田さんのエンジンも完全にあたたまったようで、要所要所で暴走を見せています。カメラ回ってるのに、へーきで背後の競技場を凝視したり、かと思うと、
「いま、私たちのうしろでは、昨日たいへんに盛り上がった女子槍投げの表彰式が行われています!」
という中井さんの実況をまる無視して、
「これから始まる女子200mの2次予選!」(しかも、これからすぐに始まるわけではない段階で・・・)
なんてしゃべくり始め、その勢いに「あ、すみません・・・・」と思わず謝っちゃう大人な中井さんなのですが、織田さんは「いいえ、いいんですよ」との大人気ない返し。おめーが謝るとこだよ! 『織田自重www』なんて、2ちゃんの実況でたしなめられている様子が目に浮かびます。

女子5,000mの1組目は、先だって行われた10,000mと同じように、最初から中村友梨香選手が先頭に立ち、ラストは着順こそ6着に沈んだものの、タイムで予選通過。ケニア・エチオピアの選手たちとすっかり対等に渡り合うようになった彼女、昨年の名古屋国際女子マラソンでセンセーショナルな初優勝を飾ったときの少女めいた様子からは見違えるような、インタビューでも堂々たる第1人者っぷりで頼もしい限り。もう一人の日本代表、小林選手は後方からのスタートで、途中は正直、心配になったが、こちらもすごい粘りでした、予選通過です!

ハードル競技も佳境にさしかかってきました。男子110mハードル予選、ここに中国の昇り龍・劉翔選手の姿はなく、北京の金メダリスト、現世界記録保持者のロブレスも思うような走りができていません。たった100mやそこらで10台のハードルを超えるという行為にはとてつもないリスクが潜んでいることを、見ているとまざまざと思い知らされます。ちょっと足をひっかけたり、歩数が合わなくなったが最後、リズムは大幅に崩れて取り戻せない。そして、そういうことが、優勝候補にも頻繁に起こるという怖い怖い競技なのです。

女子100mハードルは、決勝まで行われましたが、ここでも一番人気のアメリカはハーパー選手が早々にハードルにひっかかって7位に沈み、2番人気のオーストラリア、マクリラン選手も5位に終わりました。かわって優勝したのは、やっぱりここでもジャマイカがきました、フォスター選手! 

ジャマイカはこの競技、初の金メダルだそうです。確実に活躍の幅を広げてきているジャマイカ、3位にもエニス選手が入りました。この二人の抱きあっての喜びようは、そりゃもう大変なもので、耳をつんざくような奇声をあげ、とびまわるとびまわる! これまで見てきたどの競技のメダリストよりもエキサイトしてた気がした。

ちなみに2位に入ったカナダのロペス選手、まだ19歳とのことで、私はこの大会で初めて彼女を知ったのですが、一度見たら忘れられないような容貌の女の子。短距離の女子選手は、たいがい上半身の筋肉がかなり発達しているものですが、彼女の場合、パッと見、フィールドで投擲競技を行っていてもおかしくないような・・・・ゴホンゴホン。

ちなみに織田さんは彼女について、はっきりと「太めのロペス選手」と言ってましたね。両手で大きな体の幅を作るしぐさをしながら、何度も、笑顔で。さすが織田さん、「オブラートに包む」なんて日本人の美徳とは無縁です! 自重www

男子1,500mの決勝は、アメリカの雄・ラガト選手や、ケニアのキプロプ、チョゲの両選手、そしてフランスのバアラ選手などが有力と目されていましたが、最後に追い込んで刺しきったのは、バーレーンのカメル選手でした。この人のこと知らなかったけど、スタート前に、解説の金哲彦さんが、「800では世界大会ファイナリストの常連でしたが、1,500に転向し、ついに決勝まで出てきましたね!」と、さすがに視聴者の目を引く簡潔で的を射たコメントを出していました。カメル選手はお父さんも五輪の金メダリストらしいですね! おめでとうございます。

また、日本ではイマイチポピュラーでない1,500mなど中距離の競技ですが、ヨーロッパでは昔から、「トラックの格闘技」として大人気だそうで、この決勝もレース中、ものすごい声援が送られ盛り上がっていたのが印象的でした。

さて、織田さんのせいでいたずらに待ちわびた女子200mの予選が始まりましたが、福島・高橋の日本人2選手は、どちらも予選通過なりませんでした。しかし、この競技に限らず、陸上の世界大会の舞台で見られるアジア人の姿は本当に数少ないのです。彼女たちが世界の強豪を肩を並べて走るってのは、ほんとにすごいことなのですよね。

100や200といった短距離レースに番狂わせはあまり起こらないもので、有力選手は次々に予選通過を決めていきます。100m決勝では4位に終わったジャマイカのキャンベルも、ここでは北京覇者の貫禄を見せつける走り。その最大のライバルは、アメリカのアリソン・フェリックス。女子ながらマッチョな体型の多い短距離選手の中では、ひときわ華奢に見える肢体と、愛くるしい顔立ちで、バンビのように駆け抜ける姿はすごくチャーミングで、陸上界でも大人気の選手のひとりです。23才ながら、世界陸上では前回の大阪、前々回のヘルシンキと2大会を制したディフェンディング・チャンピオンでもあります。

