『純と愛』 第6週「らぶすとーりー」まで

物語は疾走を続けています。この3週で、純と愛はおつきあいの「おためし期間」を始め、終了して本当のおつき合いに入り、いったん破たんして、紆余曲折の末、結婚を決めました。早っ! けれど拙速な印象はありません。毎日まいにちが濃密で、じゅうぶんに笑い、イライラし、どん引きし、おののいた上での「結婚しよう」だったんです。

まず4週目にクソ生意気なガキの本性を見抜いた愛がガキを殴りつけたあげくにさんざっぱら罵り倒すという事件がおきます。ほんとにクソ生意気なガキだったんで、見てるこっちはすっと溜飲が下がる思いでしたが、これはキモかわいい系王子としてのキャラを確立させつつあった愛の新たな一面を炙り出す序幕でもありました。

そんな流れで愛の両親が登場。若村麻由美の美しくおそろしいラスボスっぷりに震えつつ歓喜したゲスな視聴者は、わたくしばかりではございますまい。なんせ初手から純を「ゴキブリ」呼ばわりです。希望の灯(あかり)、おひさま、せいぜい梅の木あたりにたとえられてきた朝ドラのヒロインを「里芋」と呼んだ『カーネーション』には快哉を叫んだもんですが、ゴキブリって。突き抜けすぎてる。「鬼」とか「悪魔」とかすら凌駕するインパクト。これ以上(ていうかこれ以下)は無いってところを容赦なく突いてくる抜け目ない脚本には感嘆するしかありません。

この週を通じて流れていたベースラインには「ふたりは初チューを無事にかわすのか否か」問題があり、月曜の朝から瞳を閉じて顎をつきだし唇をすぼめるというゲスポーズをさせられるヒロイン純でしたが、いざとなるとやっぱり姫キャラなのは愛のほう。純は王子さまよろしく、、恥ずかしげに打ち震える愛をいとおしそうに見つめつつそっとその前髪をかきあげ、顎をつと上向かせると自分も完ぺきな角度に顔を傾けて、見事その唇を奪ったのでありました。

第5週は、「愛、大爆発するのこと」。客のふりしてクレームを書き純を陥れようとする千香を殴りつけ、次々に仕事をクビになると自棄になって麻雀でズル勝ちしまくり、精神病院に行けば医者の恥部を見抜いて容赦なく告発し、あげく仕事にも恋にも悩み疲れている純を悪魔の顔で糾弾すると出て行ってしまいました。どんなにキモくても、このドラマ唯一の癒しキャラとして君臨していた愛でしたが、ここへきて真打ちの大クズっぷりを披露。土曜日は最悪の幕切れにポカーンでした。

ここで描かれたのは「恋の共依存問題」だったと思ってます。純にとって愛は、職場でも家庭でも浮きまくり、空回りしまくりの自分を全肯定してくれる存在。愛にとって純は、「こうであってほしくない」自分を否定し、自分を信じてくれる存在。ふたりともがお互いに、自分のために、相手を必要としてたわけですね。

恋愛にせよ家族にせよ、濃い人間関係に共依存問題はつきものです。また現実に王子さまなんているはずはなく、「この世に存在するのは不完全な男と不完全な女だけ」なのです(by 城田優@水野さんが文豪トルストイの言を引くのこと)。胸をときめかせながら付き合い始めた相手の弱さ拙さが見えてくる過程は、多くの人が経験するところでしょう。このドラマらしくいちいち大仰ではあるものの、身につまされるリアルさのある、必要悪の週でした。

そして第6週、離れ離れになったふたりは再び距離を縮めてゆきます。雨降って地固まる、の週ですね。そこでは純兄の速水もこみちがキャバ嬢の高橋メアリージュンとゴールイン…したのはいいんですが、それを「おまえのおかげだよ」と純を持ち上げといて「これからも応援してくれるよな。じゃ、あとはよろしく」と変わらぬクズっぷりで新妻と逃げ出して行ったのには大笑いでした。珍しく感謝されても何ひとついい目を見ないニューヒロイン、純なのです。それにしても、もこみちとメアリージュンはお似合いでしたね。ほんとに結婚しちゃって南の島で暮らせばいいよ!と思いました。

