『戦国大名』 黒田基樹 (感想4)

戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)

戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)

税や、流通。驚くほど精緻なシステムがあり、運用されていることがわかる。戦国大名は戦に負けて滅びれば終わりなのだから、「戦争に勝つ」という命題をもっているのであり、どのような社会システムもそのために強化された面が大きいのだろう。冒頭に戻れば、戦争は、「食うために」発生するものでもある。戦争も、領国経営も、「生き残るため」という点では等しく大事なものだった。税制や行政の細分化や発展も、大規模な飢饉がきっかけであることが多いという。

「戦争をする権力体」である戦国大名が、対外戦争との表裏の事態として、領国内における紛争停止のシステムや税制・行政・流通政策を発展させ、効率的で自律的な経営をすすめて、領国を「平和領域」にしていったのである。

しかし、そのようなシステムも、ひとたび戦争になればすべて無意味に帰すことになる。敵対する領域の境目では、朝晩を問わず、掠奪が繰り広げられ、村の存立自体が危うくなる。領域の境目の多くでそのような状態になっていたら、戦国大名や国衆も、すべてを防衛することは事実上不可能である。

こうした状況から、連合して一定地域の平和を実現する仕組みも作られていた。「半手」といわれる。敵対する境目の双方の国衆らに対して、年貢等を半分ずつ負担することと引き換えに、双方から掠奪行為の禁止を保証してもらうのだ。

「半手」は村々の要求が根拠になるが、敵対する両者が承知しなければ成立しない。また、ひとつの村で成立するのではなく、一定地域のまとまった村村によって成立した。そのような中立地帯を作ることは、村々側だけでなく、戦国大名にも重要な意味があった。そこでは双方からの出入りが維持されるため、塩をはじめとして、他の村々の存立に大きく影響する物資も移出入することができた。よって、「半手」は、流通上の要地に成立することが多かった。当該の村々だけでなく、周辺地域、ひいては戦国大名の意思を反映して、「半手」は成立し、その在地の住人が、敵対する勢力同士の和睦を仲介することもあった。

戦国大名は、村を基盤にした社会を実務レベルで掌握・統治し、けれど村々は決して支配されるだけでなく、場合によっては大名の存立をゆるがしかねない存在でもあった。戦国時代の社会が一気に有機的に感じられる良書であるー!(おわり。)