女子棒高跳び決勝、女子800・3,000障害、男子10,000、女子100など:ベルリン世界陸上

さて、昨深夜の世界陸上をDVDでさくさくと見る。

女子棒高跳びエレーナ・イシンバエワがまさかの記録なしに終わったのは、今朝いちばんに情報番組で見た。そうか・・・。そうだったか・・・。姐さん・・・・(涙)。

3度目、最後のチャンスとなる跳躍前、あの女王の美貌に、見たこともないほど焦燥の色が浮かんでいて、見てるこっちがショックだった。試合後のインタビュー、涙で目を赤くしながらの、
「何が起こったのか自分でも説明できない。準備は完璧にできていた。でも、これも運命なのでしょう。またロンドンに向けてがんばる」
というようなコメント、印象的だったな。

これも運命。ほんとにそうかもしれない。準備段階での不足部分や、けがの影響、あるいは試合中の判断ミス、精神的な揺らぎなど、具体的な敗因について、のちに彼女自身が分析することもあるだろう。でも、どんな選手でも、負けることがあるのは不思議じゃないし、極論すれば、永遠に勝ち続けることができる選手なんていやしない。いつかは必ず、衰えと向かい合わなきゃいけないときが来る。輝かしく勝利を収めてきた人ほど、いつか負けたとき、より苦しまなければならないこともあるのは、必然的にさだめられた運命なのかもしれない。今後、彼女が復活するのか、あるいはこれから長く苦しいときが続くのかわかんないけど、どうなろうとも彼女の栄光に傷はつかないし、応援したいと思う。

ところで、イシンバエワ敗北をライブで見た直後の織田さんの絶句っぷりは、さすがだった。このショックを、観客の代弁者としてなんとか言葉にしつつ、また織田さんからもショックなコメントを引き出そうとする中井さんの(キャスターとしては当然の)努力なんて意にも介さぬように、ひたすら首をひねり、黙り込む織田さん。ああ、そういう素直すぎる反応が織田さんを見る醍醐味・・・。やっと口をあけたかと思うと、
「昨日のボルトの記録が圧倒的すぎて、なんかそれから、いろんな歯車が狂っちゃったような感じがしますね」
と、あまりといえばあんまりの、トチ狂ったコメント。エレーナの敗北、ボルトのせいかよ! 誰もついていけない織田流の超論理! これだから、DVDでも織田さんが映ったら早送りできません!!

織田さんがっくりのわけは、イシンバエワの敗北の前に、女子800m準決勝ではジェリモやジョプコスゲイ、ベンハシといった有力選手が決勝を逃し、女子3,000m障害決勝では優勝候補のガルキナがメダルを逃すという波乱を目の当たりにしたためでもある。まあね・・・どんな大会にも波乱ってのは必ずあるし、むしろ、ないほうがおかしいんだし、誰であっても勝者には惜しみない拍手を送りたい気持ちは、私も織田さんも一緒でしょうが、しろうとファンとしては、何年も一線で活躍してておなじみの選手って、やっぱり親戚のおじちゃんおばちゃんのように、感情移入しちゃってるからね。

しかし、女子3,000mの決勝で、4コーナーまわったところからぐんぐん加速しガルキナを追い抜いて金メダルを獲ったドミンゲス選手は、見てて気持ちいいくらいのナイスランだったな。彼女は33歳のベテランで、大きな大会で最後にもう一度、メダルを獲りたい!という強い強い意気込みを持っているということをレース中にQちゃんが伝えたのだが、その力のこもった解説っぷりからして、Qちゃんも相当、彼女に思い入れがあったようだ。

そのQちゃんは、実況席よりももっとトラックに近いところにいるんだけど、続く男子10,000mの決勝のレース中も、かなり熱い解説をところどころで挟んでいた。この春からTBSのスポーツキャスターを務めているらしく、笑顔を絶やさない仕事ぶりは、まあ小谷さんなんかと比べると、やはり初々しいというか、ちょっと硬さや懸命さが前面に出るところがありながらも、ずいぶんキャスターの練習も積んだのかな、とも思われ、もともとQちゃん崇拝派の私としては絶賛応援中なわけだけど、長距離の解説になると、さすがにお口も滑らかに早口でたくさんの情報を伝えてくれて、その分、彼女の特長である岐阜なまり?もちょっと出てくるんだけど、そこにまた熱意を感じて「Qちゃん、いいぞいいぞ」となる私です。

で、男子10,000mといえば、エチオピアのベケレ選手です。世界陸上のこの種目では3連覇中、北京五輪でも10,000、5,000の金メダルを獲得し、「皇帝」の称号を欲しいままにしてる彼だが、今シーズンは10,000mの試合に一度も出ていないし、エチオピアからこのベルリンに到着したのも、なんと昨日とのこと。そ、それは余裕のあらわれなの?! それともいっぱいいっぱいなの?! 

