第86回箱根駅伝

31歳にして初めて箱根駅伝、正式名称:東京箱根間往復大学駅伝競走を見ようという気になったのは、去年三浦しをんの傑作『風が強く吹いている』を読んだから。
しかし、寛西大学陸上部(?)が本大会に到るまでの四季を夢中で追っていった小説とは違い、現実世界の私には、思い入れのある出場チームもなければ何の事前情報も得ていない。果たして本当に楽しめるのかなあ・・・?とちょっぴり疑いながら、若干寝坊しての1月2日の朝を迎えたのだが、なんのなんの。見始めると、テレビの前からなかなか離れられない自分がそこに。

駅伝といえば結局は襷をつないで1番にゴールしたチームが優勝なんだけど、往路と復路の2日間に分かれていたり、それぞれの区間に特色があったり、往路優勝したチームから10分以上差をつけられると、翌日の復路で繰り上げ一斉スタートになるとか、昨年10位以内に入ったチームがシード権によって無条件出場資格を得ているとか、そういう細かなルールや見どころを小説でマスターしていたのは、大会を楽しむ大きな助けだった。

でも、もしそれがなくても、ごぼう抜きするようなスター選手や、1年生ながら上級生たちを圧倒するような才能あふれる選手もいれば、昨年、無念の途中棄権してリベンジに参上した選手、苦痛に涙するほど顔を歪めて走る選手、頻繁にいれかわる順位や来年に向けてのシード権争いなど、その日いきなり画面を見るだけでも全然拳に力が入る。襷をつなぐために懸命に走りぬく姿は文句なく美しく、マラソンとはまた違った面白さがあるもんだなあ。ところどころ涙してしまった。

ありえない速さで山を駆けのぼった東洋大・柏原選手や、力強い走りで見事11人抜きを達成し花の2区の区間賞をとった日大・ダニエル選手、同じく2区で10人抜きした驚異のルーキー・東海大の村澤選手が目立ったのはもちろんだけど、私にとってくっきりとした印象が残ったのは、駒沢大の主将・宇賀地選手。

1区で20チーム中18位と出遅れて帰ってきた1年生を笑顔で激励しながら迎える姿がとってもさわやかで、彼から襷を受け取ると猛然と追い上げてきっちり5人抜き、13位で3区へリレー。エース区間といわれる花の2区で区間3位という好記録だった。4年生ってことは今春、卒業する可能性が高いよね。実業団で長距離をやるんなら、ぜひ今後も応援したいなあって思っちゃう選手だった。駒大チーム自体も、結局、1区の18位から最後は総合2位(復路優勝)まで順位を上げて、なんかすがすがしいチームだった。

一方で、どんなスポーツや大会にもあるんだろうけど、いろんな問題点を抱えているのもわかった。や、前からなんとなく知ってたんだけど、実際に見てみると、こんなに面白いからこそ、注目度が高いからこその問題なんだ!といっそう慄然としたというか。こんなもんを全国ネットでテレビ中継してたら、そりゃあ問題も深まるわ。

関東の大学しか出場資格がない箱根駅伝が、事実上、大学駅伝最高峰の大会になっているということ。全国大会は箱根よりも時期的に早く開催されるので、箱根の有力校なんかは、全国大会には1軍オーダーを組まなかったりするらしい。これって九州人としてはどう捉えたらいいんですか。これじゃあ、関東以外の大学は、どうしたって強くなれないよ。高校時代の有力選手は、箱根を目指してみんな関門海峡を(あるいは津軽海峡を、瀬戸大橋を、関が原を、逢坂の関を・・・)越えちゃうもん。

そして、箱根駅伝を最大の念頭において4年間トレーニングをすることは、必ずしも将来的に世界と戦えるマラソン選手やトラック選手を育成することにつながらない。たすきをつなぎながら約20キロ走る箱根は、激しい駆け引きをしながら一人で42.195キロを走り抜いたり、黒人選手や白人選手との身体能力の違いとも戦わなければならない長距離トラックレースと、まったく異なる練習をするから。箱根を目指しすぎてそこで燃え尽きたり、過酷すぎる練習で深刻なダメージを体に受けて、大成しない選手もいる。(まあこれは高校野球とかにもいえる問題だろうけど)

もちろん、「駅伝は日本が誇る文化。なぜ、マラソン選手やトラック選手育成のために、駅伝をセーブしないといけないの? そもそも、マラソンやトラックで世界一になることに意味はあるんですか? 2位じゃだめなんですか?」と言われたらそれまでなんだけど、やっぱり、世界陸上やオリンピックで日本人選手が世界と互角に戦うのも見たいし・・・。

あと、今回の大会後、「全区間の中でも特殊な山登り区間である5区の結果で、レース全体の優勝が決してしまう現状はいかがなものか」なんて意見が主催者側から出たらしい。瀬古さんなんかも、「もう1区から4区はいらないんじゃないですか」と言ったとかなんとか。

“山を制するものが箱根を制す”なんて格言は以前から聞いたことがあるけど、確かに、初めて見た者にとっては、正直同意する部分もある。2000年代に入ってから5区の区間を伸長したらしいけど、以来、5区の区間賞をとったチームが優勝し続けてるらしいもんね。一昨年までの今井さん、去年からの柏原さんという「山の神」たちがいかに凄いのかって話なんだろうけど、やっぱり復路まで優勝争いは持ち越してほしいし・・・。ただ、もちろん、区間伸長したのも主催者側の意思だったんだろうから、おまえらが言うなって感じだし、そんなこと言われちゃ柏原さんも浮かばれないよね。

ともかく、またひとつ正月に、人生に楽しみができた感。来年も見ることでありましょう!