皆既日食!

理科系に弱い私、先週末くらいまでほとんど興味すらなかった世紀のこの天文ショーだが、「部分日食」なるものとはいえ、福岡では90%以上が隠れるさまが見られるというので、多少わくわくして今日を迎えた。

夏とはいえ、日本海側特有の厚い雲に覆われたような朝の天気から、「こりゃ、だめばい。」てな気持ちでいたのだが、11時前、にわかに社内がざわめき始める。
営業マンたちが出動したあとに残された社内は恐らく50人にも満たない、それでも、やっぱり「日食メガネ」を用意してる人って、いるものですね。
かわるがわるに出ては戻ってくる同僚たちが、「見えた! 見えたよ!」と興奮ぎみに語るのを聞いたら、そりゃミーハー心も高鳴るってもの。
会社玄関を出ると、役員さん自ら、「あっちあっち!」と先導している(笑)

空港があまりに都会に近いので、福岡の街には超高層ビルというのがない。博多駅から徒歩10分以内の当社も、ちょっと歩くとすぐに観測スポット(?)が出現していた。

こういうときは部署の利害なんて忘れてシェアしようじゃないの!というぐらいには和やかな当社の社風に則り、すすめられるがままに、遠慮会釈なくたった一つの日食メガネを手にとって天空に目を凝らす。
あー、真っ黒な空に、かなり、三日月っぽい太陽が見える。
「ね?ね? かなり見えるよね?!」
と興奮する周りの空気にもあてられながらも、
「あー、やっぱり、もともとの視力が悪いと、しょせん、かなりぼやけてしか見えないんだなー。」
と、冷静に思う自分がいた。0.1あるかないかの視力で生活してるからね、、、。

ちなみに、昼休みに携帯を見ると、夫から「日食」という表題でメールが届いていた。
画像添付のマークが出ていたので、部分日食の写真でも撮ったのかと思いきや、
「部分日食を見るために、屋上に群がる同僚」の写真が添付されてた・・・。
『平和な会社です』という、たった一文と共に・・・。
グッジョブ!

さて、月食も日食もほとんど区別がついてないような私なのだが、「皆既日食」という言葉で思い浮かべるのは、卑弥呼のことである。

邪馬台国の女王として、魏に使者まで出した大権力者たる卑弥呼だが、歴史書によれば、その死後、王国は麻のように乱れたらしい(よく歴史書や歴史小説で見る“麻のように”乱れるという表現が、現代人たる私にはピンとこないんですけど。)

その権力の失墜のきっかけになったのが、卑弥呼晩年の「皆既日食」である、という説を初めて目にしたのは、中学生のころだったと思う。井沢元彦が始めた『逆説の日本史』で読んだ。

小学館を代表とする子ども向けの「日本の歴史」みたいなシリーズや、大河ドラマなんかで歴史の知識を蓄えつつあった私にとって、忘れられない本だ。教科書の枠を出ない歴史通説をぶったぎって、大胆な仮説をもとに、それを検証していくというこのシリーズ。・・・てか、まだ、完結してないような気がするんだけど・・・。

「鬼道にて能く人を惑わし」たというシャーマン的存在だった巫女女王、卑弥呼だが、彼女の治世下の日本で、百年に1度あるかないかの皆既日食が起こっただろうことが確認されているらしい。

占いや神託が政治そのものに結びついていた時代。
しかも、アマテラスオオミカミに代表されるように、八百万の神の中でも、太陽信仰が厚かっただろう当時の倭国だったからこそ、真っ昼間に太陽が隠れ、天下が真っ暗になり気温が下がる・・・という皆既日食は、今のような「楽しい天文イベント」として扱われるはずもなく、むしろ不吉そのもの、太陽神を戴く女王の権力の失墜だ、と、それから卑弥呼を中心とする邪馬台国は、それこそ落日そのものになった・・・。

というような推測。
その本自体は、独身時代の幾度かの引越しに伴い、BOOK OFFに里子に出して既にもう本棚にはないので、記憶だけに基づいたことを書いている。なにぶん、若い若いころに読んだものなので、細かいニュアンスの解釈がかなり間違っている可能性はあるけど、書いたような文脈のことは、私には衝撃だった。
記録に残っていない(あるいは、正史があてにならない)部分を補完して推測する、ということが、歴史研究には可能なんだ、という意味で。

この、「皆既日食による卑弥呼失墜説」が、現在の歴史論壇でメジャーなのか、あるいはトンデモ説として扱われているのか、寡聞にして知らないし、長い期間にわたって繰り広げられている井沢のこのシリーズの説の中には、意外に一般的な歴史考として受け容れられている(というか、井沢以前にその説が既に唱えられていたものもあるのだろう、聖徳太子怨霊説とか)ものもあるらしいのは漠然と承知しているのだが、なんにしても、現代ではネット上で動画配信されるほどに身近になった天文ショーは、自分の脆弱な肉眼では捉えられなくても、ロマンチックなものであることにかわりはありません。

日食メガネ・・・売れ残ったものは、どうなるんだろうね。