『軍師官兵衛』 第28話「本能寺の変」

一度見たら即・消す(私は大抵、20時過ぎから追っかけ再生している)習慣がすっかり身についた「官兵衛」ですけど、今週はとりあえず録画を保存しとくことにしました。

前日、『信長のシェフ2』の初回録画を見ながら、「これ大河の10倍面白いわー(ゲラゲラ)」なんてほざいてたのが嘘のよう。岡田くんサマサマです。もちろんツッコミどころもいろいろとありますが。まぁ最初から見ていきましょうね。

先週ラストのおさらいってことで、小朝師匠の朗々たる言挙げが再び挿入されます。「我らはこれより、京へ向かう」。かっこいいですねー、すばらしい口跡ですね。「敵は本能寺にあり!本能寺にあり!!」うわっ やっぱり今週もかぶせやがった。演出のバカバカー

で、夜霧の中を光秀軍が粛々と進んでいるよしもない本能寺の信長が・・・・って、信長&お濃ちゃんじゃねーかw 盛大に噴いたwwww このシーン、まだアバンタイトルなんだけど、もうここで信長が光秀謀反を知るより先に、私が本編のグダグダ感を察知したw どこの世界に、本能寺で濃姫と布団並べて寝てる信長がいるんだwww …って、ここにいたよwwwwwww

だから、以降は、達観して見てる私が居たっちゃ、居たのよ。なんせ、本能寺でお濃ちゃんとツインルームとってる信長だから。そりゃ、彼女が斬られれば「お濃ーっ!」と絶叫するだろうし、駆け寄って「しっかりいたせ!」と抱きかかえるだろうし、もうダメだと悟ったら「わしの女房はそなたしか務まらなかった」とかスイートでテンダネスな言葉を囁くってもんですよw

天下の織田信長までもが、「夫婦愛」を求められるだなんてさ。21世紀、堅苦しい時代ですよねw

私が見たい本能寺って、決してこーゆーもんではないんだけれど(笑)、このドラマの信長ならこーゆー本能寺だろうな、って感じで、これはこれでね。うん。

や、しかし、謀反を知らされてからの信長・・・けっこう良かった気もするの。実は。白い寝間着で脛をチラチラ見せながら闘うっていう「ちょいエロ」もちゃんと押さえてたし(笑)、何より、信長が顔色ひとつ変えないっていうか、どっちかというと生き生きしてるのが面白かった。定番の「是非に及ばず」にも、怒りや悔しさも、生への執着もなく、かといって淡々として悟りきってるわけでもなく。なんか、すんごくサバサバしてたんだよね。全体。

大弓で戦い、長槍で戦い、やがて小手を斬られるまでの殺陣も、勇壮でなかなかのもんだった。江口洋介、殺陣、いけるやん。なんか、本能寺の江口さん、ちょっと頬がコケた感じで、乱れた鬢も相まってワイルド。強気で、最後まで生気にあふれてるんだけど、だからこそ「あーもうすぐ死んじゃうんだ」って、ちょっと切なかった(今日は良い視聴者のワタシwww)

(虫の息のお濃ちゃんにとどめを刺したあとw)次々と襖をあけて、寺の奥へ奥へと向かいながら挿入される、「生か死か。生か死か。生か死か・・・」ってモノローグが超安っぽいのも、数々の回想シーンがすべてそらぞらしいのも、まさしくこの信長らしいんだけど(笑)、結局、作り手は、この信長を「駆けてきた / 賭けてきた」というふうに描きたかったんだろうと思う。

序盤で、「信長の賭け」っていうサブタイトルの回、ありましたよね。その「賭け」とやらの内容が、ほとんどナレーションと説明セリフだけで終わってしまったという、脚本の底が知れた回でもありましたが(笑)、あれが象徴するように、信長は「駆けながら賭けてきた」一生だった、ってことにしたかったんだと思う。実弟をその手で殺したのも、桶狭間今川義元を破ったのも、賭けに勝ったから。負け戦で森の中をさまよって秀吉に救出される描写もありましたね(笑)。あれは「賭けに負けそうになったけど負けなかった」、“もっていた”という描写だったんだと思う。(さんざん文句言いつつも、けっこういろいろ覚えてる自分がイヤだww)

生か死か、命をかけた賭けは、勝てば続き、負ければそこで死ぬが、賭けとは本来楽しいもの、「遊び」の要素を持っているものだ。だから悲しむ必要も、悔いる必要もなく、自己陶酔としか思えない胸を張るポーズのあとで(笑)、「存分に生きた」と言って信長は死んでいったんだろう。切腹でなく自刎だったのも、武士の美学を…なんていうのより、型にハマらない破天荒兄ちゃんとして死んだ、って描写なんでしょう。まさに、 「遊びをせんとや生まれけむ」。2012年から引き継がれてきた大河ドラマのテーマです(違)。

で、「賭けに負けた=運が尽きた」信長に対するところの、「運が開けた」秀吉、っていう構図になるわけよね。うん(シャレ 笑)

