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『夢の守り人』 上橋菜穂子

夢の守り人 (新潮文庫)

夢の守り人 (新潮文庫)

花番、花守、夢、夢の中の花、夢へと誘う歌、歌い手…。

「守り人」シリーズ、今回の<異世界>は、いつにもましてロジックがけっこう難しく、「え?」「えーっと、なんだったっけ」とページを繰り直すこともしばしば。当初、メインターゲットになっていたであろう10代前半の子どもたちに与えるには結構難しいロジックなんじゃないかと思うんだが、たぶん、そこらへんは「なんとなく」の理解でも、じゅうぶん楽しめるし、深いものを植えつけられるんだよね。

大呪術師トロガイの過去は、「貧しい村で、親に言われるがままに嫁ぎ、愛情ももてない男との間に、15才から次々と子どもを産んでは次々に亡くした娘」という衝撃的なものだった。そして今また、トロガイの弟子・タンダの姪が、初めてほのかな恋心を抱いたがゆえに、親の取り決めでもうじき18も年上の男に嫁ぐ自分の人生を嘆いている。

現代日本で14,5才で結婚とか出産とかを具体的に考えることはないだろうが、将来について現実的に考え始めたり、「可能性は有限である」ことに気づき始めるのは、やはりそれぐらいの年齢かもしれない。

鬱屈した思い、漠然とした不安、あまりにも大きな悲しみ…そういったものに囚われた人は、「いっそ安らかな夢の中で眠りつづけていたい」と思う。けれど、そんな人々も、やがては前を向く。呪術の力を借りて…とはいえ、どんな人々の奥底にも「生きたい」という強い思いが眠っている、という描き方に本当にじんときた。甘い夢の中で眠っていた人々も、額から天高く伸びる金色の糸をたどり、鳥に変化し翼をはためかせて現実へ戻ってくる。

否応なく社会から弾き出されたバルサや、自分の道のために「村」を出たタンダを中心に据えて、時にその孤独や、孤独な者同士の連帯を描きながら、タンダの兄たちなど「村」に生きることにも触れられる。周囲の目や噂話を気にしなければならない村の暮らしに「難しそうだね」とバルサが言うと、師のトロガイは「そのかわり、何かのときには支えてくれる人の輪がある。私たちのようなはみ出し者は気楽だけど、支えてくれる手もないし、何かが起きればこうして疑われ、憎まれるのさ」と言うのだ。こういうリアルさも埋め込んでくる物語である。

タンダが「村」に生きる兄たちと折り合いが悪いこともそうだし、なんといってもチャグムとバルサ・タンダたちの関係が熱い。帝たる父との間に親子の情の通わないまま生きているチャグムだが、バルサやタンダとは互いに強い絆を感じている。家族やクラスメートとうまくいかなくても、それがすべてじゃないんだよね。バルサとチャグムとの再会の場面に、シリーズの愛読者たちは胸を熱くする。

体を乗っ取られたタンダの戦いっぷりがすごい。読んでるだけで痛いー! 人類学者だという著者が、架空の地方や民族の気候、風習、宗教などを生き生きと書けるのはなんとなくわかるけど、戦闘場面の毎度のすごさは、どういう素養なのだろう?