睦月の二十一 / 白壁の町、筑前吉井へ

●1月某日: 6時起床。7時半にご機嫌で目覚めたサクだが、私と夫とが交代で朝風呂に入りに行ったことを知ると「・・・こどもは?」と険のある声で問う(笑)。朝食後に夫が誘うと、意気揚々と大浴場に行った。すごく楽しんでいたらしい。10時、チェックアウト。「桜のころにまたおいでくださいね」と言われて気づく、宿の目の前、筑後川沿いにズラッと桜の木が並んでいること。

少し車を走らせて吉井町へ。保存地区に指定されている白壁造りの町並みを歩きたかったのだ(私が)。寒さのせいか、まだ時間が早いということなのか、はたまた、こんなもんなのか、ひどくひと気が少ない。しかし白壁通りはなかなか歩き甲斐がある。

民家も、お店も、銀行も白壁。随所に古い建物が残っている。居蔵の館に大正年間の地図が展示されていた。びっっっしりと立ち並ぶ建物。筑後軌道。ものすごく栄えていたことを彷彿とさせる。豊後街道、久留米と日田との間の宿場町として栄え、精蝋や酒造などで莫大な富を得る商家も多かったそうだ。「居蔵の館」では、うきは市の絵のコンクールの入賞作品が小1から中3までの学年ごとに貼りだしてあった。ふるさとの風景がテーマで、白壁の街並みや田んぼ仕事、三連水車や神社、お祭り等々の様子が描かれている。すっごく見ごたえある。

「鏡田屋敷」では「会長さん」と呼ばれているおじいさんを中心におばさんたちが数名集まっていた。来週から始まるおひなさま祭りの準備が進められていて、すでに何十もの雛飾りが展示されている。すすめられるがままに上がって、おばさんにおひなさま及び、正面部分は文久3年(1963)に建てられたという建物について詳細に説明を受けた。おひなさまはほとんどが寄贈で集まったらしい。転勤とか、住み替えとか、高齢化とかに伴って雛飾りを手放す人からのもの。そのせいか、ものすごく古いものというのはあまり見られない感じ。

建物は圧巻。急な階段を上る2階のある部屋では「ここはかつて納戸だったので」と天井の見事な梁がむきだしになっていた。硝子戸も古いし、廊下の床もすごく古い。「ここまでが檜で、ここからは桜です」など正確に説明してくれる。庭にはかつて官舎として使われていたころ、出入りする役人たちが馬をつないだ場所もいかにもという感じで残されている。古くて大きな長持には運搬時に棹をさす場所がある。サクはからくり箪笥の仕掛けを扱わせてもらった。おくどさんはもちろん土間に。水路に面していて、そこで洗い物をしていたそうだ。

なんせ筑後川は大きな川だし、そこここに疎水が引かれていて、現在でも十分に視界のひらけただだっ広い平野。これで米や作物が取れないわけはないっていうような、大昔からさぞかし豊かな地域だったのだろうと思いきや、この吉井に「五庄屋伝説」というのがあるのを吉井小学校に掲げられた掲示板で知った。

いわく、昔から肥沃な土地だったけれど、川より土地が高い位置にあるので水が引けず、飢饉もたびたびだったそうだ。そこでここらの五人の庄屋が持ち出しで壮大な灌漑計画を立てる。近隣の村には失敗時の被害をおそれて反対するものもあり、藩はなかなか許可しなかったが、「失敗した時は死をもって償う」という庄屋たちの嘆願により、ついに工事が始まる。藩によって立てられた五つの磔は、「庄屋どんを殺しちゃならん」と村人・人夫たちの団結を促すものでもあった。かくして迅速に工事はすすみ、予定よりもはるかに早い60日後に工事は完成。明治に入ってから、死を賭して地域に尽くした五人の魂は長野水神社に祀られたのだった・・・。

という史実に基づいた伝説を、今もこの地域の子どもたちは聞かされて育つのでしょうね。非常に興味深いが、古い屋敷や雛人形は、子どもには退屈だし多少気味わるくもあるもの。鏡田屋敷のあとには、通り道にあった和菓子屋さんに入る。おまんじゅうや大福を買って、隣接のイートインスペースへ。

ゆったりとした空間。あたたかいほうじ茶がうれし。先ほどまでの小雨が止んで晴れあがり、濡れた道路や白壁が輝いて見える。小腹をみたしたあとはすぐ近くのパン屋「もっか」へ。乙女カメラ部の綾子さん が「おいしいよ」と言っていたのを思い出して狙っていたのだ。お客さん、たくさん。パンの種類もたくさん! いくつか買って、車の中でひとつを分け合う。生地がなんだか独特ですごくおいしい!! 「まさか吉井町でこんなに時間がつぶれるとは」と夫(失礼)。

30分ほど走って、甘木へ。夫が調べていたイタリアン「パンチェッタ」で遅い昼ごはん。ここがまたまた大繁盛で、夫「甘木をなめとった」とまた失礼発言。人気もうなずける味でしたー。サク、さっきまんじゅう食べたくせに、ピザもパスタもモリモリ食べて親を驚かせる。

下の道でのんびり帰宅。運転おつかれさまな夫には休憩してもらって、まだまだ体力をもて余しているサクと、食べすぎ警報の私のコンビでサクチャリ散歩。私は荷物を軽量化してスニーカーで“ついでジョギング”小一時間。500円くらいのワインを買って夕食に飲む。夜ごはんはマーボ豆腐(夫の得意料理)、イカと野菜炒め、ほうれんそうおひたしなど。