まあ、これを、綺麗な構図、筋の通った脚本というには、これまで20数話の過程はあまりにも杜撰だったわけでね。とても称賛する気にはなれませんが、いちお、「運」という意図で脚本書いてるんだろうな、ということは想像がついたので記しておきます。

あ、お濃ちゃんが弓を引いて戦ったとき、「おお、そういえばお濃ちゃんの初登場は、信長にサポートされての弓の練習だったじゃないか! あれはこのときのための・・・!」とちょっと瞠目してしまったワタクシです。信長の殺陣になる蘭丸たちと、それを囲む明智勢が、綺麗な円を描いているのを空撮で映しましたが、うん、まあ、アリかな。こういう派手なわかりやすさも多少は。

それはいいんだけど、なんでここに弥助いないのww 鳥取城の戦いや光秀謀反までの経緯等、大事なもろもろをさしおいて、わざわざ、わざわざ弥助登場シーンを作っておいて、なぜ本能寺に連れてこないww 何のための弥助だったんだよwww

閑話休題。さすがに電話やメールで備中まで事変が届くことはなく、タイムラグ的なものを描いてたのは良かったです。すごく蒸し暑いとか、やけに静かとか、いかにもな描写だけど、基本よね。ただ、熊之助くんの夜泣きは要らんかった。お願いだから美紀サマに良いシーンください。なんせ中谷美紀なんで。ほんとに。

ここで小寺のバカ殿が再登場してきたのにはちょっと驚いたし、とってつけた感に批判的なツイートも散見したけど、私は悪くなかったと思います。ま、脚本に何ら見るべきところはありませんし、鶴太郎の演技にも辟易としたけども、とりあえずホワイト官兵衛が強調された場面、ってことで。嵐の前の静けさ、ブラックの前のホワイトですよ。

名前だけでも長谷川宗仁が出てきたのは僥倖とすべきなのか…? 命がけで辿りついたイケメン使者が泰蔵兄ちゃん@カーネーション!!! 「官兵衛である証拠を」って言われて、最初から一目瞭然の顔の傷と脚とを示す官兵衛やん&それで納得する泰蔵兄ちゃんが、双方ともに頭が良くなさそうな感じなのは気になったが(笑) 、もうここから、岡田くんの演技はすばらしいのだった。泰蔵兄ちゃんを捉えたのが桃李くんの長政ってのも良かった。こちらは綺麗な顔をした華奢な若武者だから、岡田くんの渋さと良いコントラストになっていた。

まあ、ひとつ言うなら、山を越え谷を越え、大事に持ってきた宗仁からの文が、まさかの楷書!!  いくら「わかりやすい大河」を目指すからって、やめてほしいもんです、脱力するからww 

とまれ、内心の激しい動揺をつとめて使者には見せないのも良かったし、独りになってからめっちゃ悪態つくのも良かった。こんなところで信長に横死されちゃあ、今までの苦労やらお膳立てやらはどうなるの、って話ですよね。毛利との戦だって、これわかったら一気に形勢逆転されちゃうかも。それに、ああ、なんで、光秀の謀反を見抜けなかったんだ俺のバカバカ、こないだわざわざ坂本城まで行ったのに・・・。っていう悪態ですよねw でも、スッと、表情があらたまる。

いよいよ秀吉のもとへ告げにゆくときには、完全に心が決まってるんですよね。横向きに体を折り曲げ、武将らしからぬ寝姿の秀吉。手紙に手を伸ばす秀吉の手から、ほんの少し、引いてみせる仕草もかっこいい官兵衛やん。ゆゆしき事態を察する秀吉。軽く頭を横に揺らしながら読むのがいい。で、野々村議員のように(笑)泣き叫び始める。

秀吉の動揺、身も世もない「ののちゃん泣き(笑 でもののちゃんのほうが数段、上でしたね笑)まで想定内での「殿、お気を確かに。一刻を争うのです」なんだよね。その落ち着きはらった口調からの、「わかりますか?」三連発で一気に狂気を噴出させる。

「殿のご運が開けたのですぞ。開けました。ご運が開けました。」

なんでも岡田くん、「このセリフを言いたいがために役を引き受けた」と言ったとか?(直前の特番で言ってたのかな?私、DASH島の水路づくり見てたんで…) 

私はっきり言って、このセリフが良いとは思えない。このセリフが戦慄をもって視聴者の胸に響くとしたら、それはこれまでの積み重ねがあってこそだと思う。積み重ねは、これまで、皆無といっていいほど、なかった。さっき「信長の生き方は賭けである」の云々、と書いたけど、そのことと官兵衛あるいは秀吉とのかかわり方、または「運」についての官兵衛のとらえ方や変化など、これまで脚本は少しも示していない。

これまでの官兵衛に、信長の施策について考えを巡らせたり、半兵衛の遺言について咀嚼した形跡はなかった。彼の願いは最初から「太平の世」だったのだから、「信長の死=秀吉の天下取り=太平の世」というロジックでやっていこうとしてるんなら、あまりにも子供だましだと思う。来週、なんらかの、解釈が加えられるのだろうか? いや、やっぱり、このドラマはどこまでいっても唐突で場当たり的なんじゃないかと思う。

それにしても、それにしても、だ! あの場面には引き込まれた。「このセリフのために引き受けた」という岡田くんの意気込みどおり、視聴者としても、「この場面のために今まで見てきた」ような気分になったのだよ、実のところは、あのセリフにゃ大した背景はないんだが(笑)。この大河ヲタのあたくしが、錯覚でもなんでも、カタルシスを感じたんだからそれでいいって気分になったのだよ! 

