よしながふみ対談集 『あのひととここだけのおしゃべり』
- 作者: よしながふみ
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2007/10/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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考えてみれば、ちゃんと「ここだけの」話、と銘打っているのだから看板に偽りはないのだが。
よしながふみのマンガ作品からは、「フェミニズム」「マイノリティ」のようなキーワードが自然に浮かんでくるわけだが、
結局、少女マンガって一様にいえるのはやっぱりマイノリティのためのものだなと思う。女の子って、もう女性っていうだけで経済的にも権力の担い手としても腕力の世界でもマイノリティだから、社会のなかで。
対談が始まってわずか20ページ足らずで、彼女はこう言い切るのだ。なんだかあまりに身も蓋もなくて、「そ、そんなぁぁ」とちょっとたじろいでしまう。けれど続く言葉を読むとなるほどと思わされるし、何よりこの本全体から伝わってくる彼女の聡明さや豊かな人間性、マンガに対する情熱には、やっぱり憧憬をおぼえる。
叱咤激励して「自分の足で立て」みたいなものではなくて、変わらなくてもいいよ、というマンガを描きたいのだと彼女は言う。つらい状況にある人が絶望的な気持ちにならないマンガでなければならない、というのが彼女の信条なのだが、それは安易な慰め、読者への迎合ではなくて、「ずーっと続く継続的な幸せなんてない。大事にしたい一瞬がたまにあるだけ、それを貯金みたいに積み重ねていくのが人生」という人生観からくるもの。ここで対談相手の三浦しをんが強く同意するのを、さもあらん、と感じながら読んだ。
よしながふみが三浦しをんを「ぷんすかっぽいテンション」と表現したことに妙に萌える私。。。
『西洋骨董洋菓子店』の感想(http://d.hatena.ne.jp/emitemit/20110617#1308314352)で“話を前に進める推進力がつねにはたらいている”と書いたんだけど、そのことについてもはっきり発言しているところがあって「やっぱりそうなのか!」と思ったなあ。「グレンスミスの呪い」というらしい。昔のマンガの話の密度やスピード感をつねに意識している、と。
「(高河ゆんのように)天才だ、いや全然だめだ、と論がわかれるときって、結局天才ってこと」
「『天然コケッコー』は、くらもちふさこの紡木たくに対する練りに練ったカウンター」
「岡崎京子、小沢健二、スチャダラあたりで、オタク的なことがかっこいいことになっていった」など、個別のマンガ論の豊富さはもちろん、羽海野チカとの熱い仕事論や、少女マンガ界の永遠のカリスマ・萩尾望都との豪華対談ありで、堪らない読みごたえ、金言至言続出の対談集なのであります。