豊崎由美の仁義

豊崎由美フリーライター。星の数ほどある世の中のありとあらゆる本を読む書評家・・・というだけのイメージの人ではない。大森望とやってる『文学賞メッタ斬り!』では、候補者・候補作にとどまらず渡辺淳一石原慎太郎ら審査員の“御大”たちも斬りまくり、自らの著作では、素人の本好きたちが読者層であろうに、「素人のネット書評は不快」とばかりの意見を書きまくる。

私なんかもネットでしこしこ本の感想を書いてる素人のはしくれなんで、面白がるどころかむしろ引いちゃうときもある。牙の剥き方が尋常じゃないもん。お酒も競馬も大好きみたいだし、最近は、現代の無頼派なんだな〜すごいな〜と遠巻きに見てたんだけど。

11/18のTwitterの連続投稿を読んで、またちょっと認識をあらためた。フリーの立場で仕事をしている人が仕事の場で吠えるって、簡単なことであるはずないのだ。

今日の朝日新聞夕刊に岡田将生くんのインタビューが載ってるんだけど、その写真がっっっ。あまりの愛らしさに悶絶。切り抜いてしまいますた。

同じ朝日の夕刊の「大卒の内定率2番目の低さ」に苦しくなった。昨年80社受けて内定が得られず、留年を選んで再度就職活動をしている男子学生の「僕には何かが足りない。160社も受けて、何をしているのかと自分を責め続けています」という言葉。

ずいぶん前、ニュース番組で就職のための民間セミナーに通っている男子学生が、「もっと笑顔を!」「もっと笑顔を!」と要求され続け、自宅で鏡に向かって必死で笑顔の練習をしている映像を見た時も苦しくなった。なんかもう見ていられなかった。

就職活動で、そうやって心をすり減らしている若い人たちが、今の日本には大勢いるんだと思うと、苦しくなる。なぜなら、わたしはそういう日本を作った先行世代の一人だからだ。しかも、そのくせ何もできていない。動いていない。ただ、「心を壊さないでください」と祈っているだけ。

だから、せめて、自分が身を置いているライターの世界だけは、何とかしたいといつも思っている。先日、BSブックレビューの本を作るから堀江敏幸さんといしいしんじさんと合評した回の再録を許可してほしいと言われて断った。なぜなら、謝礼がなかったからだ。

わたしはメールで編集者に訊ねた。「じゃあ、この本の印税は全部御社のものになるのですか。おかしくないですか?」。その件に関する回答はなく、「じゃあ今回はけっこうです」との返事。もちろん、この手の謝礼に万の単位を求めていない。3千円もあれば御の字だと思う。

「3千円なら、ただで掲載許可出してあげればいいじゃん」と思う人もいるでしょう。でも、わたしの考えは違います。ベテランはなるべくただの依頼を受けてはいけないんです。なぜか。わたしより年下のライターが「トヨザキさんも無料で引き受けてくれました」と言われてしまうから。

原稿料も同じだと、わたしは思っています。わたしクラスのベテランがなしくずしに最低ラインを割る仕事を受けてしまったら、若い人たちはもっと安い原稿料に設定されてしまう。異論反論あるでしょうが、それが、わたしの同業の若い人への最低限の仁義のきりかたです。

・・・それにしても、堀江敏幸いしいしんじ豊崎由美でのブックレビューって、そら垂涎モノだわ。編集者、とっとと金を積んで再録しろー!