『14歳からの社会学』 宮台真司

 

14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に (ちくま文庫)

14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に (ちくま文庫)

 

 

一読すると、あちこちにちょっとした古さを感じる。もともとは2008年に刊行された本なのだという。恋愛や、仕事や、死について、今なら少し違った言及をするんじゃないかなと思う。この本に限らず2000年代の作品でそういうふうに感じることはよくあって、震災という出来事がどれだけ大きかったかを思う。

そうだとしても、読みでのある本だった。中高生向けにこういった本があるっていいと思う。親や先生に対してイライラしたり、自分のこの先の人生がつまんなく思えたりする時代。でも、その源はわからないし、どう対処していいかもわからず、反抗したり、つまんないとわかってることに没頭したりする時代。こういう本を読んで、すっとする子はいるだろうと思う。

14歳には難しいだろ~っていう話(カントやハイデガーの理論の紹介とか)が含まれていたり、筆者の子ども時代や恋愛体験(!)の話もあって、なんというか偏っている本でもある。無難な教科書みたいにしないという意図なんだろうなと思う。中2・・・。これを読んで筆者自身に超傾倒する子もいるかもしんない。でも、そうやって読み込むことで、派生事項に興味を持って、いろいろ見たり読んだりしながら年齢を重ねるうちに、いつしか自己を確立していくかもしんない。そういう「感染」と「卒業」が大事なんだ、と、この本に書いてあります(笑)。

いいなと思うのは、時代に伴って人々の意識や社会がどう移り変わってきたかを簡潔にまとめているところ。

「みんな仲良く」「みんながそう言ってる」の「みんな」が、時代と共にどう変化してきたか。

自分たちが受けている教育システムの原点は何か。当時の社会背景はどんなもので、どんな国民を育成するために教育課程が組まれたか。それが、現代、どのように合わなくなってきているか。

子どもは「今」しか知らないし「今」の視点しかないけれど、中高生になると、時代の数直線を伸ばして物事を見ることができるようになる。そんな時期にこういった俯瞰に触れると、とても新鮮で、世の中が違って見えるようになると思う。自分の立っている座標が見えてくるというか。

それから、(体験談などに偏りはあれどw)対人コミュニケーションや、生死や、社会に対して真摯に向き合おうと呼びかけているところ。「上手になれ」とスキルアップを求めるのではなく、真摯にコミットしようと言っている。その難しさや怖さを語った上で、それでも真摯なコミットはバーチャルやニヒリズムをはるかに凌駕するものが得られるのだと。

そのためには、自己と他者両方の「尊厳」が大切で、尊厳を支えるのは「多様性」だと冒頭ではっきり述べている。そういうことってあらためて語らずとも大人の姿から子どもが感じ取ってくれたらいいんだろうけど、こうやってストレートに書いてある本があっていいと思う。

ちょっとどうかなと思うのは仕事についてで、やりがいなんて必要ない、やりがいと吹聴するのは大人たちや社会の罠で、そんなものを過剰に求めるから不幸になるっていうのは大筋でそのとおりなんだけど、この本が書かれたときよりもさらに今、若者の雇用状況は悪くなっているだろうしその歯止めも見えない状況だと思う。「働く」ことへの期待水準を下げておくのが自衛だとしても、下げ過ぎるのも大人の不誠実なんじゃないかなあ。

おすすめの本や映画などがいろいろ載ってるのは楽しい。SF作品の社会批評性について述べていて、たくさん紹介している。大人には、巻末の重松清との対談が面白かった。 

僕たちの世代は「民主主義」=多数決だと単純化して思いこんじゃった人がすごく多いんじゃないか、と。「みんなで決めたんだから文句言うな」というやつです。その「みんな」というものにうまく治まったときの安心感と、そこからこぼれてしまったときの不安感っていうのを、親が持ってると思うんです。そういう「みんな」との折り合いの付け方の難しさを、14歳の子どもだけでなく、親も持ってると思う。

 
同じく対談中、「切断操作」「クレージークレーマー」についての話も面白かったので興味のある方はぜひ。

 

 

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