弥生の八

3月13日の日曜日は、夫の実家で昼下がりを過ごした。長野に住む義妹が二人の子を連れて、急きょ前日の夜の便で帰省してきていた。仕事のある彼女の夫を残してくることになるし、東北からも関東からもそれなりに距離があるということで、両親は思いとどまるよう話したらしいけれど、義妹夫婦はためらわなかった。同じく幼い子をもつ身としては、その決断を気弱なものだと評する気にはなれない。幼い子の前ではつとめて平生のテンションでいようとしても、夫は激務で毎晩帰りが遅く、テレビをつければ悲しい怖いニュースばかり、しかも何度も地震で揺れているという状況では難しいだろう。親の不安は子にも伝わる。頼れる実家があるならば、ひととき身を寄せるのもいいと思う。

到着してみると、二人の子は家の中といい外といい駆け回り、仮面ライダーに変身したり二人で小突きあったり、久しぶりに会った私や夫に突進したりと、世の中の様子なんてどこ吹く風で、そりゃもう賑やかしいのだった。こんなとき、子どもは大人に守られるべき存在だけれど、一方で、子どもが大人に与えてくれるもののなんと大きいことかと思わずにいられない。

みんなで昼ごはんを食べ終わって、居間のテレビをつけるとやはり震災のニュースをやっていた。「おまえたちはまだ若いから、日本に住んでいたら、この先、いつか災害に遭うこともあるだろう」義父が私たちに向かって言った。脅かすでも、心配性がすぎるわけでもない静かな口調で。「そのときは、とにかく、まず命。なんとしても家族全員の命を守ることを第一に動かないかんぞ」。そうだな、と夫が一言、答えた。