『真田丸』 第15話 「秀吉」
怖い、秀吉怖い! カラフルでゴージャスな大坂城も怖い。そしてなんか哀しい。
先週、「大都会・大坂に来たら、信濃・関東方面が何だか田舎くさく思えた」って書いたけど、大坂が刺激的で怖いもんだから、今週はもう信濃が懐かしくて癒されて(泣)。
いやでも、信濃・・・というか真田だって、小さく不穏です。
息子の「膝の上の愚痴」には素知らぬ顔で応じておいて、夫ににこやかに彼の苦悩を伝える薫。息子らの人間観察も見事だし良き母上だなあ。そして「乱世が終わった時にこそ役立つ男」と、こちらも正確に見抜きながら「その時には俺の存在意義は…」とでも考えていそうな難しい顔の昌幸が印象的 #真田丸
先週、信幸本人に対しては「興味ゼロ」みたいな態度だったのに、今週、まさかの「柔らかい力」(笑)で夫にフォローを入れる薫さまw や、この人の場合、ご機嫌麗しいときだからこうできるのであって、ひとたぶ人質話とか来ようもんなら、またたちまち不機嫌に、自分第一に振る舞うんだと思うw そこがいいの。夫にも子どもたちにも愛情深くて、見るとこ見てて、橋渡しもできるけど、まずは自分っていうw 薫さまのそこが大好き!(力説)
いっぽうで、昌幸パパンの煮え切らないことですよね。
昌幸がどうも信幸に冷たく、苦手意識すらありなのは、全く別タイプの人間ゆえ相性が悪いのかと思ってたけど、「信幸は乱世が終わってから役立つ男」と見抜いてるからでもあるんだな。窮地に立つほど生き生きとし、乱世でこそ力を発揮する自分と、並び立つ存在では決してないと知っている #真田丸
「早くそんな世(乱世の終焉)が来るといいですね」という薫の素直な言葉に、なぜか苦虫を噛み潰したような顔の昌幸。昌幸とて平穏な世を望まないはずはない。でも信幸が荒れ地を耕して能力をいかんなく発揮する頃には、己の活躍する場はもうなくないと本能的にわかってるんだろうな… #真田丸
確かに秀吉に対する判断材料は、東の国衆レベルにはないでしょう。でも明らかに、物語は昌幸の「停滞」そして「後退」を描いているように見える。今回もまた「先送り」というネガティブな響きのある言葉を昌幸に言わせた。そして「臣従した途端に死なれちゃった、信長の時のようになりたくない」と言う。彼はかつて信繁に「俺もおまえも勘で動く。でも俺の勘は数々の経験に基づいてるから、おまえのより上」って言ったんだけど、今の昌幸の姿は「経験が勘(決断)の邪魔をする」という、経験値を積んだがゆえの弱みを表してるんだよね。
で、世にも暗い顔で廊下を歩いていくお兄ちゃんは、自分の考えは相変わらず容れられず、弟が頼りにされていること、父の気持ちがわからず、自分の気持ちも父にわかってもらえないことで落ち込んでいる。作兵衛とすえ、出浦と佐助。庭で繰り広げられる、無邪気に睦まじい血縁関係、あるいは師弟関係(んもう2組とも!この場面シュールすぎて超面白かったんですけど!)、そのどちらも自分にはないと信幸は思っている。
信幸は基本的に父が好きだから、父とのディスコミュニケーション感がつらいんだよね、ってのは3話あたりから一貫して描かれてると思う。今回、“好き”的なことを明言したわけじゃないけど、昌幸@薫の膝(という超プライベートプレイス) が信幸の強みを理解し高くかっていることがわかったのは収穫だった。それでも父と子のディスコミュニケーションは続くんだよねーきっと。うう、切ないぜ。
さて、大坂のほうでは(ガクブル)・・・
あの山本耕史を呼んできて演じさせる石田三成。と同様に、あの小日向文世を呼んできて演じさせる秀吉、by 三谷さん ってことなんですよね! 魅力的で、怖くて、目が離せない。
大河ドラマで…そして民放の大型時代劇(年末年始にやるような)的なものでもいろんな秀吉を見てきたけど、立身出世しきってから「主人公サイドにとって謎の男」として登場する秀吉って新鮮ですよね。天地人でも多少そうだったんだけど、あれは別視点として笹野さんの藤吉郎時代もあったしね。
秀吉って、信長の草履とりから、一夜城とか何とかで盛り上がって、中国大返しでピークを迎えるまでが秀吉の魅力&能力爆発、痛快ストーリーになりがちなんだよね。そして関白になり念願の息子を得てからだんだん(或いは急激に)豹変したようにダークサイドに堕ちてゆく。
