2012 ロンドンオリンピック: 8月9日【陸上競技】

放送開始とともに画面に大きく映しだされたのは麗しい人でした。女子200mの表彰式。中央に立つアリソン・フェリックスはまぶしい笑顔です。今日の放送はEテレ。ナイスカメラワーク! あ、国際映像か?

この大会、表彰台の正面ではなく、直角の角度に国旗掲揚台が位置しているのが何だか良い。あれ?陸上競技の場合、いつもそうなんだっけ?選手は、「右向け右」して揚がってゆく国旗を見つめる。それがすごく、「国旗に敬意を表している」という絵に見えるのだ。

この日、レスリング48kg級で金メダルを獲得した小原選手の表彰式を見たけど、旗は台の正面だったな。ふつう、そうだよね。それにしても、こういうときに聴くと、君が代って本当に良い歌ですね。世界に誇れる国歌だ。

●男子200m決勝: 彼がグラウンドに入ってきたとたん、すごいどよめきとフラッシュの嵐。ちゃんと8人、コース順に並んで入ってくるのが何だかかわいい。イケメン(仏・ルメートル)が先頭だった。今日のイケメンはいつにも増して苦みばしってる。スタートラインでコールされても、反応ゼロ。激渋い顔で両手を腰にあて、うつむいているのみ。イケメンの苦悩は深い。1コースに入れられちゃったしね。ほかの皆さんは気合入ってます。でも、ボルトとブレイクがひときわ陽気に、軽く見えます。ブレイクは100のときと同じ、地中から蘇ったゾンビポーズ。朝原さん「これも板についてきましたね」。

On Your Mark」がかかっても、場内、なお騒然。いつものように、スクリーンに自分が映ったとき、ボルトが唇に人差し指をあてて「シーッ」とやる。

なぜ、彼はゴール前の数mで、力を抜いたのだろうか? 100mのときの、こんなボルト初めてってくらいに渾身のゴールとはまったく対照的だった。足をゆるめ、唇に軽く指をあててキスしながらのフィニッシュ。およそ、200mというスプリント勝負には似つかわしくない絵。

これはちょっとしたミステリーで、今も気になってる。そのうち詳しいインタビューやなんかが載ったり、専門的見地からの分析がなされるのを楽しみにしてるんだけど、私の勝手な想像では、いかなボルトでも、もういっぱいいっぱいだったんじゃないかと。

スローVTRを見ると、スクリーンをチラ見しながら走ってる。自分がトップであること、ブレークとの距離は十分確認できたはず。つまりゴール前にはすでに勝利を確信してた。だけど、後続との差は大きければ大きいほど格好いいし、記録だってかかってる。なのに、ダッシュでゴールしなかった。

あんな世紀の一瞬に、あれこれ考えて体を動かすわけないから、本能的な、反射的な反応だったんだと思う。その深層心理として、「もうこれでいい」って感じがあったのでは。「怪物」であると世界中に知らしめた北京から4年、ジャマイカの英雄になった、世界の陸上の顔になった、ベルリンでの記録更新があった、テグでのフライングがあった、交通事故を起こした、ジャマイカ選手権で練習パートナーに2種目とも負けた、そして、それでも世界一の注目を浴びてロンドンに入ってきた。あまりにもさまざまな出来事が、彼をどれだけ張りつめさせ、どれだけのものを背負わせ、どれだけ疲弊させてきたか。そのすべてに打ち勝って100を連覇してみせた。200も連覇ということになったら前人未到、まさにレジェンドだ。そのゴールが見えたときに、彼ほどの男が、「ああ、もう、これで終わる」という思いに貫かれて、それであのゴールになったんじゃないかと…。

ゴールのあと、まず最初に、トラック脇で腕立て伏せをしたんだよね、5回ぐらい、ひょいひょいと。あれも不思議な絵だった。腕をつきあげて叫ぶでも、雷神ポーズでも、大の字で転がるでもなく、軽い腕立て伏せ…。そしてすぐに立ちあがって、2着に入ったブレークと固い抱擁を交わした。突き上げてくる感慨というよりも、感無量すぎて、自分で自分をコントロールしかねているような姿に見えた。

ともあれ、彼はやってのけた。なんかもう、「ボルトはすごいのがあたりまえ」みたいな認識になってきちゃってるけど、もうすぐやっと26歳になる若者が、五輪の華たる100m、そして200mで連覇したことには、日本の1ファンであっても普通に泣ける。

女子マラソンの開催日の朝に放送された「ボクらの時代」の録画を、ちょうどこの日に見たんだけど、その中で有森裕子が言っていたこと。

「自分が輝くためにメダルをとったのに、その後の生活は思い描いていたのと全然違った。おめでとう、のあとには陸上界からも世間からもさんざん叩かれた。このメダルを輝かせるためには、もう一度、オリンピアのメダリストになるしかないと思った」

(結婚、離婚などの話題になって)「なにひとつ説明しないし、説明する必要もない。勝ったことも負けたことも、ほかのことも、とにかく自分の人生の糧にして、プラスにしていくしかない」

やっぱり、オリンピックでメダルを獲るような人はメンタルの成り立ちが違うね。ボルトも並はずれた身体能力だけじゃなくて、並はずれたメンタルの持ち主なんだと思う。周囲の期待や重圧も、手のひらを返してのバッシングも、自分の中にある驕りや怠慢や不安も、すべてをプラスに、すべてを「伝説の男になる」というモチベーションに変えて戦ってきたんだと思う。それが結実したこの大会、渾身の100のゴールと、足をゆるめての200のゴール、その両方を目撃したことだけでも得難い経験だったと思わせられる。

ちなみに、ジャマイカの1・2・3フィニッシュだった。朝原さんは、ボルトを追い詰めたブレークの走りをいつまでも絶賛。あと、勝ったボルトに駆け寄ってきた着ぐるみ、あれ何だ。ロンドン版・目玉の親父って感じ。はっ、まさか、ロンドン塔をモチーフにしたマスコットなのか?

