『舟を編む』 三浦しをん

 

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

 

 

読んだ。ついに読んだよ! 本屋大賞をとり、累計100万部突破し、豪華キャストで映画化・・・もう、何度単行本を買おうと思ったか知れない。でもそのたびに「私は文庫派なんだ! 必ず文庫化されるのがわかっている小説に対して、そう簡単に例外を作っていいのか!」と自分を諌めて、はや数年。本屋で文庫の表紙を見つけても冷静な心持でいられたくらいに時が経ちましたよ。

でも読んだらやっぱり面白いのよね。一気にいった。“白しをん”しかも職業モノは、やっぱりマンガだなーと思った。

「地面に足が重くめりこむ思いだった」り、恋の応援を頼むためおばあさんに「ヌッポロ一番」をひと抱え賄賂に差し出したり、「突如として霊界からの声が聞こえたと言わんばかりに」目を見開いたり、「歯痛を起こした芥川龍之介、といったように」難しい表情だったり、そういう、リアルからは遠い表現やキャラ数々が文字で語る物語になっていることに、読み始めはちょっと戸惑うんだけど、やがてギアが入りドライブかかってぐんぐん勢いつけて読み進め、いつしか快感になる。

「情熱だけでなく理性も求めていると、脳みそも含めた体じゅうが告げていた。」

とか、

「痛みを感じるほどの速度で、熱の塊が西岡の喉を上ってきた。離れられずにいままでずるずるつづいてきたのは、好きだからだった。この世のなによりも俺を苛立たせるときがあるのに、どうしても手放せない。手放したくない。」

とか、

「人間関係がうまくいくか不安で、辞書をちゃんと編纂できるのか不安で、だからこそ必死であがく。言葉ではなかなか伝わらない、通じあえないことに焦れて、だけど結局は、心を映した不器用な言葉を、勇気をもって差し出すほかない。相手が受け止めてくれるよう願って。」

とか、登場人物の切実な思いが記述される場面の、たたみかけながら昂揚してゆく文章も、マンガのモノローグを思わせるものがある。この「マンガ的ユーモア」と「マンガ的切実・情熱」とが絡み合ってしをんワールドが展開され、私たちの胸を熱くするのだ。

それがダメだとか、軽いとか言ってるんじゃないよ。それが滅法面白い、巧いって言ってるんだよ。何しろ、しをんさんといえば日本で有数の「マンガ読み」。そのキャリアが小説に生きてるなあ、と思う。もちろん、マンガ以外の本も並外れて読んでいるから、「マンガの文法で小説を書く」ことにもっとも成功しているんだろうなあ。なおかつ「マンガ文法」じゃない小説も書けるのがしをんさんの強みなんだけどね。『光』とか『秘密の花園』とかね。

あと、変わり者で苦労する人間だけじゃなくて、如才ないほうの苦悩(本作でいう西岡)も描き込むのもしをんさんらしいなと思う。それがまた、彼女が支持される理由なのよね。

映画も見てないけどさんざん話題になったので、馬締は松田龍平のイメージで読んだ。香具矢に宮崎あおいってのはどーなんでしょーか?と個人的には思ふ。松本先生は加藤剛なのか! なんつー贅沢な!! そのキャストは知らんくて、完全に石橋蓮司のイメージで読んでたわ。え、岸辺みどりは黒木華なの? え?え?地味じゃね? そこは山本美月とか、そっち系じゃないの?

文庫版の装丁は、連載中(これ、『CLASSY』に連載してたってのがすごい話よね・・・)にイラストを描いていた雲田はるこによるものみたいだけど、ここは断然、単行本と同じにしてほしかったなー。あの装丁がいいんやんね。

 

舟を編む

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