『Giant Kiling』 スケールでっかい!

GIANT KILLING(1) (モーニング KC)

GIANT KILLING(1) (モーニング KC)

先週から購入開始。あまりの面白さに既に6巻まできた。こういうとき、さほどの躊躇もなくどんどん買える身の上(時分で稼いだお金を、相当程度、自分の好きに使えるという現状)に感謝する。

あの「スラムダンク」を初めて読んだときのドキドキ感を思い出すほどだ。って書いたら、どれぐらい面白いかリアルに想像がつくでしょう?

同じくスポーツものだけど、こっちはサッカー。“ETU”(East Tokyo United)という弱小サッカーチームが、Jリーグで奮闘していく。サッカーものとして「キャプテン翼」とも「シュート」とも違うのは、この漫画の主人公は監督だってこと。達海猛35歳。キング・カズや中山ゴンの例を出すまでもなく、ピークは過ぎたとしても、名サッカー選手としてはまだ現役でもおかしくない年頃の男。スラムダンクの作者・井上雄彦とまではいかないかもしれないが、ツジトモさんという人が描く画もかなりかっこいい。作画上も、ほかの選手と同じくらいか、あるいはそれ以上のイケメンとして描かれている達海青年が、チームを率いることになる経緯から物語は始まる。

かつてこのチームのエースだった達海は、10年前に海外に移籍したのだが、周りは彼を「チームを捨てた」男とみなしており、彼が抜けたあと弱体化するチームをキャプテンとして支えてきた“現・ミスターETU”こと村越をはじめ、達海の招聘はチーム内にもフロントにも、サポーターにも波紋を呼ぶ。そんなチームの内情も含めたあらゆる現状認識、人間観察力、そしてもちろんサッカー戦術やリーダーとしての資質に優れた達海は、ひょうひょうとチームを率いて強豪チームに挑んでいく。

Giant Killing」というタイトルは、「弱いチームが強い奴らをやっつける。こんな楽しいことがあるかよ」という達海のサッカー美学をあらわしており、彼の言動はすべてこの精神で貫かれていて、硬軟とりまぜてチームを動かしていく姿は文句なしにかっこいいのだ。

サッカー漫画なのだから当然、群像劇でもあるわけで、誇り高いキャプテン・村越を筆頭に、ノミの心臓だけど天才的な才能をもつサテライト上がりのMF椿や、イタリア人とのハーフで「王子」と呼ばれるジーノ、直情的なCB黒田、また敵チームも、日本代表の中でも輝く持田や、来日したばかりの愉快なメキシコ3選手、それでエースの座を追われそうな板垣など、選手は百花繚乱。6巻から始まった、ETU内でのFW3人のスタメン争いも熾烈を極めそう。

達海が主人公ならば当然、それぞれのチームの監督も個性豊かに描かれており、中でも3巻で登場した日本代表監督のブランはすごくチャーミングで読む者を魅了するのと同時に、今後、代表選抜についても作中で詳しく描かれることを予感させる。

ほかにも、GMや広報といったフロント陣、新旧のサポーター対決、ETUに賭ける女性のフリー記者など、私が読んだ6巻までで、既に作者の風呂敷は「どこまで?!」てぐらい広げられているのだが、画的にもストーリー的にも、まったく散漫なところがないので、「いったいどこまで奥深くバラエティに富んだ展開になるんだろう?」と、ただただ期待が募る。(現在、10巻まで刊行され、依然、モーニングで連載中らしい。)

中でも一番の謎として提示されているのは、3巻で代表のブラン監督相手に達海がポロッとこぼした、
「俺、フットボールの神様に、デカい貸しがあるからね」
という言葉で、ブランはそれに対し、
「それは、君がその若さで現役を退いていることと関係あるのかい?」
と返すのだが、ETUの目の前の試合に夢中になりつつも、達海自身の過去の謎がどこでどんなふうに明らかになるのか、心の片隅でそれを気にしながら読んでしまうことになるのだ。

安心して楽しく読めるのは、スポーツを通したこの複雑な人間ドラマが、あくまで「陽」の雰囲気で描かれていることで、その点、同じ青少年向けの大作でも、不安や重苦しさ、ミステリーというか、むしろホラー色すら絶えずつきまとう「20世紀少年」やなんかとは毛色がまったく異なる。一喜一憂しながらも短いペース配分でカタルシスが用意されており、また小さなコマや、連載1話1話をつなぐページにあらわれる粗いデッサンの1コマなども、ユニークに細かく描きこまれていて、そのあたりも「スラムダンク」を髣髴とさせる。どこまでいくのか、「Giant Killing」! ものすごく楽しみだよ!