『平清盛』 第12話「宿命の再会」

※超長いス。3回くらいにわけて(以下略

今日のアバンは世に言う「強訴」。これも、映像作品であまり見ることはなく、新鮮ですね。しかも、武装した平氏の面々、勇ましく迎え撃つかと思ったら、「ウチが持ってるどこそこの荘園を寄進するからさー」って、まさかの金で解決。別にそれで全然問題なくて、それによって治天の君・鳥羽タンが平氏に領地や昇進というご褒美を賜る…という、まさかのシステムができあがっていることが判明。おもしろいぞ!

さて、そんな強訴対策にも一応参陣している清盛ですが…目が! 目がぁ! 死んでる〜〜〜! 愛妻・明子タンを亡くし、悲しみの淵をさまよっているわけですが、一言もしゃべらずあの表情だけ、ってのがインパクト大。先週までとは全く顔つきが違う。この辺、やっぱり松ケンは達者です。

んで、ツルリン化した高階通憲が訪ねてきたりするんですが、西行、鳥羽タン、たま子&堀河、そして今週のサダヲと、最近毎週誰かしら出家しとるな。出たァ〜信西!!て感じで、怪しさを増したビジュアルになっていて良かったと思います。面白いのが、白河院もそうだったし、鳥羽タンにしろ信西にしろ、俗世を捨てた出家後のほうが、現代人の目で見ると、衣装が非常に俗っぽいんですね。

もうクサクサしちゃったぜ、と語る信西の回想シーンのポイントは、もちろん山本“土方”頼長のバックで「シュクセイ!」と口走っている鸚鵡です。こないだまでガラの悪いチンピラ(加藤浩次の兎丸)の真似してたくせに、んもうすっかり頼長色に染められちゃって〜。てのもありますが、あのときの鸚鵡をそのまま飼ってる頼長かわいいよ頼長、と突っ込むところでしょう。

信西のクサクサ感も伝播した清タンは、末弟・頼盛の元服(カットは少ないながら、頼盛のどーもこーもなりそうにない雰囲気も示唆的でよかった)というオフィシャルな場で、またも「王家の犬」問題を持ち出したりして、またも一見、成長ゼロのように見える。個人的には、妻を亡くして日の浅い人がこれぐらい惑乱してるのは当然だと思います。平氏一門の御曹司として扱われつつも、天涯孤独感に苛まれて育った清タンにとって、明子と築いた新しい家庭はかけがえのないものだったわけですから、それを失くしてバカ盛に戻るのもわからんでもない。なおかつ、かつての中二病とはちょっと違う部分もあって、今の清タンは流行病を流行らせっぱなしにして顧みない、政のダメさ加減に真剣に憤っている。妻の死という私事によって公、社会を見る目がまた変わるという結びつけ方は脚本の巧みだなと思いました。

さて一方、先週の滋子に続いて、時子ちゃんの家族が紹介されます。なんとパパは蛭子さん!なにげにこの人、大河率高いよね…前回の源平物、2005年の「義経」では、常磐御前が義朝→清盛と愛人稼業を転転とした後の落ち着き先となる、一条長実役だったような。ちなみに今年の常磐御前役は今をときめく武井咲! 楽しみですね。

そして時子の弟・時忠には、その2005年以来のジャニーズメンバー大河に登場! 本人は1997年「毛利元就」での元就子役以来15年ぶりの大河となる森田剛です! そうかー、考えてみれば、源平物に終わってたジャニーズが源平物で復活なのか。

この時忠のお目見えがまた、KYでエゴイストで食わせ者、だけど悪い奴じゃない、って雰囲気をよーく出してて面白かったですね。ヒロイックでも非劇的でもなく、こういう役柄でジャニーズ復活ってのがねえ…ほんと面白い。さっさと清盛の家にやってきて後添え話を持ち出し、悪びれもせず「だって姉ちゃん、清タン家の悲しみにつけこんでるんでしょ?」と指摘したかと思うと、家に帰れば「悪かったよう姉ちゃん」と謝ったり。

この後添え話のシーンの脚本もすごく良かった。時子「清盛様は、明子様だけの光る君です!」 それで清盛の顔がちょっと変わって、「時子殿。琵琶を弾くなと言ったのは、耳に残る明子の音をかき消されたくないからだ」と言う。それを時子は、自分への拒絶だと受けとって泣くし、視聴者にも一見、そういうふうに見えるんだけど実はね…と、これがのちの場面につながっていきます。帰宅後の時忠が言う「どんなきれいごとも欲がなければ始まらない」のセリフも、時忠というキャラクターをあらわしつつ、そういうセリフに肯定感があることがこの大河らしいと思いました。

