『大奥 10』 よしながふみ
- 作者: よしながふみ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2013/10/28
- メディア: コミック
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8巻で吉宗が死んで、長崎にて青沼や源内が登場したとき、正直ピンとこなかった。この物語の本流は「大奥」にあり、江戸城表あっての大奥だ。だから青沼が大奥入りしたあともそれほど政治に動きがなく、「JIN」みたいな趣になっていた9巻は、それはそれでもちろん面白く読ませるのがよしながさんの手腕だけれども、なんとなく長い外伝のような気分があった。
それが10巻、歴史をかじっていれば、意知の暗殺や意次の末路、源内の晩年もわかってはいたのだけど、青沼まで含めてたたみかけるように一気にやってきて、そしてラストで家斉(男)降臨ですよ…! 傍流だと思っていた源内と青沼の最期が悲しくて悲しくて。源内周辺はほんとうまく調理したなあ、と思う。あと、「家治はお調子者でいけない」という祖母・吉宗のセリフが最後にちゃんと回収されていたのがさすがだった。
で、一冊読み終わると猛烈に今後の展開が気になるのがこの話。人気マンガって、往々にして惰性で続いたりするんだけど、よしながふみに限ってはそんなの無縁なんである。
子どもが五十何人もいるという家斉をどういうからくりで描くのだろうと前々から興味津々(笑)だったが、なるほどそうきたか!と(鳥肌)。ただし、これで男女逆転が元サヤにおさまるとは思えないんだよね。あまりになし崩しすぎるもん。これまでの男女逆転の歴史を鑑みても、逆転していた男女が本当に逆転するには(わかりにくいなw)、涙や犠牲に彩られた莫大なエネルギーが必要になるはず。よしなが版幕末では、あくまで最後の将軍・慶喜は女(歴代将軍の中でも最高級の美女)、天璋院は男(大男の薩摩隼人)でないと!
だけど、続く家慶も家斉ほどではないけど二十数人の子だくさんだから、ここまでは男なんだろうか。や、家慶の子は家定以外みな夭折しているはずだから、うーむ。
ところで青沼って架空の人物ってことでok? モデルがいたりする?(家治の臨終間近時に蘭学医が診た、という説があるらしいが、そういうことではなく、著名な人物として)。この時点で、異人(ハーフだけど見た目は完全に)が大奥に存在した、ということは、幕末にも何か作用しそう。よしなが版幕末でも外圧は描くだろうから。
男女逆転にどういう決着をつけるか、というのが気になるのは、単純に「風呂敷をどうたたむか」のようなストーリー的興味だけではない。よしながふみは、フェミニズム…というのが語弊があれば(私その定義を厳密に知らないので)、ジェンダーの問題に並々ならぬ関心のある漫画家だと思っているので、そこに「どういう意味づけがなされるか」というのにすごく」興味があるわけです。
ラストで、黒木が、「女たちよ…!」と痛哭するシーンは、その布石のひとつのような気がした。権力をほしいままにする女たちに翻弄される男たちの怒り、悲しみ。まさに男女逆転の姿なんだけど、それはつまり、「ジェンダーの強弱は社会的役割によって決まる」と言っているようで。黒木が「母でありながら…!」と憤るように、この世界では、役割は逆転していても性は逆転していないわけだからね。ともかく、幕末まであと7-80年あるので、黒木ら、このときに解雇された男たちが幕末の志士と化すわけではないのだけれど、このような怒りや悲しみが、討幕へのエネルギーとなるのかな…と思った。雑誌連載は敢えて読まないようにしてますが、そうすると次巻までが長いわ〜。一年後か〜。