『リーガルハイ』 第8話

クライマックスの古御門のセリフ。人間は欲望の生き物であり、欲望を否定することなどできない。欲望によって人間は進化してきた。「これからも進化し続け、決して後戻りしない!」って一言が最高に真実だと思った。

「燃料廃棄物処理場を造り、高速道路を造り、ショッピングモールができ、森が減り、希少種がいなくなり、いずれどこにでもある普通の町になるだろう!そして失った昔を想って嘆くだろう! だが、みんなそうしたいんだよ! すばらしいじゃないか!」

人は「ラクをする」ことを軽んじ、汗水流して働くようなことを尊ぶ。けれど「楽をしたい」という思いこそが人を進化させてきた。総合的に見ると、昔より今のほうが良い時代に決まってる。 個人個人を見たって、人は誰でも、「そうしたいように生きている」のだ。たとえば会社を辞めたい、といつも愚痴っている人がいるとする。そんなに辞めたいならどうして辞めないのか。それは、辞めてしまって得られる結果(次に条件の良い仕事に就けるかわからない、肩書を失う等)よりも、現状を我慢している苦痛のほうが、まだしも良いという判断の結果であり、人は知らず知らずのうちに「自分にとって最適な道」を選んでいるものだ…。

↑の段落は森博嗣の著書に貫かれている考え方だが、古御門の持論にも共通するものを感じる。それを嘆くのではなく、揶揄混じりであっても「進化」と、「決して後戻りしない」と言い切るところが好き。明るい諦念というか、一周まわった希望を感じる。

斯くも古御門のぶれなさはシリーズ前作から一貫しているわけで、その一貫性が(このドラマがリスペクトしているであろう勧善懲悪の時代劇のように)視聴者にカタルシスを与えるのだが、脚本家は新シリーズにおいてそれが良くも悪くもマンネリ化するのを拒んだ。しかし古御門がぶれてしまえば、このドラマの面白さは全く損なわれる。そこで登場したのが羽生である。

羽生のせいで今シリーズが面白くない、という人も少なからずいるようだけど、私は羽生が大好き。岡田くんの美貌には「平清盛」でも圧倒されたが、あちらは十年一日という四字熟語がぴったりに、ぐじぐじぐじぐじぐじぐじぐじぐじ落ち込み続ける役だったので、2,3話でそのキャラに嫌気がさしたものだったw

羽生は4話のように古御門をまるで「裸の王様」にもできるし、今回のようにまるで統制社会の首領のようにもなる。そのぶれやすさが、ドラマをすごくスリリングにしてる。これから最終回までは黒羽生として突っ走っていくのかな。見事な暗黒落ちでした。「善意の人が一歩間違って独善的に」というのは実社会でもよく見られる…というか私たちが陥りがちな落とし穴。人たらしとして凡人を操るへたれwin-win王子は、同時に、自身が、凡人がモンスター化した姿なのかもな。

であれば、古御門がきっちり叩き潰してやるのが親切ってもんかもしれないけど、それだけじゃちょっと面白くないな、とも思う。へたれがへたれを思い知らされて凹んで終わり、というより先の、羽生(≒しがない凡人)にとっての一筋の「救い」もほしいし、古御門の「賢すぎるがゆえの諦念」「人間への期待しなさ」にも何か変化があってもいいんじゃないかと思う。そこらへん、黛さんが活躍するんだろうと思うけど。ヌルいwin-winじゃなく、ひねくれた、ウィットの利いたハッピーエンドを期待しちゃう!

それにしても役者を大事にして輝かせるドラマだ。美貌ではなく演技そのもので、初めて「岡田くん、いいな」と思ってる。今回、古御門の隣でみかん箱の上に乗って、村人たちをアジる演説なんて、堺さんの直後に聞いても立派なもんだった。ラストの「人間は愚かだ」のダークサイドにイッちゃったワナワナした笑顔も良かったし。脚本や演出の手腕でうまく見えてるってのもあるんだろうけど、作り手が役者のポテンシャルを見込んで高いハードルをもうけ、役者がそれに応える、っていう連携を見られるのはドラマファンとしてほんとにうれしい。あんなスーツの上に真っ赤なコートを着させるっていうスタイリストさんの腕もすばらしい。

小雪の存在感も抜群。日に日に装いや小道具が獄中とは思えない派手さになっていく根性悪の毒舌女、だけど真実を見抜く「目」がある、という役どころは、「綺麗だけどなんとなくいけ好かない」っていう小雪のパブリックイメージのひとつをうまく使いつつ、しかも女優としての格を下げることはなく、むしろ「こんな役もするんだ」って好感度を上げてる気がする。

草の者たる蘭丸くんの、「出てきただけで場が和む」感、「ここから古御門の逆転劇だ」感も、いまや、すごい。てか前回でしたかね、羽生と蘭丸のフットサル場でのくんずほぐれつ、あれどんなサービスよwwwガン見してる口元が緩んでしょうがなかったんだがwwwwwww

ゲストも毎回、おいしいと思う。広末さんはもはや準レギュラーって感じで、最後の事件にも噛んできそうな雰囲気ですね。リーガルハイの「3」は古御門の新作ではなくて別府さんが主人公なんじゃないかと思わせるぐらい。まあさすがにそれはなくても別府スピンオフ…あるかもしれん。

6話と7話、どっちもすごく面白かった。鈴木保奈美の一妻多夫も、どんだけエグくなるかと思いきや、気持ちのいい役で、似合ってた。伊東四朗パヤオ…じゃなくて宇都宮さんのセリフも痺れた。いいこと言ってる、っていうよりも、「そうそう、そう来なくっちゃ!」的、エンターテイメントのツボを押さえまくった快感があった。また、伊東四朗の、淡々とした口調から、あくまで抑制しつつ少しだけ激していく、っていうセリフまわしが名人芸でね…!