『大奥』第6巻 よしながふみ
- 作者: よしながふみ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2010/08/28
- メディア: コミック
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出会い、惹かれ合い、愛し合って、その結果として子どもを授かる。そんな、あたりまえのように思われている営みからかけ離れたところで生きる人々を描くために、よしながふみが作り出した究極の舞台が、男女逆転の『大奥』なんだろうと思う。
父の偏愛に応え、世継ぎを産むのが至上の命題とされる女将軍。男性人口が激減した社会で、種馬としての役割を果たすことによってしか生きる方法のなかった貧乏公家出身の男。敬慕というにはあまりにも強い思いで同性の将軍に付き従う側用人・・・。
私を含め、読者の多くは性的にマジョリティだろうに、この異様な世界に入り込み、ぐっと心を掴まれている。
とにかく圧倒的な筆致。沈鬱で静かな場面から一転、白刃きらめかせ怒涛の緊迫感をかもしだすとか、重厚な公の場面の直後、それを受けて嘆きわめく老父を見せ、さらにそこから飛び立つ浮遊感を際立たせるとか。
かなり大きなコマ割りでざっくりと描かれているようなのに、強弱、緩急のつけ方がやたらと効果的だから、読みながらの感情の振れ幅が大きくて、読後はもっと長いものを読んだかのようにぐったりとしてしまう。登場人物たちの悲しみや痛み、苛烈な運命に胸を突かれる感覚はあとまで残るが、不快な湿度感はなくて、「早く早く続きが読みたい!」という飢えが募る。要するにめちゃくちゃ面白いー!
もうすぐ公開される映画は1巻の「水野編」。ここまで読んでみると、水野なんてまだまだ気楽なもんだったな、とすら思える。作品自体の質は終始、高位安定なんだけど、内容はどんどんハードになっていってます。
家光編も進行中はかなりのもんだと思ったが、彼女の物語は“若き日の苦しい恋”だったから、今思えばまだ救いがあった。綱吉編は、誰もが老いさらばえていくまでを描くもんだから、業の深さに慄然とすること、ハンパじゃありませんでした。うん、水野編は、あれはあれでいいんだよね。導入部から綱吉編くらいハードだったら、さすがに引く読者もいよう。
ええっ、この美しくないけど屈託なさそうなおじさんが江島?という驚きで引きつけられた6巻の最後。7巻はかの有名な江島生島事件と、それからついに吉宗の本編に入るのかな。
1巻に出てきた「没日録」(だったっけ?)を読んで男女逆転社会の成り立ちを知るだろう吉宗が、どんな行動をとるのか? 影の多いこの物語の中で唯一といっていい「光」の存在として描かれてきた彼女自身の運命はどうなるのか?
この『大奥』では、愛情と生殖、両方を(恒久的に)得る登場人物はいない。よしながふみのテーマが「ジェンダー的にマイノリティな人々を描く」ことだとの仮定に立てば、当然である。であれば、「男の数が増えたので、男女は再逆転し、元の通りになりました、ちゃんちゃん♪」というのが大団円にもならないだろう。吉宗の場合、史実に家重という子どもの存在があるので、どう巧みに料理してみせてくれるのか?と、私の期待度はMAX!!
でも、吉宗の時代を最後に、男女は元に戻るんだろうな。逆転したままだと、12代家斉なんて説明できないもん、子どもが50何人もいたんだから。作品自体が吉宗編で終わるとしても(その可能性が高いと思う)、そういう“説明のつかなさ”を残さない作家のような気がする、この人。
5巻のときに書いた感想はコチラ→(http://d.hatena.ne.jp/emitemit/20091004#1254664175)