『おんな城主直虎』 第31話 「虎松の首」

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ほんっとうに森下節ばりばりの作品で私はうれしい(泣き笑い)
 
屋敷から立ち退いて、あばら屋で井伊の面々に今後の企図と政次のことを告げる直虎。
「そうだと思っていました!」と眉宇を明るくする六左も、「それも含めて但馬に騙されているのでは?」と疑る之の字も、ともに彼らのキャラクターであり直虎を思う気持ちが篤い。
 
之の字の疑念に一同がウーンと暗くなると、「但馬は碁でずっと待ってくれる!だから信じられる!」と立ち上がって叫ぶ虎松には将来の片鱗が見えるのだけど、そこで終わらせず、直久にも「井伊が大事だからそういう教え方をするんだ」と言わせる脚本のなんとフェアで気持ちいいことよ。主人公(や、のちの井伊直政)だけにいい恰好させないんだよね。
 
六左の「鎖帷子を貸してくだされ!」は、大向こうから「よっ! 六左衛門!!」と声をかけたくなるような名場面であった。そして旅立つ彼らに「武蔵坊弁慶とはあのような者であったのかの」と言うのが本当に本当にすばらしい。本当にそうかもしれないと思った。心やさしく気弱で非力な大男が自分を奮い立たせて熱い心から忠義を尽くしたのかもしれない。で、腕自慢で小柄な之の字が「武蔵坊弁慶を愚弄しておられるのか」と笑うのもいい。愚弄なんて言葉を使いながら、彼が六左を軽んじる気持ちのひとかけらもないことが伝わってくる、脚本と矢本悠馬の演技である!
 
前回、「そっかー、直虎に首をとられるから、こんなに、『殺されて当然』ぐらいにヤな奴なのだな、関口・・・」と思ってたら、今回、氏真にささやかな抵抗を示す場面があって、ここで複雑さを出してくるなあ、と。度を越した苛烈さは禍根を残す、と思うまっとうさと、手ぬるさ。氏真のほうは、寿桂尼に死なれてから彼女の呪縛で抑制できなくなっているように見えて、実際、直虎は三河と結んでいるのだから、やはりその判断は正しくもあり、一筋縄にはいかない脚本だよねええええ。
 
でさ、関口が、氏真に厳命されたら、もう迷いなく思いきり上から政次に虎松の首を求めるところが、またいいんだよねー! そこで即答する政次もいいんだよねー!
 
高橋一生は、どうやって目から表情を出し入れしてるのだろう。屋敷に乗り込んでくるときとか、完全に黒目が死んでたよねw
 
で、くだんの「地獄へは俺が行く」ね。
まず、あれを言った相手が自分の家来たちだったのが、オオッいいね!と思いましたのです。直虎に向かって言ったのであれば、「どこまでカッコつけるよw」って、ちょっとプクク(笑)ってなるとこだったのでね。
 
で、地獄へ行く覚悟するくらいだからどんな悪行やらかすかと思いきや、子どもを一人殺しただけだった(と、敢えて書きますとりあえず。)というのが、本当に本当にすばらしくて森下節だと思いましたです。
 
血で血を洗う戦国乱世の武士が、たぶん身分の低い、しかも疱瘡で放っておいても死んでしまうような子ども1人を殺して虎松の身代わりにしたとて、なんの罪悪感がありましょうか。
高坂弾正は今川の家臣をだまくらかして調略したあげくに生首を投げ入れて哄笑してましたよ。そんな世の中ですよ。
村には「解死人」というシステムもあった世の中ですよ。
それなのに、疱瘡の子ども一人で「地獄に行く」と言う男なのです。政次は。
人として、なんとまっとうなのでしょうか。戦国武士として、なんと優しく、弱いことでしょうか。そして、どんなにまっとうで優しい人間であっても、罪もない子どもを殺すことの、なんと引き返しようもない罪業でしょうか。まっとうな人間でいられなくなる所業でしょうか。
 
はじめ、亥之助を身代わりにしたのではないかと思ったんだよね。それぐらいの脚本、この人なら書くなと思って。そういう「寺子屋」的な筋書きって、日本の芸能の王道でもあるし。
でも、亥之助じゃなく、見ず知らずの死にかけの子どもだからこそ意味があるんだよねと思う。亥之助だったら、浪花節になりすぎるというか、別のドラマ性が生まれてしまう。どんな命であっても、命を奪うという罪悪は同じだと。
 
見ず知らずの、身分低い、死にかけの子ども1人を殺すことで、それが直虎のためならば微塵の後悔もないけれども地獄に行くほどの罪だと認識している政次と、政次にそうさせてしまった直虎の悔恨、「自分も同罪だ」と背負いながら今後生き続けるであろう直虎。これが核なんだと思う。
 
「そして、どんなに暴力に満ちた時代であっても、殺人とはそれほど重いものだ、人としての道をたがえることだ」と描き出す森下脚本だと思う。
 
傑山に矢を向けられて、虎松が失禁したよね。子どもでなくても当然の反応だと思う。でも、大人の力にかなうべくもない子どもだから、なおさら胸が痛むよね。政次に殺された子も、意識があったのであれば、きっと失禁しただろうね。たとえ龍雲丸の言うとおりに、親に金を渡せて役に立ててうれしい、と思ったにしても、殺される瞬間はどんなにか怖かっただろうね。それを容赦なく殺したんだよね。「政次萌え~ 政次と直虎の関係萌え~」って萌え萌えしてる視聴者に冷水ぶっかけるような苛烈な脚本だと思いましたです。
 
それにしても、直虎の尼姿は美しいですね・・・。