『ディープ・ピープル』山下佐知子・有森裕子・千葉真子

これは春からの新番組ですか? マラソンがテーマということで初めて見た。シンプルな鼎談がベース。おもしろかった! 3人の現役時代の映像や写真がちょこちょこ出るんだけど、やっぱり体がすごい。筋肉が・・・! 

マラソンほどの長距離を走るとなると、まずは自分との戦いになるんだろうけど、競技者としてはやっぱり駆け引きにもかなりの力点が置かれているのだなあと思った。うしろの選手との距離、他の選手がどれだけ疲れているかをどうやって測るか、相手にダメージを与える追い抜き方などについて弾むトーク(笑)。

「天然ちゃん」みたいなイメージを勝手にもっていた千葉さんが、実はいちばん演技派だったり、走り方についても細かなテクニックを駆使しているようなのは意外だった。それも、トラックランナー時代からの激しいパフォーマンスにより疲労骨折していた恥骨へのダメージを分散するため、必要に駆られて習得した技らしい。

今年の横浜国際女子マラソンでの山下−尾崎の師弟コンビに密着した映像もあった。レース当日、スタート前には、自分の選手はもう見ない。ライバルになりそうな選手たちの仕上がり具合についてチェックするためにキョロキョロしているという話。やっぱり勝負の世界なのだ。

サバサバしつつも、熱血体育会系というよりは闊達で自然体の山下さんのコーチぶりは、2年前の世界陸上で尾崎さんが銀メダルを獲った際にも見たとおりだが、練習中にしろ、レース本番の前夜(前々夜だったか?)にしろ、もちろんレース中にしろ、冷静で細やかな目配りと行動はさすが。

「レースの前の日あたりは、選手はお姫様扱い。ほんとは下心たっぷりだけど、なるべく自然にそういうふうにふるまう。」と言う山下さんに対して、「選手とのそういう距離感は、女性同士だからというのもあるけど、山下さん独特のものだよね」と評する有森さん。

村上春樹の『シドニー!』が印象的だったせいか、やはり私は有森さんという人に興味がある。Qちゃんも野口さんもかなわなかった、オリンピック2大会連続のメダル獲得をなしえた努力の人。その後の厳しい競技生活については『シドニー!』に詳しい。(それを読んで書いた古いブログ記事がこちら。これは、今読んでも、我ながらぐっとくる。もちろん、言及元の春樹の文章がすばらしいからにほかならないのだけど→フルマラソンのように続く : moonshine---the other side

引退後は、確かな批評眼をもちながら売れっ子解説者になるでもなく(お茶の間ウケもスポンサーウケもしないのだろう)、特定の教え子をもつでもなく、家庭にのみ、おさまるでもない。美人で、頑固で、冷たく見えるほど冷静で、努力家だからこそ自分にも人にも厳しく、でも「人生をかけてぶつかってくる監督の気持ちが自分を走らせてくれた」と言うような、心に熱いものをもっている人。彼女の人生を、私はこの先もずっと気にかけるだろうし、応援もしている。