この日、この種目の解説には、朝原さんが登場。長いこと日本の短距離界を牽引し、北京の4継リレーで、36歳にしてついに銅メダリストとなった朝原さん、この世界陸上では解説者として活躍されているのですが、いやあ・・・こんなに力の抜けまくった解説も珍しいです。

男子中長距離の金哲彦さん、女子長距離の増田明美さんに代表されるように、各国の選手の知られざるキャリアやエピソード、試合展開における専門的な解説を適宜加えていくのが常道なのですが、朝原さん、彼らの3分の1もしゃべりません。

アナウンサー「さあ、アリソン・フェリックスが出てきました!」
朝原さん「前回のチャンピオンですね」
(視聴者の声:知ってます!)
アナウンサー「大阪、ヘルシンキと、2大会連続を制していますからね!」
朝原さん「ジャマイカのキャンベル選手のライバルですね」
(視聴者の声:知ってます! さっきVTRで紹介されてましたから!)

・・・茶飲み話?
でも、その脱力っぷりが、かなりツボです。現役時代から、気合で勝負!型の多い短距離選手の中にあって、ひとり茫洋たる雰囲気をかもしだしていた朝原さんですが、今も変わらぬその気負いのなさ・・・。自分のしゃべりが全国に流されてるってこと・・・お忘れじゃないですよね、朝原さん・・・?

レースが始まってからも、「あー、いいですね」「あー、いいですよ」と、解説に用いる語彙はかなり限られています。しかし、一瞬で判断できるんでしょうね、その言葉はスタートのほんの直後に迷わず発せられますし、接頭詞のように必ずつけられる「あー」という語に、安心であったり感嘆であったり、驚きや焦りのような、そのときどきに応じての彼の豊かな感情があらわれるので、それを聞いてとるのも、今大会の私の楽しみの一つです。

もちろんトップアスリートであったわけですから、予選でアリソン・フェリックスと一緒に走る日本の高橋選手について、「彼女が予選を通過するためには、何がポイントですか?」とアナウンサーに聞かれたときは、

「高橋さんはアウトコースからスタートですから、とにかく、最初から飛ばすことですね。コーナーの入り口で他の選手に追い抜かれていたら、そこから追い込んでいくというのは、本当に難しいことなんです」

と答えていて、これは「世界と戦ってきた日本人スプリンター」らしいコメントで、しみじみとしてしまった。外側のコースゆえにずいぶん前からスタートしているのに、コーナーの入り口で、既にインコースの選手に抜かれてしまう、ということ。そこから追走の足がゆるむというのは、20秒やそこらで終わる短距離レースであれば、「心が折れるから」というメンタルの問題というよりも、「脳がこの事実を受け止めた瞬間、闘争本能が萎えてしまう」というような、一瞬の神経伝達の途切れのようなものなのではなかろうか。そしてそのやるせなさを、長い競技人生で、朝原さんもいやというほど味わってきたに違いない。

ま、そのあと、アリソンのゴール間際での力の抜きっぷりについて水を向けられると、「もうこれは、足をぐるぐる回してるだけですね。」と、相変わらずの脱力コメントをしてくれる、すてきな朝原さんなのでした〜。

さて、女子200mの話が長くなったが、この日は男子200mの準決勝も行われましたよ。もちろんボルトも出てきます。織田さんなんか、「この準決勝で、ボルトは世界記録を狙ってくるはずです! 19秒16! 19秒16、出るかもしれません!」としつこいほどに連呼しており、まさかここでそうくることはないでしょう、と画面の前で苦笑いしながらも、やはり雷神ボルト様がスタートラインに立つと、いやがおうにもそのオーラに圧倒されるわけで・・・わけで・・・あれっ、ボルトさま、頭頂部に白い糸くずがついてますよ! しかもけっこう長い糸くず! 全世界がそれを見てますよーっ。

On Your Mark」の声がかかったとき、ようやくボルト様も頭部の違和感に気づいたのか、あるいは執拗に向けられるカメラが映し出す画像で確認したのか、素早い動作で振り払ってくれたのでホッとしました。ま、あんな糸くずの10本や20本ついてようと、その重みがボルト様の走りに影響するなんてことは、ないんですけどね〜。もちろん、糸くずなしで走ったボルト様は、今日も余裕ぶっこきながら、あっさり決勝進出を決めました!

最後に、男子円盤投げのハルティング選手! 前日の女子槍投げ、ネリウス選手に続いて、ほとんど警戒されていたなかった地元・ドイツの選手が優勝しました! 絶対王者、カンテル選手が記録を伸ばせない中、ポーランドのマラチョフスキ選手(首筋から肩にかけて、わさわさした金の体毛がすごかった!)との一騎打ちは手に汗握る展開となり、最終投擲で見事な大逆転! その瞬間、歓喜の雄叫びとともに、彼はユニフォームを脱ぎ捨て・・・るかと思ったら、ひきちぎりました! ビリッと! え、紙でできてました?てほどに、いともたやすく! 

地元選手のまさかの優勝ですから、スタジアムは当然ながらすんごい盛り上がり! 熊を模した大会マスコット、ベルリーノ君も駆け寄ってきて祝福・・・って、ハルティング選手、着ぐるみベルリーノ君の両足をひっつかんで、背中に逆さづりの刑に・・・! うわー、中の人の血圧がやばいって!!! こんな優勝パフォーマンスも初めて見ました・・・。

以上、1日遅れでアップする、大会5日目の模様でした!