そんな描き方に飽き飽きしてた。特に、晩年を「老醜の極み」に描くこと。確かに、朝鮮出兵なんかは歴史的評価としても人道的見地からいっても愚行でしかないにしても、前半生はあれほど人たらしで魅力的に描いておいて、「晩節はいくら汚して描いてもかまわない、それが秀吉」みたいなのイヤだったんだよね。痴呆的だったり漏らしたりする描写まで入れた大河もあったよね。人は老いれば、心身衰えて自分でコントロールできなくたっておかしくない。それをさ…。
なので、「今も十分魅力的で、有能で、そして今すでに超ひどくて怖い秀吉」っていうのがすごくいいな、面白いなと思った。
「そうだよ」とか「めくってね、」とか、秀吉の軽くてフランクな口調がたまらない。
石松の酒升からいわゆる「太閤検地」を思いつくのは他愛ない描写といえばそうだけど、あれはその後の会合を描くのが主眼だったんだと思う。
一見うまくいってるように見えるけど、実は何だかヤバそうな豊臣家の政権運営。ボスは独創的な視点から政策を思いつき、「いかにも揉めそう、大ごとだ」なことでも断固遂行する意志の強さを持ってる。でも実務は有能な部下に丸投げで、彼は有能ゆえに、もめ事を一気に引き受けて嫌われ役にならざるを得ない。秀次には政治センスのかけらもない。というか頭が悪そう。秀吉は彼を育てようという気は毛頭ない。なのに、その秀次にいずれ関白を譲ってしまう。
そして、大事な政策を話し合う会合に出席する人間の数の少ないこと! 有能なのは三成や大谷刑部なのに、ファミリーとして遇されるのは秀次や清正や石松=福島正則なのだ。だから清正や正則にはファミリーの一員=特別意識があって、それがすごく大事。ねね・・・じゃなくて寧は、ファミリーの優しくてあったかいお母さん。政治力とか発揮しなさそうな雰囲気だったけど、どうかな?
信繁が頭が良くて機転が利くのをすぐに見抜いて気に入る秀吉。でも真田のことなんて徳川との政治闘争のダシにしか思ってない。腐っても(?)東の大大名である上杉が従うかどうかは一大事だから、会見でも常にうわ手をとり機先を制し、利休まで呼び出して念を入れる。為政者として軽重がわかってるよね。茶を喫する景勝を見る氷のような眼差し。そして景勝が飲むや茶席を切り上げ(信繁ドンマイw)、利休が「まず間違いなく」と上杉臣従を保証すると、なんと嬉しそうな顔をすることか。
茶といえば、秀吉は上杉が臣従するかどうか、まずは三成に尋ねるんだよね。三成は「油断できない」と答える。それを聞いてなお、秀吉は利休を呼ぶ。三成はちょこっとだけ表情動かして、ちょっと「俺の回答だけじゃ満足してくれないってことッスね」的な顔に見えたよね。で、利休は「臣従する」と、三成とは異なる答えを出す。それを留保なしに信用する秀吉。こういうのも、逆算して書いてるんだろうけど、今後どのように描かれていくかすごく楽しみですね。
そして茶席。荒々しく血生臭い戦国乱世の大名たちに、なぜ茶という世界が好まれ、政治的に重宝されたのか、すっと入ってくるような脚本演出だったなと思う。戦略とか調略、もちろん武力(すなわち国力、経済力)も大事だけれど、人物鑑定がものすごく大事なんだよね。そしてそれをできる人材は限られていたし、それをできる舞台として茶室はものすごく重要だったんだね。
「どこかで踏ん切りをつけて、人生でいちばん苦い茶を飲みほした景勝」という描写、よかった。会見でもわかるように、秀吉と景勝では、もう決着はついてしまってる。武力というのもあるし、それこそ人物的にも、秀吉のほうが大名として大器なんだ。そのことに対して、景勝は先週に続いてさんざん抵抗する。源次郎ワンコがかわいいから。強きをくじき弱気を助ける義の生き方を貫きたいから。でも、厳しい現実を飲み干さざるを得ない。
脇で直江がその厳しい現実を始めからわかってて、結局は飲み干すしかない景勝のつらさもわかっていて支えているのがほんといい! 秀吉との会見後、「無理難題をつきつけられませんでしたか」と問う信繁に景勝が口ごもると、「なかなか良き話であった」と直江が答えるんだよね。真田を見捨てろという秀吉の指令は、景勝@義の人 にとっては無理難題そのものなんだよ。でも「言うこと聞けば越後は安堵」というのは、上杉家を守る立場の人間にとっては、“なかなか良き話”。自分だって信繁をかわいい奴と思っている(よね?!明らかに!)直江は、それでも上杉家優先の立場を景勝に言い聞かせるように鮮明にする。そこからの、「真田のことを話すのすっかり忘れちゃってた、てへぺろ」な大嘘ですよ。んもう直江!! あんた、好き!!