主君に暗示をかけるあの凄み、見開いた瞳と暗い笑み。頼もしくて恐ろしく、ギラギラしてるんだけど下品にはならない。このぬるま湯のような大河に、よくぞ主役自ら、狂気にすら近いような緊張感を持ち込んでくれた! 

続く、ちょっとした長台詞、「今は亡き竹中半兵衛様の思いをお忘れか。半兵衛様は殿が天下に名乗りを上げるのを待ち望み、それがしが軍師で支えるよう言い残して逝かれました。今こそそのときでございます! 上様の死を毛利に悟られる事なくすぐさま京に引き返し、誰よりも早く、謀反人明智光秀を討つのです。それこそが亡き上様のため。そして、天下のためでございます! 」 これも本当によどみなく、力をこめて言いきりました。岡田くんさまー! 

「誰よりも早く謀反人明智光秀を討つのです」この言霊。

私たち後世の人間は、当たり前のように光秀を「謀反人」ととらえているけど、この瞬間は、どう転ぶかわかんない段階だからね。このまま光秀がいろいろうまく立ち回ったりしたら、大罪人織田信長を始末して天下を平定した英雄になってたかもしれないわけだからね。そこに、官兵衛が、ハッキリとくさびを打ちこむわけですよ。「謀反人,光秀を討て」と。

この言霊がね、「ハイ出た未来人ーおまえ絶対後世からタイムスリップしてきてるだろ」って浮いて聞こえなかったの。脚本的には、浮いて聞こえるぐらいの軽さしかないのに! これは完全に演者の力!

受ける竹中直人の演技もすごく良かった。官兵衛に首根っこつかまれたように凄まれた瞬間、慟哭から、恐怖を感じたような表情に変わるのね。ああいう表情は、やっぱり、竹中直人香川照之か、ってとこよねw で、すぐさま「そうするしかない」と判断できるところは流石は秀吉なんだけでも、でもどうしていいのかはわからなくて、官兵衛に縋って、それを官兵衛がすべて受け止めて「おまかせください」と言うと、子どものようにシクシク泣きだす。

このときに感じた一瞬の恐怖がさー、のちに天下人となる秀吉が、官兵衛を遠ざけてゆく無意識の理由になっていくのかな、なんてうっすら思った。そーゆー脚本になるのかどうかはわからないけど、そうなってもおかしくないな、って思える、岡田くんの演技だった。

これさー岡田くんだからいいけど、ホントの秀吉が、おっさんの頬を両手で挟んで口づけせんばかりに顔近づけてさー、こわいよねw まあ岡田くんだからいいんだけどw ここでキスされそうになった岡田くんが敬虔な表情で目を閉じて、ゆっくりと開く演技もすばらしくよかった!

そして、ここでこの回を切るのではなく、さっそくに恵瓊を呼び寄せるとこまでやったのがまた良かったね(珍しいベタ褒め)。もう、岡田くんが、官兵衛になりきってるからね、官兵衛は、軍師になりきってるからね、どこでどう目覚めたのかわかんないけど(そこはしつこく言い続けるよ)。

「早急に和睦を結びたい」と単刀直入に切り出し、「八か国を本領安堵する」。いぶかしみ、そこはさすがに「まさか」と察する恵瓊に、大きく息を吸って、言っちゃうわけですよ、「信長公が亡くなった」と。もう、この場面もすべて岡田くんがすばらしくてねー! 「おまかせください」なんて簡単に言っちゃったわけじゃないんだよね、この会談がまずどう転ぶかで、戦局はガラッと変わり、当然、多くの将兵や一族らの命も危うくなる。一世一代の「賭け」に出ている男のオーラがバンバン出てた

信長の死を早々にバラしちゃったのには賛成します。もう岡田くんの演技には心配ないとして、どーか来週、毛利が矛を収めるのが自然な展開に感じられる脚本になりますように!!

あ、その他、簡単に。

家康は、自刃を覚悟するも四天王に諌められて・・・のパターンでしたね。今回が「運」という観点で描かれたことから見れば、このときの家康は、「運を自ら手放そうとする程度の器」であったともとれるし、「風前の灯火であった運を再び掴み取り戻すことのできる大器」であったともとれるような。

光秀。討ち入りを外から眺めつつ、扇子で刀の柄を神経質に叩く仕草はよかった。あとはまあ、平々凡々かなー。娘さんがちょろちょろしてることの意義が見出せなくて困る。朝廷黒幕説ではなかった。

視聴率は、17.5。まあ、そうなるわな。直前スペシャルまでやって、さもしいなと思うけど、でも岡田くんの頑張りは報われてほしいもんねえ。マジでこのドラマ引っ張ってるのは脚本じゃなく演出でもなく岡田くん。岡田くんサマサマー!