『日本の難点』 宮台真司
- 作者: 宮台真司
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/04
- メディア: 新書
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抽象的・専門的な語彙を使って説明される社会学の基本概念から、具体的でわかりやすい例まで盛りだくさんな内容なんだけど、いちばん心に残ったのは以下のくだり。すみません若干原文を縮めてアレンジます。
社会の複雑性の増大で、「何が何をもたらすのか」「何が何を意味するのか」が素人の目にますます自明でなくなったために、専門家にとって自明な合理性が、素人が信仰する合理性との間に乖離をもたらしがちになっているのが現代。後期高齢者医療制度の必要、解雇規制撤廃の必要、法人税切り下げの必要などは、専門家にとっては自明のことだが、あえて素人向けの新聞や雑誌で書く人は少なく、まして政治家はそんな不人気なことはいえない。ゆえに官僚も口をつぐむ。当地権力のエリートたちが「民主的決定に任せますよ」と念押ししつつ、心の中で「どうなっても知らねえよ」とつぶやくような状態。
文中で挙げられた事例についてはそれぞれ解説もあり、うすぼんやりと持っていた感覚がパシッと文章化されているのを読む快感があった。といっても書かれた内容は明るいものではないのだが、むやみに悲観するだけだったり、“問題提起逃げ”したり、もっともらしく眉をひそめてお説教めいたことを書かないところが宮台真司っていいなと思う。
私が宮台の存在を知ったのは、恐らく15年くらい前、『ゴーマニズム宣言』あたりの漫画で、(今は知らないが少なくとも当時は)小林よしのりは宮台に批判的だったので、なんだか狡猾そうなというか、小物臭ただよう似顔絵で彼の顔を書いていた。その印象がずっと強かったのだから絵の力ってのはすごいものだが、最近こうして実際に著作を読むと、宮台真司には「自分の力を社会を浴するために使おう」というような真摯さを感じて、私はけっこう好きだ。書くのうまいし、やっぱり。難しいことにも触れてるけど、わかりやすく書いてあるから、読んだだけでちょっと頭が良くなったような気にもなるのよね。一般人に社会学への扉を開くことのできる学者だと思う。
ちなみに、宮台のいう『真のエリートはいつの時代も利他的』で真っ先に頭に浮かんだ現代人は、ハーバード大のサンデル教授です。宮台自身もそうありたいと願ってるんだろうな。
以下、備忘のためにメモ。
- 普遍主義の理論的不可能性と実践的不可避性
- かなり強い「社会的排除」を伴う旧来の家族や地域や宗教の復活や維持を構想することはできない。そこで社会システム理論の機能主義の出番。同様の「社会的包摂」機能を果たしつつ、かつての「社会的排除」機能の副作用が少ない、新たな相互扶助の関係性を構築、維持するしかない。中長期的には「個人の自立」よりも「社会の自立」の支援。「小さな国家」&「大きな社会」への流れは不可避。
- 「ダメなものはダメ。それを伝えられるのは「感染」だけ。周囲に「感染」を繰り広げる本当にスゴイ奴はなぜか必ず利他的な人間の「本気」
- こんな時代でも就職戦線で内定をとりまくる学生は、「文科系的体育会系」ないしは「体育会系的文科系」。教養と現実の世界を両方よく知るような学生。
- 宮台の調査では、「親が愛し合っている」と答える大学生はそうでない大学生に比べて「恋人いる率」が高く「性体験人数」が少ない。(つまり、「親が愛し合っていない」と答える大学生はそうでない大学生に比べて「恋人いる率」が低く「性体験人数」が多い)。親が肯定的オーラか、否定的オーラか、というのは子どもに引き継がれがちだが、それは必ずしも親個人の構えには還元できず、夫婦の関係性の問題でもあるということでは?
- オバマのシンボリズム的な特徴は「統合」と「包摂」。ケニア人の父と白人の母のハーフ。ハワイ生まれでインドネシア育ち。ハーバード・ロースクール卒業後に市民活動・・・。「黒人の代表(白人の敵)」ともいえないし「リベラルの代表(右翼の敵)」ともいえない。オバマが「我々」と発言するのと、ヒラリーやマケインが「我々」と発言するのとは全く異なる。(エミ註:しかし2010年後半現在、オバマの支持率も下がってしまいましたが)