『時をかけるゆとり』 朝井リョウ
- 作者: 朝井リョウ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/12/04
- メディア: 文庫
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映像で喋っている彼の印象は、「イマドキの若者らしい若者」。「空気を読んで」「すべらない話をできる人がイケてる」世代って感じ。否定的な意味でとらえないでくださいね、彼はホントに話がうまくて、面白くて、語彙といいテンポといい、「自分の喋りスタイル」が完全にできあがってて、私はますます彼に興味を持ち、ついには著書を購入するに至ったのだから! ・・・小説じゃなくてエッセイだけどな。
このエッセイ集によってテレビでの印象が覆されるようなことはなく、むしろ強化されました。彼はリア充! 旺盛な好奇心、何にでも飛び込める思いきりの良さ、フットワークの軽さ。だからもちろん仲間も多い。書いてないけど絶対彼女もいる(いた)ね! 彼はほんとのリア充臭があるんだよな。女遊び(男遊び)をしてましたとか、夜のバイトをしてましたとか、そういう方向じゃないの。学生生活を普通に健全に楽しんでた感なんだよ。
いやー、リア充が人気作家になっちゃう時代なんですな。しかも、桐島だって何者だって、たぶん軽々しい作風じゃなくて、文学といえる小説だと思うんだよね(ですよね?未読ですが)。
もちろん彼には、物書きになる人間特有の自意識の強さや人間の「業」みたいなのも感じるんだけど、でもリア充の衣を軽やかにまとっているわけですよ! そりゃ、司馬遼太郎や藤沢周平をはじめ、作家になる前に仕事をしてた人は数多い。村上春樹だってそうですね。でも、学生時代に作家になって(しかも直木賞まで獲って!)、それで普通に就職活動して一般企業に就職しちゃうんだもんなあ。確か三浦しをんだって、就職活動したけど正社員としての就職はしてないよね。人気作家になる前だったけど。そんな朝井を称して東出昌大は「強欲だよね」と言った。なにげに至言だな!!
で、「リア充なんかに用はねーわ!」って一刀両断したいとこなんだけど、このエッセイめっちゃ面白くて壊れたみたいに笑い続けてました。電車の中で読んじゃいけない類の本です。ここまで笑えるのって三浦しをん並み! しっかし、とことんなヲタク気質で爆笑を誘うしをんさんに比べ、朝井はリア充だからな。リア充ライフでこんなに笑わされるって・・・戦慄だわ。
徹底的なリア充エッセイ、イマドキの若者エッセイなんだけど(リア充って何回書くねん)、文章がしっかりしてるからすごく好感。ブログみたいじゃないしもちろんツイッターみたいでもない文章。ちゃんとした「作家の文章」で笑わされるのはすがすがしい。
「基本的に自分をサゲて書く」というのは作家のエッセイとして普通のスタイルで*1彼もそれを踏襲している。で、直木賞受賞に寄せて書いたエッセイをわざわざ「これまででもっともスカして書いた文章」と冠したうえで収録し、随所に註をつけて徹底的に自分でツッコミまくってるんだけど(ここまでするのがイマドキの若者だなーって感じがする)、私はこのスカしたエッセイ、すごくいいなと思った。若くて、まっすぐで、熱くて、誠実で、羞恥心があって、でもちゃんと技術もあって、すごい前途を感じる。
で、その直後に、『直木賞で浮かれていたら尻が爆発する』っていう痔エッセイ。んもう、おなか痛い(笑)。小説も読んでみたくなりました。
なんか、徹底的にオバサンの感想だなー。同世代の人たちにとって彼がどういう存在なのか知りたい。
*1:基本的に作家なんて自意識過剰なんだから、羞恥心がなければイタいだけなのだ。自意識を客観性と羞恥心でくるめるからこそ、多くの読者を獲得できる。あるいはいっそ、狂気とか変態とか、エキセントリックなほうに走りきる場合もあるけど