『大奥 11』 よしながふみ

大奥 11 (ジェッツコミックス)

大奥 11 (ジェッツコミックス)

毎巻、怒涛のような物語が展開されているわけだが、この巻といったら「戦慄」の一言に尽きる。

…と思ったら、10巻の感想( http://d.hatena.ne.jp/emitemit/20140118#1390049974 )でも1行目に「戦慄の巻でござった」と書いていた(笑)。ボキャ貧ェ…

とにかく、このマンガが始まって、吉宗や家光だけの話じゃない、ここからどんどん時代が進んで行くんだ!とわかったときに、歴史をかじった人なら誰でも思ったのが、「家斉どうするんよ?!」ってことだったと思う。11代将軍徳川家斉、あだ名は「オットセイ将軍」。食糧不足の戦時中、カレーにオットセイの肉を入れて「なんか体がポカポカしてきた」って描写は、2014年の朝ドラ「ごちそうさん」にもありましたね。そう、家斉にはなんと実子が50数人いたと言われているのである。

男女逆転大奥。とはいえ、さすがにひとりの将軍(女性)の腹から50人もの子を生ませるわけにはいかない。ここをどういうカラクリにするのか、ずっと興味があったのだ。それが、紆余曲折あって「ななななんと、家斉は男将軍として描くのか!!」と判明したのが、前巻のラスト。鳥肌でしたね。

なので今巻で、家斉の子がポコポコ生まれてくるのは、もう不思議じゃないんですよ、当然の帰結なんですよ。しかし、まさかここで、治済という人(家斉の母)を、こうもクローズアップしてくるとは!!!

確かに、実際に治済はものすごい権力をもっていたというし、大御所事件についても、松平定信の老中罷免についても、歴史とちゃんと整合するんですよね。なんといっても、治済の人物造形がすごい。これまですでに、さまざまなタイプの女性が登場してきた本作にあって、この終盤に、ここまでインパクトの強いキャラを出してくるとは! そのキャラと、家斉の子どもたちの多くが夭折したという史実もリンク付け!! よしながふみ、なんたる巧妙さ。

歴史をかじっていると、このあとの展開も多少は読めるところがあって、それでもなおマンガを読んだときに「うおーーーーっ!」となるのが本作のすごいとこなんだけど、それにしても、歴史を思うと、なんかちょっと切ない。

まあそれはそれとして、次の12代家慶は、まだ女性だと思うのよね。で、家定で、もう1回、女将軍に戻ると思うわけよ!! だってそうじゃないと天璋院篤姫が女になっちゃうから! 天璋院篤姫は、大男で豪胆な薩摩隼人として描くはず! そして、絶世の美女にして切れ者の最後の将軍慶喜、カモーン!

極上の歴史エンターテイメントとして単純に楽しんでるんだけど、そこはやっぱりよしながふみの書くものだから、「ジェンダーについての記述」にもちょいちょい目がいくとこがあって、今回で言えば、治済が息子・家斉に向かって

男がそういう政にかかわることを ちまちまこの母に意見せずとも良いと何度申したらわかるのじゃ?
そもそも男など、女がいなければこの世に生まれ出でることもできないではないか! 
生まれたら生まれたで 働くのも成人して子を産むのもすべてを女に押しつけて、己はただ毎日女にかしずかれて子作りをするだけ!

と叫ぶ場面。男女逆転マンガゆえに、現実世界ではありえない、こういったセリフがちょいちょい飛び出すのも本作の魅力で、妙なカタルシスをおぼえちゃうところもあるんだが、これって、フェミニストよしながふみとしては、「男女の役割なんて、しょせん社会や環境が要請したものであって、自然の理などではない。現実の私たちが直面している抑圧は不条理なのだ」という意味合いが込められてるんじゃないかなーと思いながら、ずっと読んでいる。