純家といえば、愛の本性鑑定によると「もっと俺を見ろ、俺を愛せ」と叫んでいる純父・武田鉄矢や、「赤ちゃんみたいに母の愛を欲している」純弟と、特に驚くこともない男性陣に比して、「マジか!」と視聴者をおののかせたのは母です。「夫と一緒にいるのはもう疲れた、結婚は失敗だったかもしれない」という本音は、鉄矢はともかく視聴者には見えていたわけですが、「野獣のようにギラギラした目をして今にも飛びかからんばかり」との描写にはチビりました。また、それを言いあてられたときの森下愛子の顔…! 失礼ながら彼女、こんな顔ができる女優さんでしたっけ?! クドカンドラマなんかでほんわか天然ちゃんを演じてる姿ばかり見てきたもんですから…。

「おまえなんか生まれてこないほうがよかった」と言われた純。「あなたは息子でもなんでもありません」と言われた愛。ふたりは結婚を決めます。宮古島の青い海を前に、白い砂浜でJとIの形をした白い珊瑚を並べ…その絵の爽やかさと裏腹に、「私たち、もう家族はいない。だからふたりで家族になろう」とは、あまりに寂しいセリフで、けれど今後の苦難を覚悟しつつも幸福な笑顔を浮かべるふたりに、危うく感動しそうになりました。

多くの歴代の朝ドラのヒロインたちが苦もなく手にしていた、あたたかな家族の愛情とは無縁のところで育ってきたふたり(愛もヒロインですからw)。彼らが「まとも」でないのはあたりまえです。そんなふたりが、強くなりたい、幸せになりたい、愛し愛されたいと願うのを、誰が愚かで間違っていると言えるでしょうか? ウザい、キモいと言って離れてゆく視聴者が多いいっぽうで、このふたりのウザくてキモい懸命さ、切実さに惹かれ、応援してしまっている視聴者もまた少なくないのではないかと思います。

また、家族の問題の描き方。夫婦の不和や、親の過保護、過干渉、ネグレクトなど、多分に「遊川ドラマ的」オーバーさであっても、「表向きうまくいっているようで実は機能していないどころかすべての問題の根幹である」という提示にはドキリとさせられます。「もう、純も愛も親を捨ててしまえばいいと思う」という感想を述べている人がいて、実際、この週の最後、ふたりはそんな決断をしました。けれど、そう簡単に断ちきることができないのが家族の絆です。この「絆」って全然きれいな意味ではなくて、いっそ捨てたほうがマシだとすら思えるのにかなわず繋がっている家族は、現実にゴマンとある。純と愛も互いの親きょうだいから逃れることはきっとできないでしょう。両親には業の深さを表現するに不足のない役者がそろっていますから、今後も興味深いですね。

さて、そんなシビアな問題を抱えながらも基本的には重くならないのでありがたいです。クズの代表かと思われた城田優@水野は最近になって、実はいちばんいい奴(あくまでこのドラマ内の相対的な評価ですw)に見えてきました。バッティング、エアホッケー、英会話、何をやっても愛に負ける水野。「単にHなことがしたいだけ」という本性を愛に見抜かれ、憮然としたのもつかのま、「だめかな。好きな人とひとつになりたいって思うのは」と開き直る水野。酔っぱらって「ひなまつり」の歌を10回もカラオケで歌う純を優しく見守る水野。水野かわいいよ水野。

もちろん愛も負けてません。トイレでゆうべのキスの気持ちよさを反芻する愛。不思議SPECでメアリージュンの居場所を見抜いたのかと思いきや、単に純実家のホテルに泊まってストーカーの本領発揮してただけの愛。純両親の前でテンパって、聞かれもしない歴代総理大臣の名前を呼びあげたり、妙にカクカクしてるけどクオリティの高いダンスを見せる愛。愛、ウケるよ愛! 

あとは館ひろしの謎だね。単なる女たらしじゃなくて二刀流?!と腐女子を瞠目させたあと、次におばあちゃんが出てくるっていう脚本の小憎らしい手練手管よ! あの部屋で行われているのがラブアフェアーじゃないことはもはや確定したようなもんですが、なんでしょうね。占いでもしてやってる、て感じかな。あの社長、純の顔色読むのも妙にうまいし。