●男子800m決勝: 出ました、今大会、陸上競技初の世界新! や、出るならこれだと思ってたよ。23歳にして、すでに「ルディシャ時代」と名を冠されてる、この種目の王者。スタートから飛ばす飛ばす。「もう駆け引きとか無しですね。自分の走りをする、というだけです」と解説の金さん。それで、「あいつはスーパーサイヤ人。俺たちは地球人同士でやろうぜ、銀が実質の地球人最速だろ」って感じにならず、みんなが必死こいてついていったのがすごく良かった。600mあたりでは2〜4位くらいの人はほんとにゴールまでたどり着けるのか?! て心配になるぐらいの鬼の形相になってたんだけど、それでも1位とはありえへんぐらいの差がついてたんだけど、でもみんなすごかったよ!

なんたって、決勝に出た8人全員の名前の横に、「PB」やら「NR」やら「SB」やらの肩書が何かしらついてる! つまり、世界記録を更新したルディシャを筆頭に、全員が国内新記録やら自己新記録やら今季最高記録やらを樹立しやがった! こんなの見たことない! 2着はアモスで、ボツワナに今大会初のメダルをもたらした。そっか、400女子のモンショーは惜しくも4位だったもんね。

●男子三段跳び決勝: アメリカのテーラーが金メダル。2011テグに続く栄冠に輝いた。大きな話題は銀メダルのウィル・クレイ。そうです、数日前の走り幅跳びで3位になった彼が、なんとここにも出てきて、しかもメダルを獲ってった。各競技が高度に専門化された現代では2種目横断すること自体が珍しく、しかも五輪で同時にメダルとなると、70数年ぶりの偉業だとか。ちなみに70数年前の偉人は日本人だったそうな! 

テグでテーラーと優勝争いをした地元イギリス・イドウは予選落ちしたらしい。あと、イタリアのグレコって人がイケメンだった。ちょっと勝村政信入ってた。

●女子やり投げ決勝: ろ、録画が途中で切れてた…! ていうか、放送は延長したのかしら? 3投目まで終わったところで、チェコのシュポタコバがぶっちぎりの1位。おなじみ、宝塚の男役トップスターみたいにかっこいいイケメン女子。強さも相変わらずのようで、1投目から周りをドン引きさせる大投てきを放ち、その後も記録を伸ばして後続を寄せつけない。「非の打ちどころのない技術ですね」と解説の小山さんも舌を巻く。続けて、「柔よく剛を制す、今日はそんな戦いになりそうですね」なんて彼がきれいにまとめたのは、“柔”のシュポタコバに対し、“剛”にたとえられるロシアのアバクモワという人がいるから。このアバさんが2011テグ世界選手権で彼女を打ち破ったもんですから、今回も激戦が予想・期待されたが、なんとアバさん、予選で敗退してしまった。リザルトを見ると、やはりシュポタコバ姉さんがそのまま優勝してる。

●女子800m準決勝: ジェリモ、サビノワ、そしてセメーニャなど、有力どころは順調に通過。決勝が楽しみ。セメーニャはベルリンの時のような爆発力を見せるのだろうか。

●男子十種競技: 日本から何十年かぶりとかいう代表選手も出たのもあって、今回、けっこう放送されてた。右代選手。196cmもあって、世界の選手たちと並んでも、彼の方がでかい! 順位は20位だったけど、本人は完全燃焼した様子。なんせ1日目の感想「楽しいです」、2日目の感想は「本当にすごく楽しかったです」だもんね。とにかく、こんなに満員のスタジアムで、こんなに歓声を受けて、世界のトップレベルの選手たちと共に試合をする、ということの喜びを、終始かみしめながらの十種目だったんだなーということがすごくよくわかった。

「最後の1500mで後順位の人がガッツポーズでフィニッシュ」とか、「1500mの最後の組が終わると、すでに自分の出番を終えてひっんでた前の組の選手たちまでがトラックに再び出てきて、かわるがわるハグ&握手」とか、「最後は全員そろって記念撮影」とか、十種競技名物「試合が終わったらノーサイドっぷりが甚だしいぞ」場面の数々までたっぷりカメラが映してくれてうれしかったです。十種目も一緒にやってたら、そら連帯感も生まれるわな〜。

優勝したマートンは、優勝したんだからそりゃ当然なんだけど、どの種目でもすごい良い成績だった。十種競技界の内村航平って感じ。イタリアのグレコくんがイケメンだったのでひそかに応援し続けてた。たぶん最後は15位くらいだったみたいだけど、1500m最初の組でトップでゴールしてた。にしても、十種競技やる人の練習メニューってのを見たいわな。めまぐるしそう。ま、飽きはこなさそうだが…。んで、こういう種目は、やっぱり上位は軒並み先進国、しかも欧米だなって思った。