解説の元カネボウ高岡寿成さんによると、「まー、今期、試合に出てないっていっても、毎年夏にコンディションを合わせることに関しては、彼は慣れきってますからね。」ということらしい。男子長距離の解説の鉄板・金哲彦さんにかわって登場した高岡さんは、こちらも引退したばかりで解説の新人さんであるから、時々ことばが滞る場面もあるのだが、このベケレに関するコメントはあまりに自信にあふれてて・・・というか、のほほんとした余裕すらあったのがおかしかった。

そして高岡さんの言葉を裏づけるようなベケレの走り。いつもどおり、涼やかな表情、リラックスしきった美しいフォームで先頭集団をかるーく走ってます。前を行くエリトリアの選手が、
「ベケレが来るのはわかってる、でも、いけるとこまで精一杯いかなきゃ、自分にメダルはないんだ!」
というような、鬼気迫る表情で、必死のフォームで走り続けるのとは、ひどく対照的です。8,000mを過ぎたあたりから、エリトリアの彼とベケレを残して先頭集団も徐々に落ちていき、
「さあ、ベケレ、どこでくるのかな?」
と、もはや疑いもなく見ていると、ラスト1周の鐘がカンカンカーン!と鳴らされたのを合図に、きました! てか、あの鐘こそが彼にとってスタートの号砲であって、それまではウォーミングアップだったのか? と思っちゃうくらいだった。仕掛けた、みたいな駆け引きですらないような、ゆうゆうたるスパート。みるみるうちに後続を引き離していきます。これはすごい! 

さすがの皇帝の走り! これには織田さんも、「いやー、ベケレ。裏切らない男だ!」とご満悦。ちなみに、そのあとすぐに、国旗をまとってのウイニングランに入ったんだけど、「ちょっと、アンタ、レースを全力で走ったんでしょうね?! 10キロ走ったんでしょ?! しかも大会記録で!」てぐらいに、ウイニングランも無茶苦茶に速かった・・・。

さて、今日のメイン競技のひとつ、女子100m決勝。3強対決とはいえボルトの力が図抜けていることが薄々感じられた男子とは違って、こちらは有力とされる4選手の実力が拮抗していると思われ、混沌としていて読めません。スタートラインでの選手紹介では、いつものように柔らかな笑みで手を振るフレイザー(ジャマイカ)、ちょっとおどけて目を見開いてみせたりする長身のスチュアート(ジャマイカ)、顎をあげてニヒルな笑いを見せるジーター(アメリカ)、そして笑顔はなく決然とした表情で手を高く挙げるキャンベル(ジャマイカ)と、カメラに向かう様子も4者4様。

結果は、すばらしいスタートを切ったフレイザーがぐんぐん加速し、終盤スチュアートの猛追にあいながらも1着で逃げ切って、北京五輪に続く金メダルを獲得!
「やったわ! なんて素晴らしい結末! どうしよう、信じられないくらいよ!」
的に、トラックに仰向けになって両手で顔を覆い、足をじたばたさせるフレイザーさん、かわゆし。おめでとうございます。個人的には、前回の大阪陸上で、有無を言わせないような力強い走りで金メダルを獲ったキャンベル選手に魅了されていたので、このベテランにさしかかった選手の再びの勇姿を見たかったけど、彼女は4位でした。2位、スチュアート。3位、ジーター。ちなみに、昨日の男子決勝とは違って、伊東さんもずいぶん冷静に解説されてましたね。

それにしても、私が小学生の頃は、アメリカがスプリント大国として名を馳せていて、あのカール・ルイスやフローレンス・ジョイナーを筆頭に自信にみちあふれた選手団は「まさに自由で明るいアメリカ!」と子ども心に強く印象づけられたものだったのですが、ここのところは、結果も、そして選手の陽気な雰囲気も、ジャマイカがそれにとってかわっています。

対するアメリカのスプリンターたちは、覇権を奪われたからなのか、あるいはたまたま、このごろ集まった選手たちの性格なのかは知る由もないけど、非常に実直で、ハメをはずすことなんてないかのように真面目に見えるのが不思議。さあ、リレーはどうなってくるかな? その前に、ハードルではアメリカが未だ、ジャマイカを圧倒してるみたいで、そっちも興味津々。

それから今夜始まる男子200mですが、ゲイは出ないらしいね。残念だけど、それがいいかな、って思う。やはり足の調子も完全ではないようだし、ここでいたずらに(というのは失礼だが)敗北を重ねるよりも、この先に向けてのプロセスとして最適というか。これは逃げるのではなくて、すごくまっとうな、前向きな回避だと思います。

以上、今夜はここまで。毎晩この量を書いてると、さすがにその他の生活が圧迫されるな。明日からは考えよう・・・。 でも、今夜も番組はDVDに録ってますう。