「ボクらの時代」 市川海老蔵×中谷美紀×伊勢谷友介

面白かった。「利休にたずねよ」の宣伝だが、「白洲次郎」を始めそれ以前にも共演歴があったり、「当時のガールフレンドと一緒にうちに遊びに来たのが最初だよね」なんて暴露(?)もあったりで、ざっくばらんに話をする3人。そろって個性的で、俳優といっても色は全然違うし、まったく別々の方角を向いて人生歩んでいるようだけれど、昔の彼女のことにしろちょっとした「脛の傷」を晒すこともできるし、熱く持論を語ったり、相手の言うことに耳を傾けたりと、同世代って感じだなあと思った。しかも、30代半ばの同世代感。それなりのキャリアがあり自信があり、けれどまだまだギラギラしてるよ、ってとこもあり。にしても、30半ばで帝国ホテルの一室が似合うって、やっぱりゴージャスな3人よね。かくありたいもんだ(無理)。

「玄関に掛け軸を飾っている、しかも四季折々で掛け替えている」と言う中谷に男ふたりがのけぞる場面があったが、よく知られている、ヨガや茶道への傾倒や、そして性格はいかにもさばけていそうなところも含めて、この人の「いかにも大人の女優」って感じがすごく好き。自分で自分の整え方を知っていて、それがどう見られようと艶然と笑っているような感じ。マイペースといえば伊勢谷友介もたいしたもんで、我が夫が「こんなに喋る奴だったとは…」と引き気味の熱弁はどこか日本人離れしている。「ずぼらとはパンツを脱ぎ散らかしてるようなこと」と定義した後で「俺はずぼらだよ」と堂々と言ってたのには好感がもてた(笑)。

ふむーと思ったのは、英語に堪能だったりと、スマートな印象のある伊勢谷が、意外と“自分に引き寄せて”話をする人で、一方、海老蔵は割と人の話を聞いてるんだな、ということ。環境問題に取り組む活動について伊勢谷が話し終わるやいなや、「結婚しないの?」と尋ねる海老さん。伊勢谷が「いきなりすごいこと聞いてくるね」と苦笑すると、「いや、やってること聞いてると、そういう人には、サポートしてくれたり同志のような存在が必要なんじゃないかなと思って。俺の中では繋がってるんだよ」と真顔で説明。昔、クイズミリオネアで、関ヶ原の戦いと答えるべきところ、悩みに悩んだあげく桶狭間と答えるのを見たときには私の中で「チーン」という音が鳴ったが(だって大人って以前に歌舞伎役者ですよ)、飛躍しつつも自分の聞きたいこと、しかも結構本質的なところにズバリと斬りこんでいく資質は稀有だよなーと思った。

「利他の究極は利己、人が喜んでくれることがうれしい」(伊勢谷)、「わかる。自分のためだけに頑張るのにはもう疲れた、だって自分が食べるためだけならもうやらなくていいもん、ごはんとお味噌汁とちょっとした魚でもあればそれでいいんだから」(中谷)と、老成した意見を述べるふたりに、「えっ、全然わかんない」と驚く海老蔵。さぞかし利己的な見地を披露するかと思いきや、「でも、お客さんが喜ばないと存在する必要のない文化だよね?」という伊勢谷の問いに、「それはもちろんあるけど、たとえばひとりもお客さんが来なかったとしても、その時期をしのがなければならない。自分のためとか、飽きるとかを、そもそも前提としてもってないんだよね。伝統芸能だから。運ぶため、つなぐためのDNA」。リアルだった。

実は最近、海老さんに対する印象がちょっと変わってる。やっぱりお坊ちゃんなんだなあ…と。スポイルされて育った結果、尊大で唯我独尊な若造ができあがった…ってのが世間の印象のひとつだと思うし、舞台映えする容姿や存在感にはひれ伏しつつも、どっちかというと私も「ゴーマニズムえびぞー」って見てたところがあったけど、そういう「お坊ちゃん」じゃないの。苦労人でありつつ世の中の毒に少しも染まらなかったような故・団十郎に、掛け値なしに愛され、大事にされて育ったんだなーっていう、「スレてなさ」を、最近、彼を見ていると感じるのだ。自分の捉え方にも、人の見方にも、実はヒネたところがないなって。これぞまさに自尊心・自己肯定感だなーと思う。

それから、更新頻度が話題になってるブログも、見てみると、昼食とか、散歩風景とか、稽古場にてとか、本っ当に些細な、他愛ない日常ばかりなんだけど、それが妙にポジティブなのね。「今日は、この美味しいお茶を励みに乗り切ります!」とか、「先輩方との稽古…緊張します。学ばなければ…」とか、「娘/息子/奥さんがどーのこーの」とか書いちゃって、「女子かww」「優等生かww」「マイホームパパかwww」と鼻白みそうになりつつ、どこか淡い感動を覚えている自分が。ほとんど一年中舞台に立ち続ける商売、一年の半分近くは旅興行な商売、家柄としてはヒエラルキーの頂点に立っている千両役者とはいえ、役者としては若輩者で容赦なく劇評で叩かれる商売、父という庇護者を亡くして市川宗家を担っていること、「やーめた」って言えない商売…。

モチベーションを維持し、ポジティブに進むために「小確幸」は欠かせない。そのためにブログを活用しようとするのは、しがない一般人の私にもわかる。小林麻央のような、いかにも尽くしてくれそうなお嬢さんを伴侶としたのも、そういう本能なんだろうな、と思う。結婚後に放送された「プロフェショナル仕事の流儀」で、「父のことを好きだし尊敬しているけれど、家族であると同時に師匠でもあるから、どうしても、普通の会話というのがしにくかったりする。(麻央さんには)そういう気兼ねをしなくていい。だから楽しい」と言っていたこともあった。

今回の鼎談で、中谷美紀が「うつけ者が歌舞伎をやってるの? やってるうちにうつけ者になったの?」と質問したのも面白かったが、本人がそれに対して「後者」と答え、説明したその理由を聞いても、破天荒に見えて、実は育ちがよく、実直で、いいコなんじゃないかって思えてきてる。なんか、健全なんだよね。そういうところはやっぱりお父さん譲りで、当代猿之助あたりのほうが、実はいかにも役者っぽい、どこか狂気や屈折、それゆえの理知を感じさせるところがあるなあ、と。まあ、同じ歌舞伎の家の御曹司とはいえ、生まれた家によってずいぶん違うとこありますからねえ、環境って。で、もちろん、独特の稚気や大きさを醸し出す故団十郎はすてきな役者だった。海老蔵の行く末も楽しみ。