さて、出家したたまちゃんのところには得子が訪ねてきます。やはりかみ合わないながらも感じあうふたり。たまちゃんは間もなく病篤く、明日をも知れぬ状態に。もちろん鳥羽タンは身も世もない嘆きっぷりです。最後まで水仙をシンボルに描かれたこのふたりの愛の倒錯劇場、最終回にふさわしい見応えでした。閉じられた木戸に耳を押しつけながら涙を流す鳥羽タンの表情! たま子タンは鳥羽タンへの愛を語りきってから旅立たれました。この完ぺきなハッピーエンドはちょっと意外だったかも。水仙を抱いて「わが君…!」の一言だけで死ぬ、くらいのプレイが、この人たちには合ってるんじゃないかと思いましたが、まあなんだかんだあった鳥羽タンですが、彼は(崇徳院とは違って)この世に恨みを残さず静かに去っていく、ということになるんですかね。

そばに控えているりょう@堀河局のやつれたビジュアルもすごかったです。この、賢そうでプライドも高そうな人にまで心底愛されている、という描写によって、たま子ちゃんの“ただ者じゃなさ”感は増幅されていたと思います。得子たんも合掌して冥福を祈ってました。ということで、次回からは王家のドロドロも次世代に…。

ところで、たま子と鳥羽タンを最後に結びつけた縁の下の力持ち、水仙の花キューピッドがなんと、義朝だったんですね〜。東国にたんと居る家来たちを動員して水仙を見つけ、平氏に先んじたことにご満悦の義朝さま。いや〜文句なしにカッコイイ。お屋敷に帰ると、喜びで感極まりないパパ・ダメ義さんに向かって、「落ちつかれませ」となだめる余裕ぶり。ああ、なんかね…。このドラマでの、保元の乱の源氏の布陣がどうしてああいうふうになるのか、その経緯が、ババーッと予想できちゃいました。パパに泣かされるんだろうな…。

そんな武士としての自信、男としての自信にみちあふれた義朝に、清タンは地団太です。死んでた目が、いつのまにか生き返ってます。昇進の辞令を受けに内裏に来た義朝を待ち伏せて、「オマエいい気になるなよ!」と喧嘩ふっかける。義朝もきっちりそれを買って(「田舎武士」という地雷を清盛が踏んだ瞬間、顔色が変わるのが面白かった)ふたりは取っ組み合ってくんずほぐれつ。清盛、またも人んちのすだれを引きちぎりながら暴れてる…。

慰めや労りではなく、復讐心でもなく、この強くかっこいいライバルが清タンを悲しみの淵から生還させ、「面白く生きたい」という意志をよみがえらせた…という描写は、清く正しい少年マンガ大河であるところの「平清盛」の真骨頂。清盛は思わず、「俺はこれから平氏を背負って立つ男ぞ!」なんて叫んじゃったりします。や、まだ嫡男って決まってるわけじゃないからwww て感じなんだけど、勢いでそういうこと宣言しちゃうのがいい。そう言ったあと、ズルッとコケるのが、またいい。松ケンうまい。

そういえば今週は弟くんが清盛に向かってかつての秘めた恋を打ち明けるシーンもありました。ううう弟盛(家盛ね)、いいぞいいぞ! 単なる家督争いの敵役に成り下がらない、この深みのあるキャラクター。「みんな何かを抱えてる」と、清タンもちょっと気づくんですね。このシーンがあった上での、「平氏を背負って立つ」宣言。これまた深い。勢いとはいえ、人間、思ってもみないことを口走ったりはしませんから。

清盛を振り切ってカッコ良く帰って行ったかに見えた義朝ですが、家に帰るとヤケ酒くらいながら怒り心頭。彼にとっても清タンはどうしようもなく心かき乱されるライバルなんですね。そこに、由良ツン姫登場! 「…と、父が」とお得意のツンをやってみせるが、めっちゃ弱弱しいでやんの。最初から涙声。

「お変わりありませんでしたか?」と問う由良姫に、「変わりというほどでもないが、子をふたり作った」と答える義朝の顔が、顔が、コイツ確信犯! やる気まんまん! さっと顔をひきつらせる由良姫に、悪びれもせず「おまえも産むか?俺の子を」などと、完全に上からのたまう。熱田神宮のお姫様である由良ツンは、この時期の源氏ふぜいが妻にするには高貴なお人で、しかもむね子内親王という高貴な人に仕えている。「おまえは俺の役に立つだろう」とはっきり言い切ります。

由良ツンは当然「馬鹿にして!」と泣くのですが、義朝はびくともしない。「愛しい男の役に立つことほど、女にとって心楽しいことはなかろう」と、こういうセリフをめちゃめちゃかっこよく言えちゃうのが玉木宏のすげーとこです! 牡臭がぷんぷんしてもいるんだけど、なぜか爽やかでもある。もちろん、こういうセリフを殺し文句として入れこんできた脚本もグッジョブです!

