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『真田丸』 第28話 「受難」

大河ドラマ

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私、「真田丸」見て初めて泣いたんじゃないかなっていう第28話です。なんといっても新納慎也さんの演技がすばらしかった。優しげで、繊細で、ちょっとおバカで、これほどまでに愛すべき秀次像、そして彼が滅びていくさまの哀切は、脚本もだけど新納さんの演技によるところもかなり大きいのでは。あと、寧さまの悲しみの表現もすごくよかった。新納さんがブログに鈴木京香とのオフショットをアップしてたんだけど、すっごく綺麗で若いのね。寧さんは演じてるんだなあと思う。若くて美しい茶々との対比もあるし。

サブタイトルは「受難」で、ここでキリスト教のモチーフが出てきたのにも驚かされました。謀反人=支配者への反逆者として処刑「されたことになった」秀次ですし、本質的な意味では支配者によって滅ぼされたともいえるでしょう。引っ立てられていく妻子たちは、殉教者たちの列のようにも見えました。

秀吉が秀次を滅ぼしたのではなく、秀次が自ら出奔し死に至ったのを制度の中で正当化するための切腹申しつけ→妻子の処刑 というのは、初めて見た者にとっては大変斬新だけど、妙な説得力を感じました。実際、秀吉の年齢と拾の年齢を考えれば、豊臣政権にとって秀次の存在は大きく、彼がいなくなって得をするのは、豊臣政権よりもその終焉を願う有象無象の衆としか思えません。

いや、ドラマでは徳川や真田が「待っている」姿を描くいっぽうで、秀次の縁戚関係をまったく描かず(妻が30人もいればすごい数の縁戚がいて、そこには数多くの政治的関係があるはずよね)に済ませたから、このような感覚になるんでしょうけど、そういう「導き方」がつくづくうまいドラマであります。

本当はちょっとね、もうちょっと政権構造とか社会システムとかに触れた展開を望んでいるんだけど、まあ大河ドラマって昔から、朝ドラに負けず劣らずホームドラマですもんね・・・

 

しかし秀吉と秀次の心がとことんすれ違ったあげく、ポジション的に弱い秀次が心を病んでついに自死するという流れはあまりにも胸にくるものがありました。


拾を支援するために必要と思っている茶々。一度は「ありのままの貴方で」と秀次自身を肯定する言葉をかけたが、「秀次には荷が重いのだろう」と慮った寧。優しい兄を慕っていた秀保、秀俊らの弟たち。今でも孫七郎と呼んで彼の気の優しさを理解し好もしく思っていた福島正則(ほんのちょっとの彼の出番が、今回すごく大きかった)。自分なりに力を尽くした信繁。そして「かわいい甥っ子」の言葉には真情もあっただろう秀吉。

秀次の周りには現時点で彼を滅ぼしたい者は誰もいなかった、むしろみんなが彼を大事に思っていた。それでも、彼を誰も救えなかったっていうのがね・・・。

信繁はしきりに当事者同士を会わせて忌憚なく話させようとしてたけど、それが叶ったとして事態は変わっただろうか? 信繁と信幸がそれでうまくいったのは真田だからだろう。秀次は既に「もう二度と秀吉に会いたくない」レベルまでいってた。どうしてそこまでいっちゃったかというと、2人共が政権の中枢にいるから。彼らが権力という衣を着ているからだ。今さら対面して秀吉が何を言っても心には響かなかっただろうし、秀吉は秀次の心を動かせることを言える人間ではないだろう。

ただ、「1ヶ月の謹慎」 1ヶ月では短いだろうけども、そうやって職位と権力から離れて療養することで多少なりとも良い方向に向かったかもしれないとは思う。そう考えるとやっぱり、間に合わなかったのが悔やまれるし、でもそりゃ間に合わないよな秀次にとっては、とも思う。

「秀次、なぜ死んだ」という怒りにまかせて妻子を殺し、そののち泣いている秀吉という人間のメンタルが、こうして回を積み重ねてきているので大変説得力があった。あと、「重版出来」でも思ったけど、小日向さん、加齢による猫背(というか腰が曲がる)の演技が超うまいよね。

今回、非常に印象的だったのは秀次と信幸が語り合う場面で、ああこのために、先週のお兄ちゃんブチギレもあったんだなと。豊臣と真田の対比の構図は先週時点で見えていたけど、個人的にはやっぱりちょっと作為的だったかなーと思っている。

ただ、そんな作為をどうしてもやらなきゃいけなかったのは、もちろん、それが今後につながるからなんだろう。どうつながるんだろうと考えているけどまだよくわかんない。

先週あれほどブチ切れてたお兄ちゃんは、今週やはり自分から信繁に謝った。信繁にしたら、「さすが兄上、時間をおいたら本当に冷静になられた」って感じなんだろうけど、視聴者は秀次との会話を見ているわけで。

信幸は秀次に救われたのかもしれない。秀次に向かって「自分も同じように大変なんだ」と言いながら、やはり秀次の圧倒的な荷の重さを感じただろうし、それでも自分に対してはどこまでも穏やかで優しい秀次に打たれただろうし、自分は信繁には振り回されておらずただ嫉妬していただけなんだと気づいただろう。秀次のことを誰も救えなかった、でも秀次は死ぬ前に似た苦しみにある信幸を救った。

キリストの受難には「身代わり」という意味合いもあると思うんだけど、秀次の死に身代わり要素があるなら信幸かな、いや信幸は死ぬほど苦しんでいたってわけじゃないけど、今週になっても思いつめて官位返上を申し出たりはしてたわけでね。

で、信幸は秀次を救えなかった。信幸にとって「救いたいのに救えなかった」「間に合わなかった」っていうのは、今後また、大きなやつが控えてるんだよね。今回を踏まえた描写になるのか、注目であります。

信幸の「つらいのはあなた(秀次)だけじゃない」は、先週のおこうのセリフのリフレインでもある。やっぱり夫婦なんですねー。おこうさんもつらいんだ。つらいけど覚悟を決めていてかっこいいんだ。それに比べれば稲ちゃんは子どもだけど、実際まだまだ若いんだし(だよね?w)やっぱり私には稲が気の毒にも見えるなー。いまだに、嫁いできたときの寒がりな子どもなんだよね。歩み寄っても心を開かない嫁に信幸が苦慮するのもわかるけど、それで「病弱かどうか今ひとつわかんない前の嫁」を抱きに行ったのは信幸だからなー。

豊臣と真田の対比で言えば、「どうしてもやる気がおきないから、表向きは俺がやってることにしておまえやってな」と意に染まない仕事からいともやすやすと逃げ出す昌幸な、このテケトーさが必要なんですな、でも引き受けてくれる息子がいるからできることだけどさ。あと吉野太夫に脂下がってるの薫様に隠してるけどな。薫さまの出自がここで俎上にあがってくるとは楽しみ。昌幸は知ってんのかな? 家庭内で嘘がある、ってのは今後に響きそうではあるよね。

なるほど、ここで呂宋助左衛門なのか、おたかはこうなるのか、と。鬱陶しいきりちゃんは秀次にとっては聖母のような存在だったのだね。で、信繁ときりちゃんって結局最後の最後までめおと関係にはならないような気もしてきた昨今です。