『隠し剣秋風抄』 藤沢周平 

隠し剣秋風抄 (文春文庫)

隠し剣秋風抄 (文春文庫)

昭和50年代前半、雑誌『オール読物』に連載された剣豪短編を集めたもの。『隠し剣孤影抄』の続刊にあたる。

「●●剣◇◇抄」のタイトルで全部で17の短編(中編)が書かれたわけだが、いずれ甲乙つけがたい快作・秀作ぞろい。●●=主人公の属性、◇◇=剣の技の名前で、この辺、名編集者が一緒になってアイデア出しをしたのかもしれないけど、ともかくすばらしいバラエティ。読後はずらっと並んだ目次を見るだけで感嘆のため息が洩れる。

権力絡みの陰謀譚もあれば、とぼけた風味の小作もあり、ハッピーエンドもバッドエンドも混在している作品集である。(別に最新作じゃないしネタバレしてもいいよね。)「陽狂剣かげろう」には端緒から明らかに破滅の気配が漂っていたし、偏屈剣蟇ノ舌も“巻き込まれ型”に類型されるのだなと納得したけれど、であればこそ、次の「好色剣流水」はタイトルからいってもひょうきんなままでほのぼのと幕引きかなーと想像していたので、思わぬ展開に驚いた。もちろん、その驚きも含めて抜群に面白いのだ。

藤沢作品すべてに共通することだけれど、文章が抜群にうまいので、それを味わっているだけで幸せっていうのもある。

最後の「盲目剣谺返し」は、映画『武士の一分』の原作で、当時DVDで見たあと本屋にて立ち読みしてたから、これだけは数年ぶりの再読ということになる。今でも、新之丞=木村拓哉、加世=檀れい、徳平=笹野高史、以寧=桃井かおり、に脳内変換して読んでしまうんだけど、これがイヤな感じじゃない。「藤沢作品にキムタクって!」という視聴前の衝撃はただの先入観だったらしく、何年も経っても、私はあの映画化が好きだったんだなーと思う。うん、真田&宮沢でやって「たそがれ清兵衛」より好きかも。