「おまえには俺の嫡男を産んでもらいたい」って、ほんとに現代のフェミニストが聞いたら卒倒しそうなセリフなんですが、ここで由良ちゃんは、好きな男のものにされる喜びと、嫡男=正妻=他の女とは違う優越感、という女としての本能でグッときちゃうんですね。ま、なんたって、東国でさんざんそっち方面の経験値も積んできただけあって、義朝はこの辺、男としての自信のみなぎらせ方が半端ないわけです。由良ちゃんをがばと抱きしめている顔がなんともいえない良さで、「ふ、かわいい女だぜ」「ずっと待ってたなんてグッときちゃうな」にも見えるし、「ふふふさすが俺。どんな女もイチコロ」「これで出世への糸口をまたひとつゲーット!」にも見える。

一方の清タンはというと、こちらもプンプンしながら家に帰ると、久しぶりに時子タンが来てお子たちと遊んでくれてます。いったんは「もう来るな」的な態度をとったものの、その姿を見て清タンにもグッとくるところがあったんでしょう、おまけに義朝のおかげで、すでにテンションはMAXです。

「皆が後添えをもらえもらえとうるさい! もうそなたでよい! そなたは俺に惚れておる、子供もそなたに懐いておる、あとは俺がそなたに惚れればよいだけじゃ!」って、ものすごい言い草で発作的に結婚を迫るんですが、よくよく考えると、このセリフに至るまでにはちゃんとそれなりの道筋があるんですね。

清タンが時子に惚れられている、と気づいたのは、例の「清盛様は、明子様だけの光る君です!」のくだりのときなんでしょうが、あのセリフはそれだけじゃなく、「私はふたりの絆がどれだけ強かったかわかっている、私はそれを尊重していて、そこに入り込めるなんて少しも思っていない」という時子の気持ちをあらわし、彼女はそれを踏まえた上で、子どもと遊んだりしてるのであって、万事が優雅で清げであった明子とはまったくタイプが違うけれども、そこからは時子もまた慎ましい女なのだ、ということがうかがえるのです。清盛はここで初めて、時子をひとりの女として認識したんだと思う。自己犠牲的、慈母的・ゴッドマザー的イメージという王道からはちょっと外した、けなげで器が大きい時子像。面白いですね。

んで、あのとき、それに応えて清タンが言った「耳に残る明子の音をかき消されたくない」にも含蓄がある。「俺には今も明子が一番なんだ」と同時に、「明子のことを忘れたくない」「でも別の音を聴いてると、いつのまにか忘れてしまいそうだ」という気持ち。途方に暮れた表情の彼は忘却をおそれているんだけど、忘れてゆくことは、「それでも、生きていく。前を向いて」ということでもあるんですよね。生きている彼は、踏み出さなければならない。

盛国は、「時子が来たときはちょっとだけ清盛が明るい」ことに気づいている。この人、泣いてる清次をなだめにかかるおどけた声音がすごい愛情にみちてて、相変わらず、どんだけ清タン家大好きなのかとww

弟・家盛の告白に思うところがあったり、一家を背負う者としても後添えが必要…という周囲の声があったり、万事に気の付く盛国のナイスアシストがあったり、そんなこんなのいろんな御膳立ての上で、最後に義朝がシュボッと点火してくれての、清盛のどさくさ紛れアタックだったんですね〜。それに対して、一度は「ひどい」と泣きつつも、雀の子をもう一度伏籠から逃がして、清タンの体にアタックを返して飛び込む時子…! ちゃんとこのとき、雀のはばたく音が挿入されてましたねww

で、大河お約束の初夜シーン…はすっ飛ばして、種牡馬義朝は有言実行、あっさり嫡男をもうけています。よっ、ナレーター頼朝誕生! 岡田君のナレーション、こなれてきて良くなってきたんじゃないでしょうかー? 「そろいもそろってろくでもない求婚」と言いきったからには、あんた、杏ちゃん政子にビシッと素敵なプロポーズするんでしょうね〜? 清タンとこも一気に時子が臨月でした。おおお、この腹の中には宗盛が…。いやしかし、しっかり前を向いて歩きだした清タンのカットで終わってすがすがしかったです。このあとの祇園騒擾事件を匂わせて引きも強かったです。視聴率〜もうちょっと上がらんかな。作り手のモチベーション維持、クオリティ維持のために!