見たいと言えば、「天地人」で兼続が秀吉にスカウトされて断る場面(たとえ十万億土に旅立とうと主のそばは離れない!とか言ってた妻夫木兼続)、#真田丸 の直江バージョンで見たいよね! ぴくりとも表情を動かさず、何の躊躇もなく、この上なくシンプルに慇懃無礼に断る村上兼続ください
@emitemit #真田丸 の兼続が超慇懃無礼に秀吉スカウトを断るシーン、絵師さま、どなたか描いてくださいませんかー!
直江と三成のシーンも絶対書いてくださいね、三谷さん・・・!
・・・という三成には刑部とのシーンが! んもう、三成ったら誰と絡んでも魅力的!
三成が複雑な人物造形だから、大谷刑部はその解説役でもあるのだな。退出したあとの三成と清正のシーン、見たかったよねーっ。#真田丸
三成のこと超理解してて三成に代わって真田の小倅に謝ってくれるし、秀吉の人物も正確に把握してるし、三成が認める優秀さだし、とにかく刑部さんめっちゃいい人! 何のポストを辞退してるのか巻き戻してもわかんなくて、見終わってしばーらくしてから「堺代官」だったのかな?って合点がいった(違うかも)。
三成と茶々のシーンももちろんあるよね、楽しみ! 茶々かわいい。おそれを知らないべっぴんさん、茶々。秀吉の「上つ方好み」を吉野太夫で表すのも面白かった。吉野太夫が、シナを作って権力者に甘えるような造型じゃなくて、低めで豊かな声で「お戯れを」ってあっさり拒むのよね。そんな女が秀吉は大好きなんだろうなーってのも描いてる。茶々をどうやって手に入れるのか。
人たらしで女好きな顔、有能な人材を使いこなし政治感覚に優れ、ズバリな政策を思いつき遂行する切れる為政者の顔、人心に敏く酷薄さを醸し出す独裁者の顔、いろいろ見せた上で、のちの歴史にも触れながらだから、団らんは哀しくて不穏に映る。他愛ないようですごい含みのあるラストシーン #真田丸
秀次もすごく新鮮で。昔は絵に描いたような愚人しかも暴君みたいな描き方が多くて、比較的最近の『江』では「いや実は優秀だったんじゃない? 領民はよく治めてたようだし武功もあるよ」って学説にしたがった造型だったと思います。今作の秀次は、めっちゃいい子! 顔もきれいだし優しそうだし叔母上を慕う思いやりがある。頭は全然良くないし時間も守れない困ったちゃんだけど、豊臣家に巻き込まれなければじゅうぶん幸せになれた人物じゃない?って思わせる。うう、つらい。そしてきりちゃんを見初めた!!
きりちゃんの美貌を見初める秀次。彼の末路を知ってれば「やめてーっ、それだけはーっ!」て思っちゃう描写で、うまい。や、史実的にそんなこと(秀次の側女、的な)にはならないのもわかってるけど、そうならないために面白い創作エピがくるのかな、とか。信繁が止めるのかな、とか! #真田丸
最後の、「幸せで怖い豊臣拡大ファミリーの団らん」の中に、信繁のみならず、きりちゃんまで居たってのが震撼です。今回のきりちゃんは、きりちゃんなのに、和みキャラだったのだ! 「よかった、いつもの源次郎さまに戻った」「お茶なんて、ごまかしてススッと飲んじゃえばいいじゃない」「習うより慣れろ。がんばって!」とか。なのに、初手から魑魅魍魎の大坂城に取り込まれてるじゃないですかーっ!
この、かわいくて天真爛漫で、やや軽率そうな茶々さまと、この秀吉なら・・・大河ではなかなかお目にかかれない、「秀吉の実子でない秀頼」をやりそうな気がしてガクブルしてる #真田丸